2019年2月7日放送 プレバト!!
出演者が詠んだ俳句を紹介します。
●お題:梅と公衆電話
◆1位
才能アリ73点 馬場典子『大槌(おおつち)の 風の電話や 梅一輪』※以前東北を取材したときの気持ちから詠んだ一句。
藤本名人 大震災。
【本人談】最近街でも電話ボックスを見かけない。このお題の写真を見て一番に思い出したのが、岩手県大槌町に「風の電話」という電話線のつながっていない電話ボックスがある。辛い思いだったり、こんなことがあったりっていうのを自由に話せる、語りかけられる電話があって、その電話ボックスを思い浮かべて頭から離れなくなった。
夏井先生今回驚きましたね。
1位と最下位が言おうとしていることはかなり似ている。
思いは一緒なのに言葉の選び方で、
伝わるものと
伝わらないものになる見本のような回だった。
頭の「
大槌」という地名を見た瞬間に震災のことを思い出す人は沢山いる。
「大槌
の」「
風の電話」ときたら、あの思いのこもったあの電話だとわかる。この
2つを取り合わせただけで、作者の伝えたい思いはほとんど真っ直ぐに伝わる。
「風の電話」を設置した人の思い、ここを訪れる人の祈り、作者自身の伝えたいこと、全部が入ってくる。
「や」で強調して切る。
最後の
「梅一輪」が良い。梅がやっと咲いた。
まだ一輪だけど心を癒す春の訪れですよという優しい終わり方。
「梅一輪」という決まった形の置き方ではあるが、上五中七のフレーズと取り合わせることによって、
新しい気持ちの伝え方になる。
そこら辺、ホントに癒されました。直しはいりません。
添削なし◆2位
才能アリ70点 武井壮『戦陣の 交はるごとき 梅二色(にしき)』【本人談】公衆電話の中にいるぐらいの気持ちで。外に眺める梅は白い梅と紅い梅。ちょっとずつ交じり始めて、季節も変わり始めて。昔の戦の陣が交わって戦い始めたような景色だな、と思った気持ちを詠んだ。いかがでしょうか。
中田 「戦陣の交はるごとき」に
動きがある。やっぱり上手い。
夏井先生梅の花の遅速、早く咲く・遅く咲くというのを
「戦陣」という比喩で表現しようとしている。発想にオリジナリティがある。
「戦陣」から始まるところにも、
ある種の意外性がある。
最後に「梅」がちゃんと比喩の対象として出てくる
語順もいい。
ここから上を狙うという意味で少しだけアドバイス。
上五中七全部が比喩として使われている。下五は「梅二色(にしき)」とも読めるが、この季語となる部分を
「白梅」「紅梅」と書けば、色としての印象が読む人の脳にポンポンと出る。
どこか言葉を取らないと「白梅」「紅梅」は入らない。
比喩にいっぱい言葉を取りすぎているので、
「交はる」「ごとき」の二択になる。
「戦陣」は交わったりするので、「交はる」はなくても良い。「
戦陣のごとし」で一回カットを切る。
ここから「白梅」「紅梅」2色入れる。「白梅」を追うて「紅梅」が咲くんでしょ?
「
白梅追い紅梅」とする。
本人 あ~!いいなそれ!
浜田 うるさいねん!お前夏井先生こうすると、
白と紅の梅が早い遅い、後から紅がわーっと押し寄せてくる。
字の印象というのはやはり強い。
[ここがポイント]映像を鮮明に
※自分を思い描いた映像をどこまで正確に読み手に伝えられるか。そのための言葉選びが、より良い句を作るためのポイントです。
添削後
『戦陣のごとし 白梅追い紅梅』◆3位
凡人65点 三山ひろし
『10円の 望郷流す 春の雷』【本人談】上京後の気持ちで、電話ボックスの中には10円払えば故郷がある。お金を入れて電話しようと声を聴こうとしたその時に、春の嵐・春の雷(らい)による雨が望郷の念を流してくれる。お前もそんなことじゃいかんぞ!もうちょっと頑張れよ!という望郷の一句。
藤本名人 あのー、「望郷流す」の
「流す」の意味がちょっとわからない。それより、
「10円」=「公衆電話」とは限らない。
夏井先生偉いよ~。素晴らしい、ホントに。
藤本名人 分かりますよ、こんなん基本…。
夏井先生 今まで分からなかったじゃない。藤本名人 2019年は違いますよ!夏井先生 指摘しないといけないところ2つともズバッとおっしゃった。
「
10円の望郷」という言葉が良い。この
言葉の固まりに詩がある。
詠んだときに詩心を持った人と思った。
俳句は「10」も漢数字で書くことが多いが、あえてやってるんじゃないかな?と。
本人 (立ち上がって)
そうなんですよ!浜田 おいおいおい!立たんでええねん!
藤本名人 たまたまでしょ、三山さん。
本人 まさにそうなんですよ、10円玉と100円玉。
公衆電話なので10円玉に。
そうなんですよ!夏井先生1点目の問題は「流す」。「望郷流す」で「春の雷」が出てきたときに、
何が何を流すのだろう?と前後があいまい。そこが問題点の一つ。
例えば「流す」を消すのであれば、お話を聞くと
「春の雷」が望郷の思いを流す、喝を入れる的なイメージなんですね?
そうなってくると、「
春の雷」
という季語の考え方にちょっとだけ問題がある。
「雷」だけだったら夏の季語。「春の雷」は春のカミナリだが、
立春以降に鳴る雷で夏の雷ほどの激しさはなく、1つ2つ微かに鳴ってすぐに止むという季語。
これで喝を入れるなら、
「激し」まで言わないといけない。「春の雷」は淡いものだが、この雷は激しいんだと。
さらに、ある年齢よりも下の人たちは
「10円の望郷」で公衆電話だと思えない世代も増えている。そうなってきたら、書くしかない。
「
受話器置く」とし、「
春雷(しゅんらい)」と「の」を除き、ここまで書いてあげる必要も出てくるかもしれない。
でもあなたは
詩心がある。あと俳句をもうちょっとだけ勉強しましょう。
[ここがポイント]季語が持つ意味
※俳句を自分のイメージに近づけるには、季語の意味を正しく理解する必要があります。
添削後
『10円の望郷 春の雷激し』『10円の望郷 受話器置く春雷』◆4位
凡人60点 熊谷真実
『母想う 受話器の先の 梅の花』【本人談】今はなかなか公衆電話で電話をすることはないが、受話器といえば公衆電話か家の電話かしかないので、公衆電話を受話器に置き換えた。電話しようかなと思ったら、梅の花が咲いていた故郷の梅の花も綺麗だろうなあというのを思い出しながらお母さんに電話をしようと思う。
藤本名人 電話から
故郷の「母想う」。
エグいぐらい凡人です、もう。
エグさ満開。
中田 真実さん、
ホントに人柄良いし、優しいし。でもね、
ホントにど凡人でしたね。
藤本名人 最初要らないでしょ、「優しいし」って。
夏井先生念のため先に言うが、
母を詠むことが悪いことではない。
母を想う気持ちを詠みたかったらいくらでも詠めばいい。
ただ、
「想う」とストレートにやっちゃってるところが
下手くそって言ってるだけ。
私は
中七下五の表現には十二分に工夫がある。
浜田 点数高い(60点)ですもんね。
夏井先生「受話器の先の」と限定していって「梅の花」。
ホントに咲いてるわけではないけど、向こうの梅の花が咲いたよなんて話をしているとわかる。
電話をかけていること、向こうの梅の話をしていることがちゃんと言えている。
「想う」は消す。どうしても「母」と言いたかったら、「
母よ母よ」とストレートに呼びかけてもいい。
心情を訴えることができる。
もうちょっとだけ、光景を変えるのであれば3位の句にあった「望郷や」と強調してみる。「郷」に場所のイメージが出てくるため、
梅の花が咲いている場所がイメージしやすい。
[ここがポイント]「想う」は要注意
※思っていることを表現するのが俳句。描写に言葉を使いましょう。
添削後
『母よ母よ 受話器の先の 梅の花』
『望郷や 受話器の先の 梅の花』◆最下位
才能ナシ35点 丘みどり
『梅の香を 漂流電話で 天(そら)の母』浜田 何を言うとんねん。
本人 「漂流ポスト」ってあるじゃないですか。
ナレーション 「漂流ポスト」とは、岩手県陸前高田市のカフェに設置されている東日本大震災で亡くなった人への手紙を預かるポストのこと。「漂流電話」という言葉を新たに作り、俳句にした丘だったが・・・。
夏井先生「漂流電話」が分からなかったのが一番大きい。「漂流電話」というのがあったとしたら?と言いたいんですね。
本人 そうです。
夏井先生 それをまず書かないと。
「
漂流電話」から字余りの上五で始める。
"あったとしたら"は「
あらば」と文語・書き言葉となる。「天(そら)」と言わなくても「漂流電話」で亡くなっているというのは想像できる。「
母へと」伝えたいんでしょ。何かといえば「
梅の香を」。
本人 あ~、伝わらないんですね。
夏井先生心根は悪くないんですよ。こういうこと想うあなたの心根はね。
足りないのは言葉だけ。
添削後
『漂流電話 あらば母へと 梅の香を』★特待生昇格試験★浜田 いまもう1級ですから、次上がったら
名人!
中田 なりたいです。◆『梅東風(うめごち)や 受話器の底に 母国あり』 中田喜子【本人談】中国から日本へ留学しに来た子どもが、久しぶりにうちへ電話をしているという句を詠んだ。
夏井先生
この句の評価のポイントはここ
「母国あり」の語順の是非です。
本人 えぇ!・・。
→顔がうつむいてしまう。
浜田 またあの顔しとるわ。
■査定結果名人初段へ
1ランク昇格理由:意志のある選択
本人 やっと!ありがとうございます。
嬉しい~!
夏井先生作家としての確固たる意志を持って、
言葉をそれぞれ選んでいるのがよくわかる。
型からおさらい。
頭に季語を置いて「や」でしっかり切る。中七下五でワンフレーズ。
これは王道の型。
基本中の基本の型をしっかりと押さえている。
「
受話器の底に」とつながっていくが、最初読んだとき「
母国あり」ではなく、「受話器の底に
ある母国」ではないかと一回思った。
こっちの方が据わりが良い。ただ、据わりのよさを考えたときに
ちょっと暗いイメージにもなる。
受話器の底の方に母国があるが、なかなかそこに帰れないみたいな暗いイメージ。
例えば、「
木枯らしや受話器の底にある母国」だと暗いトーンになる。
据わりが良いのに何故「
母国あり」としているのか。それは「
梅東風(うめごち)」
という明るい季語があるから。春に吹く東の風のこと。この季語と取り合わせることで空気が変わる。
「梅東風」が吹く頃になった。電話をかけてみると受話器の底に母国がある。私の誇らしい母国がまさにそこにあるんだ。その母国から吹いてくる東の風が、今この日本の梅を咲かせてくれるんだ。そういうことを作者は言いたいのかと、読み手は確実にたどり着く。
その先に、中国からの留学生かも?と私も読んだ。
思い通りのところに全部引っ張ってくる。お見事。直しはいりません。
浜田 見事、名人でございます。
本人 ありがとうございます。
浜田 やっとですね~。
本人 やっと。嬉し~い!
浜田 今日はええ酒飲むで~!これ!
添削なし★永世名人への道★
浜田 フジモンにしては、パンパーンと上がっておかないということやね。ただここになると厳しくなりますから。
藤本名人 お正月休み返上して、
必死に考えました。今年の俳句を占う意味でもね。
◆『村営バス 逃して不意に 探梅行(たんばいこう)』 藤本敏史(FUJIWARA)【本人談】皆さん、「探梅行(たんばいこう)」ってわかります?わからないか。早咲きの梅を求めて野山に出かけるという季語。田舎のバスは本数の少ない。乗ろうと思ってたバスを乗り遅れてしまって、次のバスまで時間があるから、じゃあ歩こうかなと思って、歩いているうちに道すがらいつの間にか梅を探している自分がいたという句。
夏井先生この句の評価のポイントは「
不意に」。
本人 そやねんなあ(不安そうに顔を覆い隠す)。
■査定結果名人10段で
現状維持理由:ゆるい
浜田 1ランク降格!本人 ええっ!
浜田 気持ち的にね。
本人 え?ビックリした。
玉巻アナ 「
現状維持」という結果になってますが。
本人 悪いわ!武井 悪いな。
本人 見えないから。見てなかったから、映ってるモニターもそっちも。浜田 アハハハ。
本人 一瞬、
こんなにシーンとなるくらい、お客さんいてた?ぐらいの、ちょっとマジで。浜田 ホッとするやん!現状維持だったら。
本人 まあそうですけど。
浜田 だからよかったやん。一応1ランク降格言うといた。
武井 見たことない顔してた。
本人 見たことない顔なってたと思うわ、自分でも。
夏井先生「ゆるい」というのは「不意に」の問題の時に解説する。
「
探梅行」という
面白い季語をよく調べた。梅を探す。「
探梅」でも同じ意味になる。早咲きの梅を探しに行く。
「行」がつくと、意味は一緒だが
この字の印象が添うてくる。
「
村営バス」という
設定が良い。しかも「逃す」ので、
朝のバス逃したらもう昼まで来ないみたいな、そんなイメージが伝わる。
最後に「探梅行」という季語で言いたいことは全部伝わる。
勿体ないのは「不意に」だけ。
迷ったのがありありと字面に出てる。
本人 他に言葉が思いつかなかった。
夏井先生 思いつくまでやるべきね(不意にを消す仕草)。本人 うるさいな!うるさいな!
浜田 そらそうですよね、先生ね。そらそうですよ。夏井先生
ただ「不意に」の三音だけだと難しいが、
もう一音いらない音がある。「
て」もいらない。「逃し」で良い。
「村営バス逃し」で、あぁ~行っちゃった。むしろ
「逃し」で止めたほうが行っちゃった感がある。
ここから余った
4音で色々やれる。
例えば、自分一人で村営バス待ってたなら、「
ひとりの」と置く。
馬場 映像が出てくる。
夏井先生 出てくるよね。
それから、五人なら「
五人の」とすれば、賑やかになる。
歩き出したなら「
てくてく」とやればよい。可愛い感じになる。
4音で自分らしさやその時の状況を生々しく書ける。
浜田 メッチャ納得してるやん。
→本人は小刻みにうなずく仕草。
夏井先生「不意に」なんて言葉で出来た気になってるのが「
ゆるい」。
本人 メッチャ言いますやん!
一発目(の収録)ですよ、今年。そんなに言わんでええんちゃいますか?
夏井先生はい。
不吉なスタートでしたね。本人 アハハハ・・。
添削後
『村営バス 逃しひとりの 探梅行』
『村営バス 逃し五人の 探梅行』
『村営バス 逃してくてく 探梅行』編集後記今回は梅と公衆電話という2つのテーマが兼題写真に写っていました。今は都会でも見ることが珍しくなった公衆電話ですが、いざという時には助けられることも。
1位は前回凡人ながら自分で句を添削した馬場さん。「大槌」が物ではなく、地名だというのは中七ではっきりしました。震災から発想の飛ばす人物は最近多い印象ですね。しかも高得点を取りやすいです。コメントでもご指摘がありましたが、梅沢名人もタイトル戦初優勝時の「旱星」の句や「初サンマ」の句など、印象に残る句が多いです。馬場さんは福澤明アナに変わって特待生の期待がかかります。全俳句はまだ4句ですが、一覧を作成いたします。
2位はさりげなく11回目挑戦の武井さん。NHK俳句のMCとして約2年活躍し、自身も特選を何度もとるなどメキメキと鍛えられています。今までは無難な句が多かったのですが、「戦陣」の比喩で勝負に出ました。中田さんもライバル視しているようなコメントでしたね。今後の出演が楽しみです。
3位は初登場の演歌歌手の三山さん。けん玉紅白でお馴染みの方ですが、やや意味がわかりにくかったですね。「10円玉」とはっきり書くと確実に電話と分かるのですが、言葉がしっかり入っているので入れにくいところ。
4位は6回目挑戦の熊谷さん。「母想う」に凡人的要素が残るのは誰が見ても感じますが、中七下五のフレーズに詩が感じられました。「の」と名詞を畳みかけることで、最後に季語がクローズアップされるところに、母の思いが募るという優しい句の印象がありました。
最下位は、3回目となる丘さん。「漂流電話」が伝わらないということでしたが、震災からの発想だとすれば悪くない内容の句でした。他番組では流暢にお話しする方なので、俳句をしっかり勉強すればすごく上達しそうです。演歌歌手としては珍しくコンスタントに出演しそうな方なので次に期待しましょう。
特待生昇格試験は二人の明暗が分かれる形に。
まず、中田さんは特待生認定から104週と現時点で最も遅咲きの名人になりました。本人も言ってましたが、「やっと」というイメージが強いですね。「梅東風」はかつて「千年分の絵馬」を詠んだ東国原名人も使っていました。今回の句は中国人留学生を想定したものでしたが、東風の向きを考えると日本からの梅を咲かせた東風が、母国の中国へと向かっていくように受け取るのが自然ではないかと思いますが、どうなんでしょうか。
さて、藤本名人はようやく永世名人への道初挑戦で、前進に失敗どころか浜田さんから降格を通達されるパロディがありました。「不意に」は説明語で映像描写にすべきという批評でした。「村営バス」「探梅行」という言葉の調子がいかにも藤本名人らしい感じはありましたが、まだ他の2トップには及ばないという判断でした。浜田さんもその点をわかって「降格」を通達したのかもしれませんね。他の句への批評では、先生から「偉い~」とあやされることもあり、フジモンに甘いという印象は拭えません。もう少し言葉のチョイスには慎重になってほしいところです。
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