【特待生集結】20190307 プレバト!!俳句紹介【春の号外】
- 2019/03/07
- 21:00
2019年3月7日放送 プレバト!! 第3回俳句特待生一斉昇格試験結果まとめ
特待生2級~5級の面々が一斉昇格査定スペシャルで詠んだ俳句を紹介します。
●お題:春の号外(番号クリックでリンク内移動します)
●挑戦者エピソード
柴田:挑戦者の事前アンケートで「先日夢で素晴らしい俳句を思いついたのにどうしても思い出せませんでした」
北山:新聞のインタビューで「俳句の締め切り前は発狂寸前」
大和田:東北を舞台の講演で回っていて、主催者の方がロビーに「特待生おめでとう!」と貼ってくれて嬉しかった。
鈴木:あまりに柴田さんの句が素晴らしくてまた自信を失いつつある。ただ頑張って作りました。
岩永:頭の中が俳句のルールになってしまい、芸人のたんぽぽの白鳥は、春の季語と冬の季語で季重なりではないかと思ってしまう。
石田:事前アンケートで「最近プライベートで良く老人ホームに行く」。親族の関係で行くが、老人ホームでのプレバト!!の視聴率が凄い。全然知らないおばあちゃんにずっとダメ出しされる。「あなたの句は本当にダメ!」
ミッツ:事前アンケートで「ライバルはNON STYLE石田」。同じ俳句番組(NHK俳句)をやっていたので意識している。仲間意識もありつつ、こんなところで綺麗に争うかね?
◆『「犯人逮捕」 干鱈を毟る 母の黙』 柴田理恵
※「干鱈(ひだら)」は春の季語。北陸や東北地方の保存食となる鱈の干物のこと。かつては春に京都に運ばれていた。
【本人談】
犯人が逮捕されても被害者の命が帰ってくるわけではなく、家族の悲しみは深い。干鱈は硬くてカチンカチン。食べる時は金づちで叩いてむしる。この母の悔しさを詠んでみた。
藤本名人 「干鱈を毟る母の黙」に想いが詰まっていて凄く良いが、「黙」ねぇ~この番組よく出てくるんですよ。すみません、現状維持です。
浜田 お前が言うてもしゃあないだろ。
藤本名人 すぐ「黙」。
浜田 すぐ「黙」ちゃうやん。
中田名人 いや、私はね。これ「号外」から「犯人逮捕」、「干鱈を毟る」まで持ってきた柴田さんの熱意を感じる。これは夏井先生評価高いと思います。
夏井先生
この句の評価のポイントは季語「干鱈」の是非です。
■査定結果
3級へ2ランク昇格
理由:季語が伝える動作と心情
大和田 凄いじゃん!
鈴木 ツーランク?
ミッツ そんなんもあるんだ?
本人 ツーなんてあるの?
ジュニア すげぇ!
浜田 3級でございます。
北山 そんなことあるの?
本人 (浜田に握手し)ありがとう、ううぅ。
→まさかの2ランク昇格に号泣気味の柴田
ジュニア こんなに素晴らしい句を(フジモンを指し)ボロクソ!お前2ランク降格だぞ!2ランク下がれお前!
石田 藤本さん。(人差し指を口に当て)「もーだ」。「もーだ」。
藤本名人 逆黙(ぎゃくもだ)!
夏井先生
ほんとに力のある句。
あの兼題写真から、あの号外にはどういう記事が載っているのか発想したタイプの句。
鍵括弧で「犯人逮捕」とあれば、新聞の見出しかテレビのニュース映像かくらいまで分かる。
次の季語「干鱈」で地域性も見える。「毟る」という動作。
大事なのが「母」という人物が出てくること。これが出てきた瞬間に「犯人逮捕」という言葉がここでカチッと「母」と意味を結ぶ。子ども、息子なり娘なりが何か酷いことになっていたのではないか。
本人が言ったように、金づちで叩いて叩いて干鱈を毟る。悔しい悔しいという風に毟る。匂いもしてきた。
最後の「黙」。これは藤本名人が言ったことも1つ当たっている。
藤本名人 見・て!
夏井先生
このプレバト!!の俳句コーナーで何度か「黙」を使って添削した。
→画面に岩永が炎帝戦で詠んだ句の添削後「炎帝の黙海底に船の影」が例示される。
そしたら世の中全国の俳句大会のあっちこっちで、最後「黙」で終わる句が山のように出てきた。
本人 そうなの?
藤本名人 そう、それを言うてるんです。
夏井先生
私も食傷気味だったんです、この「黙」には。
藤本名人 僕も。
松岡 乗っかるなあ。
藤本名人 俳句の大会で「黙」「黙」「黙」「黙」!
夏井先生
「母の黙」とやった瞬間に「毟る」微かな音とか金づちの音とかちゃんと見えてくる。「黙」の中に犯人逮捕の喧騒・声もかすかに聞こえる。
これは「黙」がちゃんと機能した。2ランクくらい上げないといけません。
浜田 素晴らしい。これ当然直しはいらない?
夏井先生 いらない、いらない。
本人 え~!嬉しい!
浜田 おめでとうございます。
本人 ありがとうございます。
藤本名人 良かったね、柴田さん。
添削なし
◆『新社員 号外閉じて 指黒く』 北山宏光(Kis-My-Ft2)
【本人談】
新社員は勉強しないといけないことが沢山ある。新聞の号外閉じたときに手先にインクが付く。そこにポイントを絞ってフォーカスを当てた。
中田名人 いや、北山さん。こんなに繊細なところあるんですね~。
本人 は~い。
中田名人 いや~、凄い繊細で。
藤本名人 あの写真から、「新社員」に発想を飛ばして持ってきたのが、いいよ!(昇格)いったんじゃない?
本人 いい?ホントっすか?(喜ぶ本人)
夏井先生
この句の評価のポイントは「閉じて」「黒く」の是非です。
藤本名人 そこやねんなあ。
本人 ちょっと!
浜田 お前、後付けするな!
本人 手のひら返すの!
浜田 お前、後付けやん。さっきから。
藤本名人 「閉じて」と「黒く」や。
ジュニア 言えや、どうなんよ。
藤本名人 「閉じて」と「黒く」。
ジュニア …がなんなん?
藤本名人 「閉じて」と「黒く」。
ジュニア …がなんやねん、言うてんねん。
■査定結果
5級で現状維持
理由:散文的!
本人 ぶっ!(吹き出す)
藤本名人 なんか、ごめんな。
ジュニア 現状維持で十分やねん。
藤本名人 なんかごめん。
本人 降格じゃない。BGMが降格した時の音じゃん!
→スタジオでのSEはわからないが、放送上では「現状維持」のSEでした。
浜田 降格じゃないんだから、良しとしようよ。
夏井先生
あの写真から、「新社員」を発想できたのは褒めるべき点。
ちゃんと「指」を映像として描こうとしている。映像を描かないといけないということがやっとわかりだした。
本人 遅咲きですから。
夏井先生 それ強く褒める。ホントに強く褒める。
何がもったいないかというと、散文を書く時の語順になっている。
「新社員が号外を閉じてみると指が黒くなってました」という文。これが散文の語順。
せっかく「指」に気づいたのだから指のアップから持っていく。
「指黒く号外を閉ず」と一回終止形で言い切る。
誰が閉じているのかと思うと、最後「新社員」が意外性を持って出てくる。
この新社員はやる気があるのかという感じがする。
本人 これ出来てたら昇格だったんすかね?
浜田 出来てたら先生どうだったんですか?
夏井先生 できてりゃ、もちろんですよ。やってから言えよ!
石田 ごもっとも。
藤本名人 「たられば」はダメ。
[ここがポイント]
散文的にならない工夫
※終止形で切れをつくることを心がけましょう。
添削後
『指黒く 号外を閉ず 新社員』
◆『流されし 魂鎮めしか 春の海』 大和田獏
【本人談】
「春の号外」で思い出すのは2011年の3.11(東日本大震災)。今回俳句を考えているとき東北にいたので、色んな人からいまだに大変な思いをしている声を聞いた。その中で「春の海」(季語)は穏やかで、津波で流されてしまった魂は、この穏やかな春の海でどうか鎮めてくださいという思いを込めた。
中田名人 今、説明を聞いて分かったんですが、「流されし魂」と穏やかな「春の海」を最後の季語に持ってきたのは上手いと思った。
夏井先生
この句の評価のポイントは上五「流されし」の是非です。
■査定結果
5級で現状維持
理由:未発表(「流されし魂」に違和感)
藤本名人 残念ですね~。
夏井先生
3.11を想う気持ち。「鎮め」「春の海」という展開は丁寧に書かれていてそこは良い。
残念なのは「流されし」が過去形"流された"という言い方で後に「魂」が来ること。
果たして魂も流されてしまったのか?魂とは風になって私たちの近くにいる考え方をする日本人が多いのではないか。
上五を外して、「魂」を丁寧に書いてみる。
「魂」も"たま"ではなく、歴史的仮名遣いで「たましひ」と平仮名にする。"たましい"のことになる。
「鎮めて」。どうなっていくか。
「春の海しづか」としてもう一回収める。映像ができる。
今、映像として静かな海が今ここにある。
そうすると、祈りのような調べが生まれる。
本人 気持ちが伝わりますね。
[ここがポイント]
細やかな想いの表現
※多くの日本人が持つ死生観に対して、「流されし魂」では多少の違和感を感じさせます。季語の映像を「しづか」と描写することで、大和田が本来伝えたかった追悼の思いがより印象深く表現できます。
添削後
『たましひを 鎮めて春の海しづか』
◆『センター街 滲む号外 春の雨』 鈴木光
【本人談】
(渋谷)センター街が通学路の途中にある。センター街の夜に雨に打たれてくしゃくしゃになった号外を見つける。号外って凄く大きなニュースなのに、雨に打たれて文字が滲んで風化していく。渋谷のそういった若い街の勢いを詠みたいなと思い作った。
藤本名人 「センター街」っていう名詞ですか?これを持ってきてるのがたまらなく良い。
夏井先生
この句の評価のポイントは中七「滲む号外」です。
ジュニア これがええわ!
■査定結果
5級で現状維持
理由:三段切れ!
ジュニア えぇ?
松岡 えぇ?
北山 いらっしゃい!
浜田 先生から「三段切れ」だと。
本人 あぁ~、そっか~。
松岡 厳し!厳しいね。
藤本名人 えっ?
浜田 そうですか。
夏井先生
これは素材は良く切り取れている。まさに映像。
「センター街」が最初に出てくる。あの雑踏がちゃんと見えてくる。
「滲む号外」によって、場面も一気に見えてくる。
最後の押さえが「春の雨」と。材料の集め方は何の文句もない。
ただ俳句としてのささやかな部分だけ。
「センター街」/「滲む号外」/「春の雨」/と名詞でプツプツ切れるのを三段切れという。
この場合は語順を変えて名詞切れを回避するだけ。
「号外滲む」と逆にするだけ。
本人 三段切れ、ちょっと自分で勉強してなかったんで。消化してまた次頑張ります。
藤本名人 偉いな!
添削後
『センター街 号外滲む 春の雨』
◆『冴え返る A.I.棋士の 白き腕』 岩永徹也
※号外から将棋の名人に勝ち話題となった将棋A.I.に発想を飛ばした一句。
【本人談】
棋士の世界は若手(藤井七段など)もどんどん出てきて、新しく出てきたのが人工知能ロボット。彼らは実際に強くて駒を動かす腕が感情的ではなく冷ややかな感じで動かしている。冷たさを「冴え返る」という春の季語で詠んだ。
夏井先生
この句の評価のポイントは「A.I.棋士」という言葉を使う是非です。
藤本名人 ほら。
ジュニア いいんちゃう、これ。
■査定結果
3級へ1ランク昇格
理由:果敢な挑戦
本人 ありがとうございます。
→隣に座る3級の松岡とガッツリ握手を交わす。
観覧席 フゥ~!(黄色い声)
夏井先生
果敢な挑戦と言いたい一句。
たった17音しかない中にこういう言葉が来るとインパクトが強すぎて、季語に目を向かせるのが難しくなってくる。
そういう所が大変。よく頑張ったと思う。
「冴え返る」は送り仮名「え」がない「冴返る」として載っている歳時記の方が多い。漢字が続くだけで字面が締まる。これ1点。
季語「冴返る」に「A.I.棋士」という硬質な響きを取り合わせて響き合わせた。
最後「白き腕」で映像をきちんと作ろうとしている。もともと白いので、やはり人工なものだと言いたかったことになる。
「白き」の文語より「白い」と口語にすると、人工的な空気がより出るかもしれない。
こういう果敢な挑戦。どんどんやっていただいたらいいと思うが、大事なのは季語を主役に立てる工夫をきっちりやってみてください。
添削後
『冴返る A.I.棋士の 白い腕』
◆『号外を 放つ手取る手 春疾風』 松岡充
【本人談】
手に焦点を絞った。配る人の「これをみんな聞いてくれ」ともらう人の「そのニュースをは早く知りたい」という手が重なっている。「春疾風」は春に吹く強風・春の嵐を指す季語で、ニュースが世の中に嵐を起こすということを詠みたくて。
藤本名人 「放つ手取る手」僕はちょっとやかましいなあ。
本人 やかましいと思いました?
浜田 敢えてそうした?
本人 そうです、号外なんで。
藤本名人 いや、風情がないなぁみたいな、ちょっと。凄いやかましいなあ(号外を配る仕草)。
本人 当たりです!
藤本名人 そこを狙ってるのね?
本人 そうです。
夏井先生
この句の評価のポイントは中七の描写の是非です。
■査定結果
2級へ1ランク昇格
理由:見事な臨場感
中田名人 良かった、アハハ。
石田 (昇格が残り1席で)ヤバい。
本人 ありがとうございます。
藤本名人 素晴らしい。
→ランキングシートで昇格を決めた岩永とハイタッチ。
浜田 松岡、(名人まで)もうちょっとやんか。
本人 ホンマですね~。
夏井先生
あの写真をそのまま映像化しようと、その方向に舵を切って成功した。
「号外」でその光景・場面がこの単語一つで浮かんでくる。
「放つ手取る手」でせわしないけど、せわしない場面を表現した。
ジュニア (指摘が的外れな藤本名人へ)降格やで、お前。
浜田 滅茶苦茶やな、お前。
藤本名人 今日、関係ないもん、降格。
夏井先生
中七で畳みかけることで、どっちもの手が映像として読み手の脳の中に浮かんでくる。
「渡す」ではなく「放つ」という動詞を選んだ。そこが一番褒めないといけないところ。飛ぶような手つきが出てくる。
最後「春疾風」によって取り損ねた号外がパァーッと飛んでいくようなそんなワンシーンも読み手の心の中に浮かんでくる。
「春の風」ではなく「春疾風」にすることで、「放つ手」と響き合って補償している。
もう1つ良いところがある。それは"韻"。
「はなつてとるてはるはやて」と「は」「て」を点在させて勢いのあるリズムを作っている。
浜田 お前、ホンマやろうな?
本人 ホンマです。
藤本名人 松岡さん、たまたまでしょ?
夏井先生 "たまたま"も実力ですから良いと思う。
本人 たまたまじゃないです。
浜田 先生、これ直しは?
夏井先生 これは直さない方が良い。
[ここがポイント]
動作を畳みかける
※号外の現場の人々の畳みかけることで躍動感が生まれ、勢いのある現場の臨場感を表現することができます。
添削なし
◆『春疾風 足絡み付く 号外や』 千原ジュニア
本人 簡単に言うと「放つ手取る手」ということ(→松岡の昇格句に乗っかる)。
浜田 違う!×5
【本人談】
新元号を何とかしたかった。新元号が発表されたときに配られた号外という、新元号とともに生きていかないといけないというのが足に絡みついてみたいな。
中田名人 それ書けば良かったのに。
あ、でも季語がないですね。ごめんなさい。
藤本名人 ちょっと、中田さん。
浜田 何なの?
石田 降格じゃないですか?今の?
夏井先生
この句の評価のポイントは「足」です。
本人 え?
浜田 「手」の方が良かったんか?
■査定結果
3級で現状維持
理由:「足」と書かなくても想像できる
夏井先生
足に絡みついた号外を発想しているところは悪くない。
わざわざ「足」って書かなくても、大体飛んできた新聞紙とかが絡みつくっていうのは足辺りのイメージが強い。
足に音数使うより、主役は春疾風になってほしい。「足」を外してもうちょっとできることがないかが1点。
最後の「や」も据わりが悪くて難しい型。せっかくの発想を損した。
句またがりでカットを変えるやり方で映像を作る。
「絡みつく」から始め、「号外」とする。ほとんどの人が風に吹かれてきた号外が足の辺りに絡みつくと思う。
余った音数で例えば空間を作る。「街の」とすると街の体積が生まれる。立体的に春疾風が吹き始める。
足元だけで春疾風というよりは、空間を作った方が風の季語は生きる。
これは惜しかった。
本人 そうですね。お隣(降格席)誰が来られるんでしょうか?お待ちしておりまーす!
[ここがポイント]
季語を活かす映像の切り取り方
※「足絡みつく」という足元の狭い映像から、「街」という広い空間に映像を広げると春疾風の勢いが増し、臨場感が溢れる一句になります。
添削後
『絡みつく 号外街の 春疾風』
◆『新た御代の 見出し立たん 桜真風』 ミッツ・マングローブ
※「御代(みよ)」とは天皇の治世、各天皇の在位期間のこと。新元号に発想を飛ばした。
【本人談】
近々で号外が出るといったら新元号が発表される4月1日。これを詩にして春風を取り合わせたかったが、「春疾風」「東風」は冷たい風なので、もう少し暖かい風はないかと探し「桜真風(さくらまじ)」という桜の頃に吹く南の暖風を指す季語を選んだ。
■査定結果
3級へ1ランク降格
理由:「新た御代」が文法的に間違っている
夏井先生
やろうとしたことが悪いわけではない。
新しい御代を迎えるという季語として「桜真風」という季語を選ぶ。このセンスはとても良い。
もったいないのは上五。「新た代(よ)」(新しい夜、新しい天皇の御代)は辞書に載っている。
これが新たな御代だというのはわかるが、「御」の字は接頭語で言葉の頭につくもの。そのため、「新た御代」というひと固まりの名詞として捉えて良いのか悩んだ(言葉が文法的に間違っている)。
さらに、六・六・五という調べと格調のある内容とがズレてしまっているのももったいない(内容とリズムが合っていない)。
「新たなる/御代の見出しや/桜まじ」と定型にして、「まじ」と平仮名にすることで「新」「御代」「桜」の漢字がより浮き立って、季語に明るさが出る。
内容と調べは一体化させないといけない。あとはその判断だけ。
添削後
『新たなる 御代の見出しや 桜まじ』
◆『春疾風 号外の紐 ほどきたる』 石田明(NON STYLE)
【本人談】
号外を配るところを詠むというより、紐をほどく瞬間を詠もうと思った。配る人の使命感や周りの人からの圧もあってシャってほどく。素早い紐の動きが春疾風と重なるように思えて詠んだ。
■査定結果
1級へ1ランク昇格
理由:未発表(ほどく瞬間に焦点を絞った秀作)
藤本名人 みんな「春疾風」好きやな~。見つけた時、コレや!思ったでしょうね。でも、勢いがあって凄く良い。
夏井先生
おっしゃる通り。
「春疾風」で春の強い風がある。「号外」で光景・場面が出てくる。「紐」というものが出てくる。
この後どう展開するのかと思いきや、「ほどきたる」。「たる」は今ほどき終わったその瞬間という感じ。
しかも、連体形でこの下に名詞が続く形。「たり」と終止形にしないで、わざと「たる」にした。
本当は号外の束をほどくわけだが、あたかもそこから春疾風が勢いよく動き出すような印象を残す面白い効果をこの句は醸し出している。
結局「春疾風」という季語が主役になってくる。
今回昇格した4人はちゃんと映像を描くということをきっちりやった人たち。
俳句の中で想いを述べるのはなかなか難しいが、映像をきっちり描けば、読んだ人の脳の中にも同じ映像が浮かぶ。
思ったことがストレートに伝わる。お見事だった。直しはいりません。
本人 ありがとうございました。
ミッツ 負けました。
添削なし
編集後記
今回は「春の号外」という一風変わったテーマで、「新元号」を連想した人も多いはず。ある種タイムリー性のあるお題です。
一斉昇格試験としては通算3回目ですが、特待生の数が多くなってきていたので裁く(?)には良いタイミングでした。
フルポン村上以来となる2ランク昇格を果たした柴田さんは渾身の一句でした。東国原名人の発想に似ているようにも感じましたが、地域性のある季語を使うという方向性を確立した印象。一挙に3級まで昇格は大きいです。藤本名人が「黙」の多用を指摘していましたが、原句で出してきたのはこの句が実は初めて。添削後に関しては過去3例あり、番組で紹介された岩永さんの句の他に梅沢名人の「原子炉と溽暑に眠る町の黙」、A.B.C-Z河合さんの「春近し邪気遠ざけて父の黙」というところ。
キスマイ北山さんはフェードアウトしてしまった福澤アナ以来となる5級で3連続の現状維持という結果に。降格は免れましたが厳しい状況が続きます。インクで指が黒くなるという発想はありきたりな印象ですが、季語の「新社員」を頭に持ってくる必然性があるのか、という点が難しいように感じました。
大和田さんも現状維持でしたが、ちょっと置きに来てしまったかなという風にも思いました。鎮魂の思いを込めるのは悪くないですが、魂の捉え方に関して先生と本人とで解釈に齟齬が生じていたようにも感じます。
期待の鈴木さんも現状維持。スタジオ内も驚きの声が多数ありましたが三段切れという指摘でした。脳裏に浮かぶ場面描写力が武器で、雨の発想は良かったのですが、淡々と語った中に「風化」というワードがあったのでそれを書くともっと季語が引き立ったようにも感じました。勉強好きですから、内容をどんどん消化していきそう。次回に期待です。
さて、岩永さんと松岡さんの仲良しコンビは2名とも昇格を決めました。仮面ライダーつながりで俳句も指摘し合っているようで、努力の成果が表れましたね。岩永さんはニュースとなったA.I棋士の腕の色に発想を飛ばしました。「ドット」の使い方も渋いです。対照的に松岡さんは写真を丁寧に描写しました。韻を踏んだのが、たまたまでないのは最後に置かれた「春疾風」で理解できますね。2句とも昇格とすぐわかるほど綺麗な描写で素晴らしい。
ジュニアさんも「春疾風」で勝負しましたが、松岡さんの後だけに発想があと一歩という印象を受けました。最後の「や」も気になりますし、繊細な部分を表現してほしかったというところでしょうか。
ミッツさんは残念ながら残り2人からのバラエティー的展開で3級に降格し、一斉昇格試験で唯一2度目の降格経験者となってしまいました。少し言葉を詰め込みすぎている印象で、不穏なリズムもこの句の内容には合いませんでした。発想の方向性は悪くないので、次回に期待です。
そして、石田さんは号外を配る最初のシーンに発想を飛ばしましたが、着眼力が凄いのと大変シンプルにまとめているのが良かったですね。いよいよ名人王手となり、老人ホームでも今度は褒められるのでは。
さて、今回は見届け人として藤本名人・中田名人が登場。中田名人という呼称を初めて使いましたが、批評・指摘は結構視聴者寄りに発言している感じがして好印象でした。一方の藤本名人はガヤ芸人まっしぐらで通常運転でした。何度も言いますが、10段なんですから。ジュニアさんとの絡みはバラエティーとして悪くないのですが、説得力に欠けるのが毎回気になります。演技なのかもしれませんけどね。次回永世名人への道挑戦だそうなので、そこでどのように評価されるかというところ。
※次回14日の更新は私情により大幅に遅れます(深夜以降に速報版)。ご了承ください。
特待生2級~5級の面々が一斉昇格査定スペシャルで詠んだ俳句を紹介します。
●お題:春の号外(番号クリックでリンク内移動します)
1 | 柴田理恵 | 3級へ2ランク昇格 | 「犯人逮捕」干鱈を毟る母の黙 | はんにんたいほひだらをむしるははのもだ |
2 | 北山宏光(Kis-My-Ft2) | 5級で現状維持 | 新社員号外閉じて指黒く | しんしゃいんごうがいとじてゆびくろく |
3 | 大和田獏 | 5級で現状維持 | 流されし魂鎮めしか春の海 | ながされしたましずめしかはるのうみ |
4 | 鈴木光 | 5級で現状維持 | センター街滲む号外春の雨 | せんたーがいにじむごうがいはるのあめ |
5 | 岩永徹也 | 3級へ1ランク昇格 | 冴え返るA.I.棋士の白き腕 | さえかえるえーあいきしのしろきうで |
6 | 松岡充 | 2級へ1ランク昇格 | 号外を放つ手取る手春疾風 | ごうがいをはなつてとるてはるはやて |
7 | 千原ジュニア | 3級で現状維持 | 春疾風足絡み付く号外や | はるはやてあしからみつくごうがいや |
8 | ミッツ・マングローブ | 3級へ1ランク降格 | 新た御代の見出し立たん桜真風 | あらたみよのみだしたたんさくらまじ |
9 | 石田明(NON STYLE) | 1級へ1ランク昇格 | 春疾風号外の紐ほどきたる | はるはやてごうがいのひもほどきたる |
●挑戦者エピソード
柴田:挑戦者の事前アンケートで「先日夢で素晴らしい俳句を思いついたのにどうしても思い出せませんでした」
北山:新聞のインタビューで「俳句の締め切り前は発狂寸前」
大和田:東北を舞台の講演で回っていて、主催者の方がロビーに「特待生おめでとう!」と貼ってくれて嬉しかった。
鈴木:あまりに柴田さんの句が素晴らしくてまた自信を失いつつある。ただ頑張って作りました。
岩永:頭の中が俳句のルールになってしまい、芸人のたんぽぽの白鳥は、春の季語と冬の季語で季重なりではないかと思ってしまう。
石田:事前アンケートで「最近プライベートで良く老人ホームに行く」。親族の関係で行くが、老人ホームでのプレバト!!の視聴率が凄い。全然知らないおばあちゃんにずっとダメ出しされる。「あなたの句は本当にダメ!」
ミッツ:事前アンケートで「ライバルはNON STYLE石田」。同じ俳句番組(NHK俳句)をやっていたので意識している。仲間意識もありつつ、こんなところで綺麗に争うかね?
◆『「犯人逮捕」 干鱈を毟る 母の黙』 柴田理恵
※「干鱈(ひだら)」は春の季語。北陸や東北地方の保存食となる鱈の干物のこと。かつては春に京都に運ばれていた。
【本人談】
犯人が逮捕されても被害者の命が帰ってくるわけではなく、家族の悲しみは深い。干鱈は硬くてカチンカチン。食べる時は金づちで叩いてむしる。この母の悔しさを詠んでみた。
藤本名人 「干鱈を毟る母の黙」に想いが詰まっていて凄く良いが、「黙」ねぇ~この番組よく出てくるんですよ。すみません、現状維持です。
浜田 お前が言うてもしゃあないだろ。
藤本名人 すぐ「黙」。
浜田 すぐ「黙」ちゃうやん。
中田名人 いや、私はね。これ「号外」から「犯人逮捕」、「干鱈を毟る」まで持ってきた柴田さんの熱意を感じる。これは夏井先生評価高いと思います。
夏井先生
この句の評価のポイントは季語「干鱈」の是非です。
■査定結果
3級へ2ランク昇格
理由:季語が伝える動作と心情
大和田 凄いじゃん!
鈴木 ツーランク?
ミッツ そんなんもあるんだ?
本人 ツーなんてあるの?
ジュニア すげぇ!
浜田 3級でございます。
北山 そんなことあるの?
本人 (浜田に握手し)ありがとう、ううぅ。
→まさかの2ランク昇格に号泣気味の柴田
ジュニア こんなに素晴らしい句を(フジモンを指し)ボロクソ!お前2ランク降格だぞ!2ランク下がれお前!
石田 藤本さん。(人差し指を口に当て)「もーだ」。「もーだ」。
藤本名人 逆黙(ぎゃくもだ)!
夏井先生
ほんとに力のある句。
あの兼題写真から、あの号外にはどういう記事が載っているのか発想したタイプの句。
鍵括弧で「犯人逮捕」とあれば、新聞の見出しかテレビのニュース映像かくらいまで分かる。
次の季語「干鱈」で地域性も見える。「毟る」という動作。
大事なのが「母」という人物が出てくること。これが出てきた瞬間に「犯人逮捕」という言葉がここでカチッと「母」と意味を結ぶ。子ども、息子なり娘なりが何か酷いことになっていたのではないか。
本人が言ったように、金づちで叩いて叩いて干鱈を毟る。悔しい悔しいという風に毟る。匂いもしてきた。
最後の「黙」。これは藤本名人が言ったことも1つ当たっている。
藤本名人 見・て!
夏井先生
このプレバト!!の俳句コーナーで何度か「黙」を使って添削した。
→画面に岩永が炎帝戦で詠んだ句の添削後「炎帝の黙海底に船の影」が例示される。
そしたら世の中全国の俳句大会のあっちこっちで、最後「黙」で終わる句が山のように出てきた。
本人 そうなの?
藤本名人 そう、それを言うてるんです。
夏井先生
私も食傷気味だったんです、この「黙」には。
藤本名人 僕も。
松岡 乗っかるなあ。
藤本名人 俳句の大会で「黙」「黙」「黙」「黙」!
夏井先生
「母の黙」とやった瞬間に「毟る」微かな音とか金づちの音とかちゃんと見えてくる。「黙」の中に犯人逮捕の喧騒・声もかすかに聞こえる。
これは「黙」がちゃんと機能した。2ランクくらい上げないといけません。
浜田 素晴らしい。これ当然直しはいらない?
夏井先生 いらない、いらない。
本人 え~!嬉しい!
浜田 おめでとうございます。
本人 ありがとうございます。
藤本名人 良かったね、柴田さん。
添削なし
◆『新社員 号外閉じて 指黒く』 北山宏光(Kis-My-Ft2)
【本人談】
新社員は勉強しないといけないことが沢山ある。新聞の号外閉じたときに手先にインクが付く。そこにポイントを絞ってフォーカスを当てた。
中田名人 いや、北山さん。こんなに繊細なところあるんですね~。
本人 は~い。
中田名人 いや~、凄い繊細で。
藤本名人 あの写真から、「新社員」に発想を飛ばして持ってきたのが、いいよ!(昇格)いったんじゃない?
本人 いい?ホントっすか?(喜ぶ本人)
夏井先生
この句の評価のポイントは「閉じて」「黒く」の是非です。
藤本名人 そこやねんなあ。
本人 ちょっと!
浜田 お前、後付けするな!
本人 手のひら返すの!
浜田 お前、後付けやん。さっきから。
藤本名人 「閉じて」と「黒く」や。
ジュニア 言えや、どうなんよ。
藤本名人 「閉じて」と「黒く」。
ジュニア …がなんなん?
藤本名人 「閉じて」と「黒く」。
ジュニア …がなんやねん、言うてんねん。
■査定結果
5級で現状維持
理由:散文的!
本人 ぶっ!(吹き出す)
藤本名人 なんか、ごめんな。
ジュニア 現状維持で十分やねん。
藤本名人 なんかごめん。
本人 降格じゃない。BGMが降格した時の音じゃん!
→スタジオでのSEはわからないが、放送上では「現状維持」のSEでした。
浜田 降格じゃないんだから、良しとしようよ。
夏井先生
あの写真から、「新社員」を発想できたのは褒めるべき点。
ちゃんと「指」を映像として描こうとしている。映像を描かないといけないということがやっとわかりだした。
本人 遅咲きですから。
夏井先生 それ強く褒める。ホントに強く褒める。
何がもったいないかというと、散文を書く時の語順になっている。
「新社員が号外を閉じてみると指が黒くなってました」という文。これが散文の語順。
せっかく「指」に気づいたのだから指のアップから持っていく。
「指黒く号外を閉ず」と一回終止形で言い切る。
誰が閉じているのかと思うと、最後「新社員」が意外性を持って出てくる。
この新社員はやる気があるのかという感じがする。
本人 これ出来てたら昇格だったんすかね?
浜田 出来てたら先生どうだったんですか?
夏井先生 できてりゃ、もちろんですよ。やってから言えよ!
石田 ごもっとも。
藤本名人 「たられば」はダメ。
[ここがポイント]
散文的にならない工夫
※終止形で切れをつくることを心がけましょう。
添削後
『指黒く 号外を閉ず 新社員』
◆『流されし 魂鎮めしか 春の海』 大和田獏
【本人談】
「春の号外」で思い出すのは2011年の3.11(東日本大震災)。今回俳句を考えているとき東北にいたので、色んな人からいまだに大変な思いをしている声を聞いた。その中で「春の海」(季語)は穏やかで、津波で流されてしまった魂は、この穏やかな春の海でどうか鎮めてくださいという思いを込めた。
中田名人 今、説明を聞いて分かったんですが、「流されし魂」と穏やかな「春の海」を最後の季語に持ってきたのは上手いと思った。
夏井先生
この句の評価のポイントは上五「流されし」の是非です。
■査定結果
5級で現状維持
理由:未発表(「流されし魂」に違和感)
藤本名人 残念ですね~。
夏井先生
3.11を想う気持ち。「鎮め」「春の海」という展開は丁寧に書かれていてそこは良い。
残念なのは「流されし」が過去形"流された"という言い方で後に「魂」が来ること。
果たして魂も流されてしまったのか?魂とは風になって私たちの近くにいる考え方をする日本人が多いのではないか。
上五を外して、「魂」を丁寧に書いてみる。
「魂」も"たま"ではなく、歴史的仮名遣いで「たましひ」と平仮名にする。"たましい"のことになる。
「鎮めて」。どうなっていくか。
「春の海しづか」としてもう一回収める。映像ができる。
今、映像として静かな海が今ここにある。
そうすると、祈りのような調べが生まれる。
本人 気持ちが伝わりますね。
[ここがポイント]
細やかな想いの表現
※多くの日本人が持つ死生観に対して、「流されし魂」では多少の違和感を感じさせます。季語の映像を「しづか」と描写することで、大和田が本来伝えたかった追悼の思いがより印象深く表現できます。
添削後
『たましひを 鎮めて春の海しづか』
◆『センター街 滲む号外 春の雨』 鈴木光
【本人談】
(渋谷)センター街が通学路の途中にある。センター街の夜に雨に打たれてくしゃくしゃになった号外を見つける。号外って凄く大きなニュースなのに、雨に打たれて文字が滲んで風化していく。渋谷のそういった若い街の勢いを詠みたいなと思い作った。
藤本名人 「センター街」っていう名詞ですか?これを持ってきてるのがたまらなく良い。
夏井先生
この句の評価のポイントは中七「滲む号外」です。
ジュニア これがええわ!
■査定結果
5級で現状維持
理由:三段切れ!
ジュニア えぇ?
松岡 えぇ?
北山 いらっしゃい!
浜田 先生から「三段切れ」だと。
本人 あぁ~、そっか~。
松岡 厳し!厳しいね。
藤本名人 えっ?
浜田 そうですか。
夏井先生
これは素材は良く切り取れている。まさに映像。
「センター街」が最初に出てくる。あの雑踏がちゃんと見えてくる。
「滲む号外」によって、場面も一気に見えてくる。
最後の押さえが「春の雨」と。材料の集め方は何の文句もない。
ただ俳句としてのささやかな部分だけ。
「センター街」/「滲む号外」/「春の雨」/と名詞でプツプツ切れるのを三段切れという。
この場合は語順を変えて名詞切れを回避するだけ。
「号外滲む」と逆にするだけ。
本人 三段切れ、ちょっと自分で勉強してなかったんで。消化してまた次頑張ります。
藤本名人 偉いな!
添削後
『センター街 号外滲む 春の雨』
◆『冴え返る A.I.棋士の 白き腕』 岩永徹也
※号外から将棋の名人に勝ち話題となった将棋A.I.に発想を飛ばした一句。
【本人談】
棋士の世界は若手(藤井七段など)もどんどん出てきて、新しく出てきたのが人工知能ロボット。彼らは実際に強くて駒を動かす腕が感情的ではなく冷ややかな感じで動かしている。冷たさを「冴え返る」という春の季語で詠んだ。
夏井先生
この句の評価のポイントは「A.I.棋士」という言葉を使う是非です。
藤本名人 ほら。
ジュニア いいんちゃう、これ。
■査定結果
3級へ1ランク昇格
理由:果敢な挑戦
本人 ありがとうございます。
→隣に座る3級の松岡とガッツリ握手を交わす。
観覧席 フゥ~!(黄色い声)
夏井先生
果敢な挑戦と言いたい一句。
たった17音しかない中にこういう言葉が来るとインパクトが強すぎて、季語に目を向かせるのが難しくなってくる。
そういう所が大変。よく頑張ったと思う。
「冴え返る」は送り仮名「え」がない「冴返る」として載っている歳時記の方が多い。漢字が続くだけで字面が締まる。これ1点。
季語「冴返る」に「A.I.棋士」という硬質な響きを取り合わせて響き合わせた。
最後「白き腕」で映像をきちんと作ろうとしている。もともと白いので、やはり人工なものだと言いたかったことになる。
「白き」の文語より「白い」と口語にすると、人工的な空気がより出るかもしれない。
こういう果敢な挑戦。どんどんやっていただいたらいいと思うが、大事なのは季語を主役に立てる工夫をきっちりやってみてください。
添削後
『冴返る A.I.棋士の 白い腕』
◆『号外を 放つ手取る手 春疾風』 松岡充
【本人談】
手に焦点を絞った。配る人の「これをみんな聞いてくれ」ともらう人の「そのニュースをは早く知りたい」という手が重なっている。「春疾風」は春に吹く強風・春の嵐を指す季語で、ニュースが世の中に嵐を起こすということを詠みたくて。
藤本名人 「放つ手取る手」僕はちょっとやかましいなあ。
本人 やかましいと思いました?
浜田 敢えてそうした?
本人 そうです、号外なんで。
藤本名人 いや、風情がないなぁみたいな、ちょっと。凄いやかましいなあ(号外を配る仕草)。
本人 当たりです!
藤本名人 そこを狙ってるのね?
本人 そうです。
夏井先生
この句の評価のポイントは中七の描写の是非です。
■査定結果
2級へ1ランク昇格
理由:見事な臨場感
中田名人 良かった、アハハ。
石田 (昇格が残り1席で)ヤバい。
本人 ありがとうございます。
藤本名人 素晴らしい。
→ランキングシートで昇格を決めた岩永とハイタッチ。
浜田 松岡、(名人まで)もうちょっとやんか。
本人 ホンマですね~。
夏井先生
あの写真をそのまま映像化しようと、その方向に舵を切って成功した。
「号外」でその光景・場面がこの単語一つで浮かんでくる。
「放つ手取る手」でせわしないけど、せわしない場面を表現した。
ジュニア (指摘が的外れな藤本名人へ)降格やで、お前。
浜田 滅茶苦茶やな、お前。
藤本名人 今日、関係ないもん、降格。
夏井先生
中七で畳みかけることで、どっちもの手が映像として読み手の脳の中に浮かんでくる。
「渡す」ではなく「放つ」という動詞を選んだ。そこが一番褒めないといけないところ。飛ぶような手つきが出てくる。
最後「春疾風」によって取り損ねた号外がパァーッと飛んでいくようなそんなワンシーンも読み手の心の中に浮かんでくる。
「春の風」ではなく「春疾風」にすることで、「放つ手」と響き合って補償している。
もう1つ良いところがある。それは"韻"。
「はなつてとるてはるはやて」と「は」「て」を点在させて勢いのあるリズムを作っている。
浜田 お前、ホンマやろうな?
本人 ホンマです。
藤本名人 松岡さん、たまたまでしょ?
夏井先生 "たまたま"も実力ですから良いと思う。
本人 たまたまじゃないです。
浜田 先生、これ直しは?
夏井先生 これは直さない方が良い。
[ここがポイント]
動作を畳みかける
※号外の現場の人々の畳みかけることで躍動感が生まれ、勢いのある現場の臨場感を表現することができます。
添削なし
◆『春疾風 足絡み付く 号外や』 千原ジュニア
本人 簡単に言うと「放つ手取る手」ということ(→松岡の昇格句に乗っかる)。
浜田 違う!×5
【本人談】
新元号を何とかしたかった。新元号が発表されたときに配られた号外という、新元号とともに生きていかないといけないというのが足に絡みついてみたいな。
中田名人 それ書けば良かったのに。
新元号足絡みつく号外や |
藤本名人 ちょっと、中田さん。
浜田 何なの?
石田 降格じゃないですか?今の?
夏井先生
この句の評価のポイントは「足」です。
本人 え?
浜田 「手」の方が良かったんか?
■査定結果
3級で現状維持
理由:「足」と書かなくても想像できる
夏井先生
足に絡みついた号外を発想しているところは悪くない。
わざわざ「足」って書かなくても、大体飛んできた新聞紙とかが絡みつくっていうのは足辺りのイメージが強い。
足に音数使うより、主役は春疾風になってほしい。「足」を外してもうちょっとできることがないかが1点。
最後の「や」も据わりが悪くて難しい型。せっかくの発想を損した。
句またがりでカットを変えるやり方で映像を作る。
「絡みつく」から始め、「号外」とする。ほとんどの人が風に吹かれてきた号外が足の辺りに絡みつくと思う。
余った音数で例えば空間を作る。「街の」とすると街の体積が生まれる。立体的に春疾風が吹き始める。
足元だけで春疾風というよりは、空間を作った方が風の季語は生きる。
これは惜しかった。
本人 そうですね。お隣(降格席)誰が来られるんでしょうか?お待ちしておりまーす!
[ここがポイント]
季語を活かす映像の切り取り方
※「足絡みつく」という足元の狭い映像から、「街」という広い空間に映像を広げると春疾風の勢いが増し、臨場感が溢れる一句になります。
添削後
『絡みつく 号外街の 春疾風』
◆『新た御代の 見出し立たん 桜真風』 ミッツ・マングローブ
※「御代(みよ)」とは天皇の治世、各天皇の在位期間のこと。新元号に発想を飛ばした。
【本人談】
近々で号外が出るといったら新元号が発表される4月1日。これを詩にして春風を取り合わせたかったが、「春疾風」「東風」は冷たい風なので、もう少し暖かい風はないかと探し「桜真風(さくらまじ)」という桜の頃に吹く南の暖風を指す季語を選んだ。
■査定結果
3級へ1ランク降格
理由:「新た御代」が文法的に間違っている
夏井先生
やろうとしたことが悪いわけではない。
新しい御代を迎えるという季語として「桜真風」という季語を選ぶ。このセンスはとても良い。
もったいないのは上五。「新た代(よ)」(新しい夜、新しい天皇の御代)は辞書に載っている。
これが新たな御代だというのはわかるが、「御」の字は接頭語で言葉の頭につくもの。そのため、「新た御代」というひと固まりの名詞として捉えて良いのか悩んだ(言葉が文法的に間違っている)。
さらに、六・六・五という調べと格調のある内容とがズレてしまっているのももったいない(内容とリズムが合っていない)。
「新たなる/御代の見出しや/桜まじ」と定型にして、「まじ」と平仮名にすることで「新」「御代」「桜」の漢字がより浮き立って、季語に明るさが出る。
内容と調べは一体化させないといけない。あとはその判断だけ。
添削後
『新たなる 御代の見出しや 桜まじ』
◆『春疾風 号外の紐 ほどきたる』 石田明(NON STYLE)
【本人談】
号外を配るところを詠むというより、紐をほどく瞬間を詠もうと思った。配る人の使命感や周りの人からの圧もあってシャってほどく。素早い紐の動きが春疾風と重なるように思えて詠んだ。
■査定結果
1級へ1ランク昇格
理由:未発表(ほどく瞬間に焦点を絞った秀作)
藤本名人 みんな「春疾風」好きやな~。見つけた時、コレや!思ったでしょうね。でも、勢いがあって凄く良い。
夏井先生
おっしゃる通り。
「春疾風」で春の強い風がある。「号外」で光景・場面が出てくる。「紐」というものが出てくる。
この後どう展開するのかと思いきや、「ほどきたる」。「たる」は今ほどき終わったその瞬間という感じ。
しかも、連体形でこの下に名詞が続く形。「たり」と終止形にしないで、わざと「たる」にした。
本当は号外の束をほどくわけだが、あたかもそこから春疾風が勢いよく動き出すような印象を残す面白い効果をこの句は醸し出している。
結局「春疾風」という季語が主役になってくる。
今回昇格した4人はちゃんと映像を描くということをきっちりやった人たち。
俳句の中で想いを述べるのはなかなか難しいが、映像をきっちり描けば、読んだ人の脳の中にも同じ映像が浮かぶ。
思ったことがストレートに伝わる。お見事だった。直しはいりません。
本人 ありがとうございました。
ミッツ 負けました。
添削なし
編集後記
今回は「春の号外」という一風変わったテーマで、「新元号」を連想した人も多いはず。ある種タイムリー性のあるお題です。
一斉昇格試験としては通算3回目ですが、特待生の数が多くなってきていたので裁く(?)には良いタイミングでした。
フルポン村上以来となる2ランク昇格を果たした柴田さんは渾身の一句でした。東国原名人の発想に似ているようにも感じましたが、地域性のある季語を使うという方向性を確立した印象。一挙に3級まで昇格は大きいです。藤本名人が「黙」の多用を指摘していましたが、原句で出してきたのはこの句が実は初めて。添削後に関しては過去3例あり、番組で紹介された岩永さんの句の他に梅沢名人の「原子炉と溽暑に眠る町の黙」、A.B.C-Z河合さんの「春近し邪気遠ざけて父の黙」というところ。
キスマイ北山さんはフェードアウトしてしまった福澤アナ以来となる5級で3連続の現状維持という結果に。降格は免れましたが厳しい状況が続きます。インクで指が黒くなるという発想はありきたりな印象ですが、季語の「新社員」を頭に持ってくる必然性があるのか、という点が難しいように感じました。
大和田さんも現状維持でしたが、ちょっと置きに来てしまったかなという風にも思いました。鎮魂の思いを込めるのは悪くないですが、魂の捉え方に関して先生と本人とで解釈に齟齬が生じていたようにも感じます。
期待の鈴木さんも現状維持。スタジオ内も驚きの声が多数ありましたが三段切れという指摘でした。脳裏に浮かぶ場面描写力が武器で、雨の発想は良かったのですが、淡々と語った中に「風化」というワードがあったのでそれを書くともっと季語が引き立ったようにも感じました。勉強好きですから、内容をどんどん消化していきそう。次回に期待です。
さて、岩永さんと松岡さんの仲良しコンビは2名とも昇格を決めました。仮面ライダーつながりで俳句も指摘し合っているようで、努力の成果が表れましたね。岩永さんはニュースとなったA.I棋士の腕の色に発想を飛ばしました。「ドット」の使い方も渋いです。対照的に松岡さんは写真を丁寧に描写しました。韻を踏んだのが、たまたまでないのは最後に置かれた「春疾風」で理解できますね。2句とも昇格とすぐわかるほど綺麗な描写で素晴らしい。
ジュニアさんも「春疾風」で勝負しましたが、松岡さんの後だけに発想があと一歩という印象を受けました。最後の「や」も気になりますし、繊細な部分を表現してほしかったというところでしょうか。
ミッツさんは残念ながら残り2人からのバラエティー的展開で3級に降格し、一斉昇格試験で唯一2度目の降格経験者となってしまいました。少し言葉を詰め込みすぎている印象で、不穏なリズムもこの句の内容には合いませんでした。発想の方向性は悪くないので、次回に期待です。
そして、石田さんは号外を配る最初のシーンに発想を飛ばしましたが、着眼力が凄いのと大変シンプルにまとめているのが良かったですね。いよいよ名人王手となり、老人ホームでも今度は褒められるのでは。
さて、今回は見届け人として藤本名人・中田名人が登場。中田名人という呼称を初めて使いましたが、批評・指摘は結構視聴者寄りに発言している感じがして好印象でした。一方の藤本名人はガヤ芸人まっしぐらで通常運転でした。何度も言いますが、10段なんですから。ジュニアさんとの絡みはバラエティーとして悪くないのですが、説得力に欠けるのが毎回気になります。演技なのかもしれませんけどね。次回永世名人への道挑戦だそうなので、そこでどのように評価されるかというところ。
※次回14日の更新は私情により大幅に遅れます(深夜以降に速報版)。ご了承ください。

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