2018年11月1日放送 プレバト!!
出演者が詠んだ俳句を紹介します。
●お題:晩秋のレストラン
◆1位
才能アリ72点 片岡鶴太郎「
温(ぬる)め酒 あとは巴水(はすい)の 木版画」
※晩秋の個人的な楽しみへ発想を飛ばした一句。
【本人談】秋にぬるめの人肌の燗酒をやりながら、版画家 川瀬巴水(1883~1957)の木版画が大好きで、酒を飲みながら見るのが大好き。そのまんま正直に書いた。
藤本名人 皆藤さんのと違って
語順が素晴らしい。僕も
巴水の木版画大好きなんで。
浜田 ホンマかい! 代表的なやつあるの?
藤本名人 代表的なのは…こう…
額縁に入ったような…。
夏井先生とっても
穏やかに味わいのある良い句になっております。
季語の問題から。「温め酒」と書いてあるので、「
ぬるめ」と読みたくなる気持ちはわかるが、季語として「
ぬくめ」と読むのが正しい。
秋になって自分が好きな程度の温度でお燗をしたいな、という気分が「温め酒」という季語。
そして「巴水の木版画」と書いてくれることで、巴水を知らない人もどうも版画家さんらしいという情報がわかる。この句は、
どんな版画家なのか知りたいなと思わせる魅力を持っている。私もどんな作品を作る方か調べ、夕暮れの光景の作品なんか素晴らしい。
あの作品を見てみると、なるほど、ますます温め酒に合うなと。読み手は後付けでこの句の良さをもう一回味わう。
何よりも褒めないといけないのは「あとは」。
「温め酒」があれば「あとは」この巴水の木版画さえあれば、秋の夜長をゆっくりと楽しめますよ。
下手くそな人はここに「
酒の肴に巴水」とか書いちゃう。粋ではない。直しなどもちろんいらない。
添削なし
※上五は本来「ぬくめざけ」の読みが正しい
◆2位
才能アリ70点 髙田万由子「
星月夜 オペラ幕間(まくま)の ティータイム」
【本人談】
ロンドンのオペラ座を見に行った時の実体験。幕間にお茶を飲んでいたら外に星と月が見え、それがまるでゴッホの「星月夜」という絵画作品のような綺麗な景色だった。舞台を見て幕間もロマンティックだなという気持ちを詠んだ。
藤本名人 ちょっとだけ
鼻につきます。ゴッホとかね。
でも素晴らしいです。
本人 そう。素晴らしいでしょ?
藤本名人 すぐ「そう」?
自画自賛もええとこですよ。志らく 幕間は
「まくま」ではなく本来は「
まくあい」ですから。幕間(1つの芝居が終わって別の芝居へ移る間)を「まくま」って言う人もいるが、正確に言えば「まくあい」。
夏井先生そこの問題を一発で言ってくれる志らくさん。
偉いなぁ!と聞いてました。本当に思います。
慣用的に幕間を「まくま」と読んでいる人もいるので、見逃してあげようかという気分だったが、一つ知識として入れておくべき。
季語「
星月夜」は星が月の出てるかのように明るい美しい秋の夜という外の光景。
「オペラ」ですからオペラハウス、その劇場の「幕間」という時間であるよと。最後にお茶を飲んでいるという風に、
順々にクローズアップしていくという構成も考えている。
もったいないのは、時間の
「間」と「タイム」が情報として重なっている。どっちを活かすか。「ティー」は活かしたいので、最後を「紅茶」と日本語で書く。さっさと「紅茶」と言えばよい。最後を「紅茶の香」として押さえる。
最後、香りを際立たせるかどうかが1位になれたかどうかの差だった。
本人 本当のことを言うと飲んでたのはお
茶ではなくて
ワインだった。
[ここがポイント]重複を避ける
添削後
「
星月夜 オペラ幕間の 紅茶の香」
◆3位
凡人68点 皆藤愛子「
食後酒に 木犀(もくせい)の香(かざ) 甘み足す」
【本人談】
テラス席でディナーをしていた時に、食後酒が出てきた頃に金木犀の甘い香りがしてきてより甘くなりました、という句。
志らく 食後酒「に」の言い方もひっかかる。金木犀の香りがしたら
トイレの芳香剤の匂いに思える。
藤本名人 語順がどうかなというのがありますね。
夏井先生(フジモンに)偉いよ!語順ですよ。これは。
材料というか、
中身はほぼ才能アリ。なんてもったいないことをしたのか。
「食後酒」という言葉だけで、今おいしいものを食べて満ち足りているという状況がわかる。
季語「木犀」と香り。最後その香りが「甘み」を「足す」かのようなという
発想も楽しいし明るい。素質から言ったらバリバリ。
なぜこの語順に気付かないんだ、この子は。
浜田 どつきましょう。
藤本名人 見てられへんわ。夏井先生もうひとつ、
中七の「香」。「かおり」では字余り、「か」では字足らずなので「かざ」にした工夫は重々わかる。
「か」の方が、綺麗にストレートに入っていく。
志らくの指摘した「に」も語順を変えるだけで機能し始める。「食後酒に」の
「に」を活かすために先にどうするかを言う。「足す」。
何を足すのか。「木犀の香の甘み」と持ってくる。語順変えるだけのこと。
「香の甘み」というと、これは「味」になる。
「香の甘
し」とすると、
木犀の香が甘いよと嗅覚になる。「甘し」と嗅覚に持ってくると「木犀」という季語がより活きる。
これができてたら、
今日はこれがぶっちぎりの1位だった。
浜田 バカ!
本人 悔しーい!
[ここがポイント]語順を大切にする
添削後
「
食後酒に 足す木犀の 香の甘し」
◆4位
凡人50点 嘉風雅継
「
銀杏の葉 強く踏みつけ 土俵入り」
※銀杏の葉から力士の「大銀杏」へ発想を膨らませた一句。
【本人談】
秋の風で落ちる銀杏が踏まれる。それが荒れるのを予感させる秋場所。ただ踏みつけられても「なにくそ精神」で土俵に立つという意味。
志らく 悪いところを言いたいけど、
貴乃花親方問題で相撲協会に喧嘩を売ってしまったんので、怒られんじゃないか…と。ただ「
強く踏みつけ」が「土俵入り」だから、あえて言わなくてもいいのでは。
夏井先生 兼題写真から、「土俵入り」に持ってくる。これどんな人!?と思ったら、生身見て
あぁそんな人か。
藤本名人 そのままやないかい!夏井先生この句の
問題点は季語の問題にある。
「銀杏」だけでは季語にはならない。「
銀杏散る」や「
銀杏(ぎんなん)」なら秋の季語。しかし、「銀杏」という木の名前としてなら、木は1年中あるため季語にはならない。
「
相撲」は秋の季語。年に何場所もある時代よりも前に、五穀豊穣を祝う奉納相撲として秋の季語になっている。ただ「土俵入り」は季語かといわれるとちょっと違う。季語問題が微妙にある。
上五にはっきりと季語のイメージを入れる。「の」の一字を「黄」として「黄葉」とすれば、「もみじ」と読めて「
銀杏紅葉(いちょうもみじ)」と明確な季語になる。
志らくの指摘の部分。「強く踏みつけ」。最後「土俵入り」となると中七が邪魔になるという点だが、語順として最後に「土俵入り」というのは全部だめというわけはない。ただ「踏みつけ」と言ったらそれは「強く」踏んでいる。「強く」を消し、「付ける」も漢字にした方がしっかりする。
「強く」の余った3音で最後に臨場感を出す。「今日の」って入れる。そうすると「今日が勝負だぞ」という感じが出てくる。
これもすぐに才能アリに手が届く。
本人 勉強になりました。
浜田 (出演を)続けていこうと思いますか?
本人 思います。
藤本名人 思ってないでしょ?
添削後
「
銀杏黄葉(もみじ) 踏み付け今日の 土俵入り」
◆最下位
才能ナシ25点 江上敬子(ニッチェ)
「
光差し スープにこぼれる 銀杏柄(ぎんなんがら)」
【本人談】
秋になると涼しくなるので外のテラスで食事するが、上に銀杏(ぎんなん)をつけたイチョウが咲いていて、木の枝から漏れる光がスープに落ちて影絵のように銀杏の影が落ちているという情景を詠んだ。
夏井先生途中まではいい線行っている。
冷静に考えておかしいでしょうよ。銀杏の実よ?銀杏がスープの皿にくっきりと映りますか?
空想だけでやってる。「柄」にしたらしょうがないから消す。「銀杏柄」では
季語の効果が弱くなってしまう。
4位のと一緒でよい。「銀杏黄葉の」とする。「光」に来て「差す」は全くいらない。漢字が続くので「ひかり」と平仮名の方が可愛い。
「こぼるる」と連体形にして、「スープかな」と詠嘆する。(ペンを入れすぎて)
ぐちゃぐちゃでわからなくなった。そしたら少しは美味しそうになるでしょ。
浜田 最初は良かったって言うてたでしょ。最後の「柄」ですよ。
本人 完全に空想で作りましたんで。
添削後
「
銀杏黄葉の ひかりこぼるる スープかな」
★特待生昇格試験★志らく この間、番組を見てたらば、同じ落語家の円楽師匠が「
落語家枠は1つでいい」と。だから円楽師匠には1日でも早く復帰していただいて、また
腹黒い中途半端な句を詠んでもらおうかと。
浜田 志らくはん、まだ4級ですけど。
志らく 偉そうなこと言っちゃったから、言わなきゃ良かったな。この後、自分も
公開処刑されるのかと。
◆「
晩秋や 乱歩を読みて 窓に蟲(むし)」
立川志らく
【本人談】
江戸川乱歩の「蟲(むし)」という、ものすごく気持ちの悪い殺人事件の小説がある。それを読んでいくうちに晩秋そのものが気持ちの悪い雰囲気になって、店の窓を見たらば普通の虫なんだけど、江戸川乱歩作品に出てくるような気持ちの悪い蟲に思ったという句。
藤本名人
過去に詠んだ俳句も「
ガンジー」「
啄木」そして「
乱歩」と。これ
ワンパターンなんで現状維持ですね。
浜田 コラッ!
夏井先生この句の評価のポイントはここ「晩秋」と「蟲」です。
■査定結果3級へ
1ランク昇格理由:よく考えた季重なり
夏井先生「季重なり」というのは、季語が2つ入っていることだが、この句は本当に見事。
「
晩秋」は映像を持たない季語。「や」で強調する。それから得意の「乱歩」という人の名前が出てくる。江戸川乱歩は推理小説。
「窓」という場所が出て、最後「
蟲」という2つ目の季語が出てくるという流れ。
この
季重なりは大したもん。江戸川乱歩の書く作品のおどろおどろしい怪しい感じをわかってる人は、
中七を通じてこの「蟲」が出てくると、それは虚構の「蟲」、怪しい恐ろしい「蟲」のような気がする。その段階でこれは季語の力ではなく、虚構の世界に生きる怪しい生き物になっている。
ここら辺の
季語の強弱は上手いもんですね。
名人狙うという意味で「読みて」に手を入れる。「
読めば」とするだけ。意味が3つも出てくる。
(1)原因・理由:乱歩を読んだ
ので、窓にこんな蟲が来てしまった。
(2)恒常条件:乱歩を読んだ時は、
いつも窓に蟲が来る。
(3)偶然条件:乱歩を読んでみると、
たまたま窓に蟲が来たよ。
読み手側は、どんな読みをしてあげたら一番いいかと、好き好きに読む。
ちょっとしたことだが、
文法的な技術を身に付けるとさらに上が見えてくる。
添削後
「
晩秋や 乱歩を読めば 窓に蟲」
◆「
タイカレーの ラムは骨付き 銀杏散る」
藤本敏史(FUJIWARA)【本人談】
よく行くタイ料理屋があり、テラス席がある。頼むのがラムの骨付きのタイカレー。骨付きのラム肉って少し銀杏の葉っぱに似てる。銀杏の色と形を重ね合わせて詠んだ。
志らく フジモンの句は
いつもなんかよくわかんない。先生に解説してもらうと良い句なんだと。
おなじみのパターンだから現状維持でしょうね。
夏井先生この句の評価のポイントは助詞「は」です。
本人 は?
■査定結果名人10段へ
1ランク昇格理由:小さなワクワク感
夏井先生助詞「
は」というのは、
いっぱいある中で「これは」という指をさすような意味での強調。
いつもは骨付きではないけど今日のラム「は」骨付き。ちょっとだけ小さな贅沢。
小さなワクワク感が「は」1文字で表現できている。
これは狙ってたんですよね?
本人 もちろんじゃないですか!そうなんですよ。いつもは骨付きではないんですけどね!
浜田 お前「いつも食うてる」って言えへんかった?夏井先生この
「は」の助詞の使い方が良いのが一つ。最後の「銀杏散る」の展開は、多少評価が分かれる部分もあるかもしれない。
例えば、ちょっとした贅沢感を表現しようとするならば、私なら「
黄落(こうらく)」(葉が黄色く色づいて落ちる様子)という落ち葉が豊かに降っていくという綺麗な季語にする。
本人 「黄落」?
夏井先生 知らない季語ね?きっとね。書いてみようか。
本人 腹立つなあ。なんなんすか、今の感じ。
夏井先生 「黄落す」とする。こうすると、ちょっと贅沢感というか特別な大人の秋の感じ。
ただ、銀杏の散っていく葉っぱにラムの骨付き肉を重ね合わせたかったんだなと読みました。そうなると、この季語を変えると作者の創作意図が消えてしまうため、ここは尊重しないといけない。
そう考えた結果、1ランクアップと判断した。
添削例
「
タイカレーの ラムは骨付き 黄落す」
今回は本人の創作意図を判断して添削なしでもOK
編集後記今回は「晩秋のレストラン」ということで、銀杏や食を中心とした季語での表現が秀逸な方が多く、ハイレベルとはいえ、言葉の読みにも注意すべき回でした。
1位の句は何といっても季語と固有名詞との取り合わせ。「酒」との絡みでは成功率が高い印象。鶴太郎さんには特待生目指して挑戦を続けてほしいです。夏井先生が最後に下手くそな人は「酒も肴も」と言っていたのは横尾名人を暗にディスっていたようにも(過去に2回詠んでいる)感じ取れました。
2位の句も情景が素敵でしたが、「間」と「タイム」の重なりを指摘されました。個人的にはあまり気になりませんでしたが、こういう小さな所に気付けないようではダメなんでしょうね。あと幕間は「まくま」では変換されません。
3位の皆藤さんは特待生候補ですが、とても惜しかったです。情報量としてもかなり多く、語順で整理しきれなかった印象です。凡人続きとなりましたが、若い女性らしく豊かな感性なので、次回ぶっちぎりの才能アリを取れれば上がれるかも知れません。
4位の嘉風関でしたが、凡の句でした。相撲取りは4年前の豊ノ島関、一昨年の安美錦関以来の出演ですが、あまり先生褒めていなかったので、次回出演があるか微妙な印象です。
最下位の方は空想で作って意味が伝わらない句に。空想することは悪いことではないですし、ファンタジー俳句が得意な名人もいますからね(笑)。ただ最初はリアリティーにこだわって丁寧につくるべきでしたね。
特待生2名は、それぞれの得意分野を前面に出した句でした。志らく師匠は前回に続いて人物の固有名詞で昇格。乱歩作品を読んでいる人にとっては実感がわく一句だったのでは。「蟲」が季語だというのは意外でした。
藤本名人は得意の季語と季語と関係ない12音との取り合わせで勝負しました。タイカレーは以前私も食べたことはありますが、ラムの骨付き肉は入っていなかったので実感がわきませんでした。しかし、評価のポイントは「は」。これは以前、箱根のススキのお題で「羊群の最後はススキ持つ少年」で大絶賛されたのですが、案の定10段に昇格しました。しかし添削を受ける羽目に。実況などでもこの査定結果には様々な意見がありますが、先生はフジモンの取り合わせは好きなんでしょうね。
査定のポイントは本人談を聞いても、2名ともわかってやった感じがしなかったのが多少気になるところですが、バラエティなんで大目に見るしかないところ。しかし、「黄落」の季語を藤本10段が知らないのは少々頂けないと思います。
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