「プレバト!!」で披露された落語家 立川志らくの全俳句一覧です。
名人7段 立川志らく(たてかわしらく) 合計67句+共作1句
成績(2023年8月3日時点)<通常挑戦者時代>
才能アリ3回、
凡人1回
<特待生時代>
1ランク昇格13回、
現状維持17回、
1ランク降格2回(
※)
(※第3回番組対抗戦で1位チームに敗北しての降格1回を含む)第2回炎帝戦予選2位・
決勝4位、第2回冬麗戦予選5位第3回春光戦予選4位、第3回炎帝戦予選4位、第3回金秋戦予選8位、第3回冬麗戦予選7位
第4回春光戦予選A4位、第4回炎帝戦予選D2位・決勝2位、第4回金秋戦決勝5位、第4回冬麗戦10位(最下位)
第5回春光戦予選D4位、(第5回炎帝戦14位)、
第5回金秋戦予選B2位・決勝3位、第5回冬麗戦12位
第6回春光戦決勝優勝
、(第6回炎帝戦圏外)、
第6回金秋戦決勝9位、第6回冬麗戦15位
(最下位)
第7回春光戦予選C3位・決勝8位、浜田杯11位、第7回炎帝戦9位俳句甲子園'19対外試合で弘前高校に1-10で
判定負け春の他流試合SPで松山東高校に30-27で
判定勝ち、夏の他流試合SPで小中学生選抜に28-29で
判定負け
第4回番組対抗戦で凡人4位(『グッとラック!』国山ハセンと共作)秋の他流試合SPで東大王・岡本沙紀に9-10で
判定負け通信教育査定で
ガッカリ査定1回
ふるさと戦(写真俳句)で
福岡編2位、大阪編3位、千葉編優勝(PRポスター掲載決定)
●昇格率 41.9%(13/31) ※番組対抗戦はカウントしていません
◆添削なし秀句 21句/66句(俳句甲子園は除く)
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人物紹介◎全俳句目録 (番号クリックでリンク内移動します)
1 | 凡人 | 南無の空光に見えしチューリップ |
2 | 才能アリ | 朝桜夕べの雨に色をつけ |
3 | 才能アリ | 更衣シャツに空色そっと添へ |
4 | 才能アリ | ガンジーのような足が出る砂日傘 |
5 | 炎帝②予選2位 | 油照り毛糸のような犬拾う |
6 | 炎帝②決勝4位 | ジヤズを聴くモナリザに似た夜店の人 |
7 | 1ランク昇格 | 啄木の顔して帰る盆休み |
8 | 1ランク昇格 | 晩秋や乱歩を読みて窓に蟲 |
9 | 1ランク昇格 | 婆やは蜜柑食べ続ける妖怪 |
10 | 冬麗②予選5位 | 働くと書くだけの為日記買う |
11 | 1ランク降格(※) | 懐手解いて絵馬書く癌の人 |
12 | 現状維持 | 走馬灯に駆け込む書初めの午 |
13 | 1ランク降格 | 母手折る紙びな父のラブレター |
14 | 春光③予選4位 | ジョンレノンを聴く魚屋目借時 |
15 | 1ランク昇格 | 桜隠しキリストめける干したシャツ |
16 | 春の他流試合○ | 自動ドア開けて子を追うシャボン玉 |
17 | 現状維持 | 傘の色紫陽花寺に吸い込まれ |
18 | 現状維持 | 洗濯機の中に住みつく梅雨空 |
19 | 1ランク昇格 | 梅雨明けやモジリアーニの歩く街 |
20 | 1ランク昇格 | 豪雨の登山これより先は神の庭 |
21 | 炎帝③予選4位 | 花火果て襟裳の朱華き灯火かな |
22 | 夏の他流試合× | 八月が降りる江ノ電の海水浴 |
23 | 現状維持 | 秋刀魚寿司廻りて外の雨斜め |
24 | 俳句甲子園③× | 消灯直前に来た客と月夜の温泉の中 |
25 | 金秋③予選8位 | 釣瓶落とし喋るな黙れ冷蔵庫 |
26 | 1ランク昇格 | 色変えぬ松や渋沢栄一像 |
27 | 現状維持 | 戦前のおしくらまんじゅう空広し |
28 | 冬麗③予選7位 | 正月の麻雀強し弁当屋 |
W1 | 凡人(共作) | 女正月蟹の足だけ動きけり |
29 | 現状維持 | 冬の蚊の申し訳なさそうなふう |
30 | 春光④予選A4位 | カップ麺の匂い蜥蜴穴を出る |
31 | ガッカリ | 冷凍肉溶けて血外は虎が雨 |
32 | 現状維持 | 春バラの赤やバンクシーの風船 |
33 | 1ランク昇格 | ねずみもちの花溢れ宅配ピザ乱れ |
34 | 1ランク昇格 | 三ツ矢サイダー三島由紀夫の覚悟 |
35 | 炎帝④予選D2位 | 八月十五日アイス溶け続け |
36 | 炎帝④決勝2位 | 炎天のミミズ診察券のシミ |
37 | 秋の他流試合× | 龍淵に潜む我を消す消しゴム |
38 | 金秋④決勝5位 | 谷崎のエロス潤目鰯の骨 |
39 | 現状維持 | 強羅のもみぢ宙に浮くマリア像 |
40 | 冬麗④10位 | 雑煮食う爺はバケモノ指鉄砲 |
41 | 春光⑤予選D4位 | 鷹化して鳩にありし日の駄菓子屋 |
42 | 現状維持 | 春眠や「カイロの紫のバラ」よ |
43 | 現状維持 | 焼き鳥屋の団扇に「みつを」を見つけ |
| 炎帝⑤14位 ※順位のみ発表 | 白シャツに染み込むあの日の長崎 |
44 | 1ランク昇格 | 今日も空蝉を拾らふだけの朝か |
45 | 金秋⑤予選B2位 | 《首つりの家》には林檎は無いのか |
46 | 金秋⑤決勝3位 | 静かに文を破くふと秋蛍 |
47 | 現状維持 | 歯車の音が聞こゆる秋の空 |
48 | 冬麗⑤12位 ※番組解説なし | 顕微鏡の蠢めく人生ゲーム |
49 | 1ランク昇格 | 冬の路地裏に昭和が捨ててある |
50 | 現状維持 | 流し雛目があったのよ、本当よ |
51 | 春光⑥決勝1位 | 影のような野良犬に桜ながし |
52 | 1ランク昇格 | 清貧の菓子屋青簾に忌中 |
53 | 現状維持 | 油照りナポレオンフィッシュの旦那 |
54 | 現状維持 | 蜩の駅にひぐらし辿り着く |
55 | ふるさと戦(福岡)2位 | 冷酒に心の月を入れて呑む |
56 | ふるさと戦(大阪)3位 | 月夜の酔つ払い嗚呼かに道楽 |
57 | 金秋⑥決勝9位 | 巌流無念しおれた菊人形 |
58 | 現状維持 | 余命を知りたい焼きを腹から食う |
59 | 冬麗⑥15位 ※番組解説なし | 闇動く幸せが動く梟 |
60 | ふるさと戦(千葉)1位 ※PRポスターに掲載 | 忘れ物を探しに菜の花を行く |
61 | 現状維持 | もうちょいと生きてみるよと豆を撒く |
62 | 春光⑦予選C3位 | 弟子入りの日墨色の八重桜よ |
63 | 春光⑦決勝8位 | 桜蘂降る陸自の戦車しづか |
64 | 浜田杯11位 | 浜ちゃんの笑い声慈雨の風鈴 |
65 | 現状維持 | 夏至の古色蒼然行商老婆 |
66 | 1ランク昇格 | 桃のパフェに溺れ死海の謎解き |
67 | 炎帝⑦9位 | 西日溜める店影だけが呑んでる |
※[11]は番組対抗戦で1位チームに敗北判定のためルールにより降格(通常査定ではない)
▼人物紹介「プレバト!!」では初回出演時にまさかの凡人査定。立川談志の弟子であり俳句歴は10年以上、アマチュア句会の宗匠で添削も行う自称ベテラン俳人。その後、才能アリを3回連続で獲得して、落語家としては三遊亭円楽に次ぐ2人目、通算16人目の特待生となる。
句の特徴は美しい光景を楚々と詠める表現力と安定感。人物描写の飄々とした句も詠めることから特待生としても十分に実力を発揮できると夏井先生から評価された。文学じみた独特の表現が目立つが、人名などの固有名詞を季語と取り合わせることが多く、比喩を用いた表現も得意である。また、名人になって以降は破調の二物衝撃の句が目立っている。
以前はツイッターに俳句を投稿すると「深いですね」「粋ですね」と褒められていたものの、初出演の凡人査定の後は「凡人が句を詠むな」と罵倒されていたことを発言している。別番組ではコメンテーターでもあることから影響力の大きさもうかがえる。
初参加のタイトル戦は5級ながら予選2位で決勝進出を果たし、決勝でも4位に食い込むなど早くも頭角を現しており、俳句歴の長さと経験から風格が漂っている。
初回の昇格試験では固有名詞を用いた句で余裕の昇格を見せ、夏井先生からも「名人を目指して」と期待値は高く、番組初となる無傷の3回連続昇格も決めた。他の特待生にとって手強い人物となるのは間違いない様相で、段位ではライバルの円楽師匠を猛追し、一時2級まで昇格した。
しかし、名人が目の前という段階で状況は一変。第2回冬麗戦と同時に挑んだ年初の番組対抗戦では、「プレバト!!」を背負って出演して"添削なし"の評価を得るも、情景が浮かびにくいと評され、東大才女・鈴木光の俳句に敗北し、無念の降格を経験。
また、語彙の選択ミスで通常回でも降格の屈辱を味わうことになり、さらに春光戦でも予選敗退と奮わずに鈴木に完敗。
鈴木光の登場以降、調子が完全に狂わされて全く結果が出せず、志らくにとって鈴木は天敵と認識している。
その鈴木が出演するクイズ番組「東大王」では、謎かけ川柳コーナーの出題者として東大生をボコボコにしているが、プレバト!!の俳句コーナーでは鈴木にボコボコにされていると語り、事実その通りになった。
苦しい査定が続いていたが、得意の人名の取り合わせを見事に決めて、4級から2級まで段位を戻すことに成功。その後も畳み掛けるように挑戦し、一斉昇格SPで念願の7人目の名人となった。
5級から通常査定12回での名人到達は東国原名人と並んで到達当時最多。番組対抗戦での降格を含めると推移13回はジュニアに次いで多い。また、名人になった句は題材となった渋沢栄一記念館に飾られていることも紹介された。
春の他流試合SPでは最終試合に満を持して登場。見事に高校生に勝利し、チームも逆転勝ちを収めた。
タイトル戦は6大会連続であと一歩で予選突破を逃す苦しい展開が続き、第3回金秋戦では8位・冬麗戦も7位に沈む。また、第4回春光戦予選でも4位に屈し、ボーダーライン下での予選落ちも4回目と、勝負弱いイメージがついてしまった。
夏井先生は「ハイアベレージ。東国原名人と同様にボロイ句がない」と実力を認めており、特待生時代から名人をも脅かす存在で警戒すべきと評し、梅沢名人が最も恐れる人物とも紹介されている。
本人は、TBSの「ひるおび!」のコメンテーターとして出演するほか、2019年10月からTBSの朝の情報番組「グッとラック!」のMCに就任することで多忙になる一方、プレバト!!の収録日だけは1年間他の仕事を入れないことをツイッターでも公言しており、当番組に懸ける熱意は並々ならぬものがある。
俳句甲子園対外試合ではチームのトリとして初参戦。独自性のある一句で大勝負をかけるが、審査員11票中1票のみという惨敗を喫してチームも敗れた。
また、年始の番組対抗戦では昨年とは異なり自身がMCを務める番組から共作に参戦。国山ハセンアナウンサーの提出句が陳腐すぎるため、添削ではなく自身が改作をしてしまったため先生から叱責を受ける事態に。
最近は挑戦的な句を詠みつつも名人初段から吹っ切れずに足踏みが続いていたが、なんとか昇格を果たし、タイトル戦は炎帝戦でも2度目の予選通過。決勝では自己最高位の2位となった。続く金秋戦は5位となるが、破調の句が好きすぎる点を円楽師匠にダメ出しされている。
秋の他流試合SPでは先鋒戦として登場。独特の季語で挑むも実体験を詠んだ東大生に判定負けを喫した。
年間優勝句が選出されて挑んだ第5回冬麗戦は名人では最下位となる12位でランク外。番組内で句の発表をなされない屈辱を受け、本人はTwitterでの公開を公言した。そして、優勝者8名を要する第6回春光戦で遂に念願の初優勝を決めた。
2022年9月放送の「ふるさと戦」では東京都出身ながら他県2部門に参戦し、あと一歩のところで優勝を逃した。その後、2023年1月放送の第2弾の千葉編で地元にゆかりのある4名を差し置いて見事に優勝を決めた。
2022年の金秋戦で、予選から勝ち上がった春風亭昇吉と対決。順位発表前は勝気に「負けたらノーギャラで演目に出演する」と豪語していたが、見事に敗北。宣言通り、春風亭昇吉の前座にノーギャラで出演することとなり、2023年3月の講演でお披露目となった。
2023年春光戦予選は3位ながらも滑り込みで決勝進出。再び春風亭昇吉と決勝で戦うこととなり、辛くも順位が上回った。また、5月開催の浜田杯でも11位(昇吉15位)と逃げ切るも、昇吉との小競り合いが続いている。
●[1] @17/04/13◆お題:校庭とチューリップ
『南無(なむ)の空光に見えしチューリップ』凡人2位50点
添削後
『南無の空ひかりとなれるチューリップ』南無とは「帰依する、おまかせする」の意。本人曰く小学校の入学は仏門に入るような気持ちで、仏様が光に見えることを表現したかったようだが、意味が正確に伝わらず凡人に。
●[2] @18/03/22◆お題:桜と新幹線
『朝桜夕べの雨に色をつけ』才能アリ1位71点
添削後
『朝桜ゆふべの雨に色そへん』●[3] @18/05/31◆お題:
更衣(ころもがえ)『更衣シャツに空色そっと添へ』才能アリ2位70点
添削後
『更衣シャツにほのかな空の色』『更衣シャツにあえかな空の色』季語は「更衣(ころもがえ)」。前回の反省を早速取り入れた挑戦句。実際に洗濯物を干すと、青空がシャツに映えていた。前回「色をつけ」では面白みがなく「添へ」の方が俳句らしくなると先生に忠告され、色を添へるという展開したと語った。梅沢名人は「非常に上手。1位になれない理由は、"添へ"がイマイチ」と工夫を敢えてダメ出しする。先生は名人の指摘を褒めた上、白いシャツに空の色が映る・添うという発想が実感を読み手に伝えている点が良いと評す。「添へ」があれば「そっと」は不要と指摘し、微かなニュアンスにした方が空色が映えると解説。ただの色の種類で終わらせず、形容動詞を用いることで、リアリティを生み出し、夏の空の色を想起させる添削を2例示す。繊細な感じなら「あえか」の方が本人の句に合うのではと添えた。次回は「あえか」で詠みますと本人はリベンジを語った。
●[4] @18/07/19◆お題:
砂浜『ガンジーのような足が出る砂日傘』才能アリ1位72点
添削後
『ガンジーのような足出る砂日傘』「砂日傘」はビーチパラソル。飄々とした作風も詠めることが先生に評価され、見事に特待生に認められた一句。
[ここから特待生として査定]●[5] @18/08/02◆お題:
夏の太陽『油照り毛糸のような犬拾う』第2回炎帝戦予選2位添削なし
●[6] @18/08/09◆お題:
ラジカセ『ジヤズを聴くモナリザに似た夜店の人』第2回炎帝戦決勝4位添削後
『ジヤズを聴くモナリザめける夜店の人』下五の字余りは本人が狙ってやった意図があり、夏井先生も才能があると驚愕した一句。
●[7] @18/08/16◆お題:
帰省ラッシュ[新幹線の空席案内板]『啄木の顔して帰る盆休み』4級へ
1ランク昇格添削後
『啄木の顔し盆休みの無心』
季語は「盆休み」。「啄木の顔」の比喩を大絶賛される。「無心」の人に金をねだるという意味をもつ石川啄木の性格を入れ込んだ添削を受けた一句。
●[8] @18/11/01◆お題:
晩秋のレストラン『晩秋や乱歩を読みて窓に蟲』3級へ
1ランク昇格添削後
『晩秋や乱歩を読めば窓に蟲』
よく考えた季重なりとし、「晩秋」を立てて「蟲(むし)」の季語の力を失わせる技術が評価された一句。添削例は三つの意味があり、「原因結果」「恒常条件」「偶然条件」の様々な読みができるとし、表現力を磨くよう指南された。
●[9] @18/12/20◆お題:
こたつとみかん『婆やは蜜柑食べ続ける妖怪』2級へ
1ランク昇格添削なし
季語は「蜜柑」。子ども目線で祖母が無性に蜜柑を食べ続けるのを怖く思った体験を比喩を用いて巧みに表現した一句。破調の調べに内容が合っており、「裏切りが楽しい」と評され、無傷の3連続昇格となった。
●[10] @18/12/27◆お題:
年末の満員電車『働くと書くだけの為日記買う』第2回冬麗戦予選5位添削後
『働くと書く為だけの日記買う』
季語は「日記買う」。サラリーマンは毎年のように日記を買っても、仕事のスケジュール以外書くことがないことを表現した一句。発想は良いが語順がもったいないとし、散文的な部分を添削された。本人は句の提出後にミスに気付くも手遅れだったと語り、惜しくもタイトル戦予選通過を逃した。
●[11] @19/01/03◆お題:
初詣のお賽銭(第3回番組対抗戦)
『懐手解いて絵馬書く癌の人』3級へ
1ランク降格(1位東大王チームに敗北判定のため降格)添削なし
季語は「懐手(ふところで)」。初詣で深刻に絵馬をぶら下げる和服の人物が「がんには負けない」という内容を書いており、その生命力を目の当たりにして壮絶な感じがしたと語った一句。梅沢名人は「これが俳句だ。考え抜いた俳句で素晴らしい」と持ち上げて才能アリ1位の東大王チームを牽制する。東国原名人は「"癌の人"の表現をどう採点するか」と分析する。直接対決の結果、「賽銭の音や初鳩青空へ」と詠んだ東大王の鈴木光の勝利を言い渡し、梅沢名人・志らくは固まってしまう。先生は言葉をきちんと押さえてあり、「癌の人」が少々冷たい表現であるが、見ず知らずの第三者の言い方として適切であるため添削は不要だと添える。東大王鈴木の句は映像や音がパッと脳裏に再生されるが、この句は内容が深いためかなり読み込まないと状況・作者の意図がわからないと指摘し、二択で選ぶなら一瞬の鮮やかさを描いた東大王鈴木の句に軍配を挙げざるをえないと評した。プレバト!!チームの志らくは、ルールにより3級に降格したが、付き人と名乗る梅沢名人は難を逃れた。
●[12] @19/01/10◆お題:
書初(かきぞめ)『走馬灯に駆け込む書初めの午』3級で
現状維持添削後
『書初めの「午」駆け込まん走馬灯』
季語は「走馬灯・書初め」。子どもが書初めで書いた「午(うま)」の字に躍動感があり、この午がどこに行くか想像した時に四角い走馬灯なら綺麗ではないかと語った一句。先生は「走馬灯」が夏の季語であるため「読み手を混乱させている」と評し、季重なりを成立させるには語順を変えるべきと指摘。新年の「書初め」から始めれば、最後の「走馬灯」の季語の力が薄まり、現実のものではなくイメージのようなものになると解説。中七を「駆け込まん」とすれば"駆け込むに違いない"と作者の意図が明確になると添削した。本人は季重なりのため敢えて破調にしたと反省の弁を述べ、初の現状維持査定となった。
●[13] @19/02/28◆お題:
ひな祭り(紙雛)『母手折る紙びな父のラブレター』4級へ
1ランク降格添削後
『母が折る紙びな父のラブレター』
季語の「紙雛」を母が折る様子を見た娘が大人になって何気なく開くと父のラブレターだったというエピソードを句にした。梅沢名人は「惜しいですね、"手折る"は枝をボキッと折ること。何で電話くれないの?」と問題点を指摘。夏井先生も「手折る」がポイントと指摘し、梅沢名人はWピース。結果は通常回で自身初の降格。「発想は昇格レベルなのにね…」と評す先生は、「何で勿体ないことをするのか、この男は!」と呆れ顔に。梅沢名人の指摘が「当たっているのがはがいたらしい」と愛媛の方言で語り、梅沢名人は「勉強してますから。なっちゃんの本で」と先生にヨイショする。句のエピソードは大変良く、「ラブレター」との取り合わせに「紙雛」という季語を使う必然性があるのが特待生らしいと褒めつつも、致命的ミスの「手折(たお)る」は、道具を使わずに手で花や枝を折るという意味の他に、女性を自分のものにするという意味があるため「母が手折る」「母を手折る」という世俗模様の大きな誤読を生む言葉の選択をしたと非難。たった一字の添削で昇格を逃す事態に、「やっぱり梅沢さんに電話すれば良かった」と本人は態度を委縮させてしまった。
●[14] @19/04/04◆お題:
春の鮮魚店『ジョンレノンを聴く魚屋目借時』第3回春光戦予選4位添削後
『ジョンレノン聴く魚屋の目借時』
季語「目借時(めかりどき)」は暖かい春の眠気を誘う時期のこと。魚屋の主人がジョンレノンの「イマジン」を聴き、平和な歌だからウトウトする目借時に、春の魚がパァ~ッと店に並び実に平和だという一句。梅沢名人は「何で"を"を入れたのよ!"ジョンレノン"だけで十分。それで五七五を作れば優勝よ!」と予選敗退に激高。先生は梅沢名人に同調し、「勿体ない、4位に関しては全てをドブに捨てた」と手厳しい。「聴く」動作によって、「魚屋」は場所ではなく、人物だとわかる書き方で、「ジョンレノン」「魚屋」「目借時」の三要素がちょうど良い取り合わせで三角形を作っていると称賛するも、リズムが全然のんびりしていないのが問題と指摘する。「を」を除けて、「の」を中七につけるという助詞だけを直して、定型句に添削。「これなら3位の句には勝ってた」と惜敗だったことを明かし、本人も悔しがった。
●[15] @19/04/11◆お題:
春のクリーニング店『桜隠しキリストめける干したシャツ』3級へ
1ランク昇格添削後
『桜隠しの物干キリストめけるシャツ』
「桜隠し」は桜の開花時期の降雪を指す春の季語。降格続きのため「天狗の鼻をへし折られ過ぎて鼻がなくなった」と心境を綴って挑戦。季節外れの雪が桜の花を隠すという季語を用い、夜通し干していた洗濯物が降雪で凍った姿をキリストの磔刑に喩えた一句。梅沢名人は「志らくさんでないと詠めない。素晴らしい」と大声で褒めた。ポイントは季語と比喩のバランスの是非となるが、結果は久々の昇格。「名人クラスの挑戦!」と評す先生は、「4級のくせによくこんなことを…」と口悪く切り出すが、俳句の三大季語「雪月花」のうち、雪と花の映像を併せ持ち、冬と春の季節をまたぐ印象をもつ難しい季語への挑戦を高評価。日本の美意識を象徴する季語と西洋の象徴である神と対比も考えていると絶賛し、最後の比喩の部分も併せ、一句の推敲に格闘してギリギリのバランスに収めたのが手に取るようにわかると姿勢を強く褒めた。先生は物干の映像を先に確保する語順に直し、映像が読み手にストンと落ちるように添削。「これなら2ランク昇格」と添えたが、本人は「語順で悩んだ。夜中の3時くらいに目が覚めてこうなった」と反省の弁を述べた。
●[16] @19/04/18◆お題:
自動ドア『自動ドア開けて子を追うシャボン玉』春の他流試合SP第5試合30-27で
判定勝ち添削なし
季語は「シャボン玉」。シャボン玉で遊ぶ子を母親が呼び止め、帰宅していく最中に自動ドアが開き、シャボン玉が子の後を追っていくような光景を詠み、誰が子を追いかけるのかという引っかけを語順で演出した。「子煩悩の志らくの句」と梅沢名人はべた褒め。高校生は「シャボン玉自体が自動ドアを開けたのではないかとわかる語順」と巧みに鑑賞する。結果は「鉄塊の森の底飛ぶつばくらめ」に判定勝ち。宇多先生は「兼題の見知では良い」、井上先生は「切れ端の一瞬をよく捕まえており、想像性が豊かな句。テクニックがあり老練」と褒めた。夏井先生は「さらっと書いてあるが、擬人化が可愛くもあるし、恐ろしい感じもあり、案外奥行きがある」と総括した。チームも逆転勝利となり、面目躍如の活躍を見せた。
●[17] @19/05/09◆お題:
5月の鎌倉・小町通り『傘の色紫陽花寺に吸い込まれ』3級で
現状維持添削後
『傘とりどり紫陽花寺に吸い込まれ』
季語は「紫陽花」。傘の色から紫陽花が一杯咲く長谷寺に人が吸い込まれていくことを素直に詠んだ。上五の是非がポイントとなるが、結果は現状維持で言葉を失う本人。「たった一字で季語が損をしている」と評す先生は、「色」の一字が勿体なく、季語に「寺」という場所と下五の状況は映像化できていると褒めるも、傘の「色」の印象が先に出るため、季語「紫陽花」のイメージが弱いのが損だと指摘。縦に一行に書いたとき「色紫陽花寺」と言葉が続くのが勿体ないと重ねた。数人が傘を持って入っていくという本人の意図に沿うように添削し、「色」と言わずに、色を思わせながら季語の色を殺さないという"小さな配慮"を持つべきだと忠告した。本人は昇格することしか考えていなかったため、即座にコメントできず。「次は縦に書きます!」と反省の弁を綴った。
●[18] @19/06/06◆お題:
梅雨の物干しハンガー『洗濯機の中に住みつく梅雨空』3級で
現状維持添削後
『洗濯機の中に梅雨空住みつくか』
季語は「梅雨空」。梅雨時は洗濯物が乾きにくいという心情を、洗濯機の中の梅雨空という比喩で表現し、破調の迫力で冒険した一句。岩永は「最後に"梅雨空"がくると思わない。素敵なサプライズな俳句」と持ち上げ、「良い人だ」と本人は感動するが、褒め上手なスタンスに「ええ加減にせえ」と浜田からお叱りを受ける。中七以降の是非がポイントとなるが、「語順が違う」と評す先生は、「なんて勿体ないことを」と吐き捨て、発想は面白く「洗濯機」と「梅雨空」のベタな取り合わせを如何に表現するかという意欲を強く評価したが、破調と最後のサプライズがやり過ぎで、面白さを狙う意図が失敗し、「何それ?」と読み手が受け取りやすいと指摘。読者に問いかける助詞「か」の押さえを効かせる添削に、しょんぼりした顔になる本人は、「まだまだ甘い。そういうこと"か"」とボケて反省した。
●[19] @19/07/04◆お題:
梅雨明けの銀座『梅雨明けやモジリアーニの歩く街』2級へ
1ランク昇格添削なし
季語は「梅雨明け」。アメデオ・モジリアーニは油彩の肖像画を得意とする20世紀初頭に活躍したイタリアの画家・彫刻家。『婦人像(C.D.夫人)』(ポーラ美術館蔵)などの作品がある。「銀座」と書かずにその雰囲気を出そうと挑戦した一句は、梅雨明けの銀座を颯爽と歩く人物の様子を、首長な女性像が多い画家の作風に喩えた。評価ポイントは季語と比喩の取り合わせの是非。「絶妙な距離感!」と評す先生は、"季語+や+取り合わせ"という基本の型を押さえた堅実な攻め方で、後半は比喩だと受け止められると解説。描かれた人物像は、都会のオシャレな感じもするが、憂鬱な表情にも見えると語り、イメージの距離感が丁寧に上手く出来ていると褒めた。作者の表現したい意図も実現できていると判断され、添削なしの高評価を得た。
●[20] @19/07/11◆お題:
夏の日光 ハイキング『豪雨の登山これより先は神の庭』1級へ
1ランク昇格添削なし
季語は「登山」。登山経験がなく、知人の体験談だと前置きした一句は、日光だからと油断して登山するも、天候の急変で雨に襲われる。山を舐めてはいけないが、何とか登ると雲間から太陽の光が差し込むように晴れる光景が、神様の庭に来た気分になるさまを詠んだ。横尾名人は「中七の表現は説明的で変えて良い」と指摘するも、本人は「そこにこだわった」と一歩も引かず、ズバリ査定ポイントに。「下五を生かす伏線」と評す先生は、上五は通り雨を凌ぐ登山と読み取れ、中七は具体的な映像は言わず、普通はダメな言葉だが、わざと何かと思わせる伏線として機能したと解説。下五も具体的な描写ではないが、全体として読むと、豪雨の登山の後に初めて見られる光景こそ神の庭だと伝わると称賛。てっきり登山をかなりしている人物の句と勘違いし、呆然としていると添えた。連続昇格で遂に名人に王手をかけた。
●[21] @19/07/18◆お題:
打ち上げ花火『花火果て襟裳の朱華き灯火かな』第3回炎帝戦予選4位添削後
『襟裳岬の灯火の朱華し花火果つ』
季語は「花火」。娘との風呂を拒むほど俳句を考えることに集中して家族ゲンカすることになった一句は、毎年8月に北海道で行われる「えりもの灯台まつり」で花火が打ち上った後の静寂に、灯台の明かりがポッと浮かぶ様子を描写した。よりイメージが湧くように、灯の朱華(はねず)色を「朱華(あか)き」と表現した。梅沢名人は「惜しい。ケツの"灯火かな"で季語が目立たなくなる」と指摘し、拍手する先生。花火が終わった後を愛でる日本人の美意識を解説し、暗闇に灯台の灯る着眼点は見事と褒める。しかし、「灯火かな」の詠嘆で主役の季語「花火」の比重が沈み、この語順では読み手が時間経過を思うのが問題点と指摘。地名から始め、助詞と活用語尾を微調整し、2つの明りを入れながら、季語を立てる添削を行う。今日は1位を争ったと語る先生に、「もっと風呂で考えれば」と残念そうに本人は語った。
●[22] @19/08/15◆お題:
夏空と電車『八月が降りる江ノ電の海水浴』夏の他流試合SP第1試合28-29で
判定負け添削なし
季語は「八月(はづき)」と「海水浴」。江の島の海水浴の風景をシンプルに詠もうと思い、八月がドーンと海水浴場に降りてきた様を詠んだと語った。対戦相手の句を見てない段階で「師匠、勝ちましたね」と語る藤本名人は、「中七・下五の映像を際立たせるために、映像を持たない季語を持ってくるのは素晴らしい」とべた褒め。対戦相手の中学生は「『八月』という大きな季語を比喩で使ったのが大胆で良い」と冷静に評し、「大人の人と喋ってるみたい」と本人。結果は「風鈴は鳴らぬ駅長室のドア」に判定負け。井上先生は「『八月』は物を食べないし、恋はしない。喩えが踏み出し過ぎ」と指摘するが、宇多先生は「私はそこが良かった。手足があるものが降りてくるのではつまらない」と意見が割れる。夏井先生は「上五の一種の擬人化を大胆で面白いと評価するか、分からないとするかが評価の分かれ目」だと解説。しかし、「この句が小中学生選抜の句かとも思った。思い切った手法にチャレンジしたのかもしれない」と添え、本人は「おじちゃんはね、精神年齢がまだ8歳なの」と相手に語るように締めくくった。
●[23] @19/09/05◆お題:
回転寿司の秋刀魚『秋刀魚寿司廻りて外の雨斜め』1級で
現状維持添削後
『回転寿司とぎれて秋の雨斜め』
季語は「秋刀魚(さんま)」。TBSの朝番組のMCに抜擢され、名人となる今年最後のチャンスと意気込む一句は、秋刀魚の回転寿司が廻る様子を眺め、何気なく窓外を見ると雨が斜めに降るという浮世絵ならではの有名な光景を描写し、粋な感じを表現したと語った。ジュニアは「そう言うならそうなのでしょう」と多くを語らず。査定ポイントは「秋刀魚」の是非となり、結果に腕組みをする本人。先生は、発想や映像の展開は良いと褒め、目の前の回転寿司の光景の後に下五に視線が映り、「斜め」と描写できる点が上手いと称賛する。しかし、「秋刀魚である必要があるのか?」という問題点に言及する先生は、この句は「雨」に視点がいくため、廻る寿司なら何でも良く、季語が主人公になっていないと指摘。凄く良い句になると語り、上五は「回転寿司」で前半を表現し、季語を「秋の雨」に変更した。さらに、回転寿司の描写として、皿の途切れる様子を表現する形に添削。「とぎれ」たきっかけに外に視線が移る光景となり、「こう来たら文句なしの名人」だと加えた。本人は、「"とぎれて"と言われて息の根を止められた」と反省するも、ジュニアは「この番組は名人しか着物着たらダメだ」と名人ならずの本人に普段着にもダメ出し。「以前スーツで来たら誰だか分からなかった」と失敗談で返した。
●[24] @19/09/19◆お題:
道後温泉(俳句甲子園'19延長戦)
『消灯直前に来た客と月夜の温泉の中』審査員11票中1票で弘前高校に
判定負け※読みは「直前」→「まえ」、「温泉」→「ゆ」
添削なし
季語は「月夜」。20音使う大胆字余りに挑戦した一句。本人は、俳人・高浜虚子の字余りの最高が25音でそれを越えてはいけないと思い、読み方を工夫した語った。大将戦の結果は「番台の隠れ飲みたるラムネかな」に完敗。審査員の一人は「虚子が25音やったのなら、俺はそれ以上やってやると考えてほしかった。かしこまってはいけない」と指摘し、本人はお辞儀をする。司会者からは終始"立川さん"と呼ばれる羽目に。夏井先生はチームワークの差で負けたと結論付けた。スタジオで結果を見届ける際、高校生が詠めないような句を詠むと意気込み、人生の生きている長さが違うと自負していた本人だったが、チームのトリとして結果を残せず、言葉少なめだった。
●[25] @19/10/10◆お題:
冷蔵庫『釣瓶落とし喋るな黙れ冷蔵庫』第3回金秋戦予選8位添削後
『真夜中の喋るな黙れ冷蔵庫』『失恋や喋るな黙れ冷蔵庫』『リストラや喋るな黙れ冷蔵庫』『左遷の夜喋るな黙れ冷蔵庫』
主の季語は「釣瓶落とし」で「冷蔵庫」と季重なり。最近の喋る機能のある冷蔵庫へと作者が語りかける様子を詠んだ一句。「釣瓶落とし」は秋の日が急に暮れる意味と、木の上から落ちてきて人間を襲う妖怪の2つを意味し、冷蔵庫がうるさいと感じる人物の心情を「妖怪」「喋る冷蔵庫」とで掛けたと語った。指名された藤本名人は「中七が怖い」とコメントし、その指摘に不満な梅沢名人が「季語が2つある」と語るも、浜田に「え?お前はフジモンなの?」としゃしゃり出た姿勢を咎められる。先生は、季重なりは許容し、「喋るな黙れ」のストレートな表現も悪くないとするも、中七の発想に類想感があると解説。さらに、季語「釣瓶落とし」が機能していないと指摘し、「妖怪と意味を重ねた意図が、本人が面白いと思ってるほど読み手の側は面白くない」と酷評。上五を諦めれば何でもできると、時間情報や理由を入れる添削を4例示す。例えば、「真夜中の」とすれば、"冷蔵庫が喋らなければ家族にバレなかったのに"と後半のフレーズから背景が想像できると解説し、最後に「これ、自分でやって」と投げかけた。
●[26] @19/10/31◆お題:
ATMの行列『色変えぬ松や渋沢栄一像』名人初段へ
1ランク昇格添削なし
季語「色変えぬ松」は、秋でも常緑樹の松は紅葉しないことを表す。金秋戦から開き直った一句は、『渋沢栄一』を題材とした。東京証券取引所などを設立し、2024年から一万円紙幣の肖像画となる人物だが、松に囲まれる若き日の銅像が埼玉県深谷の生家にあり、資本主義の父が次はお札になるという意味を込め、"変わらぬもの"と"変わるもの"の対比で表現。業績は松と同じで未来永劫変わらず、季語と人物と「や」だけで挑んだと語った。指名された村上名人は「すっごそう」とはにかんで応対するも、「渋沢栄一が"今"注目され、パワーのある句。季語と人物の2つのみでシンプルだ」と的確に批評する。査定ポイントは季語の是非。「映像と業績を一度に表現」と評す先生は、難しい季語へのチャレンジ精神を褒め、季語と名詞1つのみの"究極の取り合わせ"と語る。像を知らなくても、松に囲まれる像の映像化がなされた上で、資本主義の業績が季語同様に今も脈々と受け継がれるという取り合わせの意味も読者に伝わると解説。意図通りに何もかも伝わった句と結論付け、「思い切ったやり方で名人に上がるのもかっこええ」と祝福。5級から12回目の査定で番組7人目の名人に昇格した。なお、この句はのちに渋沢栄一記念館に飾られたことが紹介された。
●[27] @19/11/21◆お題:
満員電車『戦前のおしくらまんじゅう空広し』名人初段で
現状維持添削後
『おしくらまんじゅう戦前の空とは広し』(文語表現)
『おしくらまんじゅう戦前の空広かりき』(文語表現)
『おしくらまんじゅう戦前の空広かった』(口語表現)
季語は「おしくらまんじゅう」。「同じ名人として梅沢御大10段らを尊敬していたら追いつけない。尊敬するのは夏井先生だけ」と気合いのこもった一句は、満員電車の混雑の光景から子どもの遊びへと発想を飛ばした。過去に自身の祖父が「小さい頃の東京の空は鬼ごっこなどをしようがとても広かった」と語ったことを思い出して詠んだ。梅沢名人は「語順が悪いかな」と指摘するが、「中七までの謎の展開から空へと広げる語順にした」と本人が返すと、「なら、よろしいのでは」と折れ、浜田が再確認。査定ポイントは上五となるが、なぜか梅沢御大が指摘の的中を予言する。現状維持の理由は「語順がもったいない」とまさに最初の指摘がドンピシャの御大は観覧席に「見たか、娘!」と自慢する。「戦前」と時間を超えて句を作る挑戦は名人だと褒める先生は、季語の鮮度の問題を指摘。上五字余りで季語を置けば、季語が子の遊びを指す眼前のものとして立ち現れると解説し、「戦前の空」へと続ける。さらに、この後の展開は文語か口語かの2択だと切り出し、添削例を3例示す。口語の例なら、祖父の語った人物の言葉がそのまま耳元でささやくかのような様子へ。添削に頷く本人は「梅沢さんもまだ尊敬する」と当初の発言を撤回し、指摘を当てた御大を立てた。
●[28] @19/12/26◆お題:
年末年始の駅弁売り場『正月の麻雀強し弁当屋』第3回冬麗戦予選7位添削後
『正月の麻雀弁当屋の勝ち逃げ』
季語は「正月」。初詣でおじさん達が「麻雀(まーじゃん)やると弁当屋が強い」と語っているのを聞いたことがあり、なぜ強いかと思うと、弁当屋は正月三が日も忙しくてテンションが高いため、ぼんやりしている他の商店の連中に勝ってしまうと思い詠んだという句。梅沢名人は「意味がつながらず、読者は訳が分からない。失敗こいた」と厳しく批評。先生は話を聞いて理解したと語り、この書き方では誤解を生むと解説する。中七までで誰かが強いとは分かるが、下五が唐突のため、弁当屋という場所で麻雀をしているのか、麻雀中に弁当を届けてくれたのかなど読みを迷うと指摘する。素材は面白いが、4人のプレイヤーの1人が「弁当屋」だと分かるように書くべきと指南。本人は「強い」と添削を提案するが、先生は「言っただけで終わる」と散々。「麻雀」で一度切り、最後に「勝ち逃げ」と加えることで人物の忙しさも表現され、儲けている弁当屋らしさも出る添削に、「しばらく『グッとラック!』休んだ方がいいかもしれない」と本人は自虐で返した。
●[W1] @20/01/03◆お題:
福袋(第4回番組対抗戦)
『女正月蟹の足だけ動きけり』凡人4位60点
添削後
『蟹の足動く女正月の厨(くりや)』
季語「女正月(めしょうがつ)」は、正月に忙しい女性達が一段落できる15日の小正月を指す。『グッとラック!』チーム・国山ハセンとの共作。三が日に忙しい女性らが15日にのんびりする傍ら、父が魚屋で買った福袋の蟹が台所で微妙に動くという光景を詠んだ。相方のハセンは「初売りに並んで感ず母の手を」と実体験を詠んだが、陳腐だと考えた本人が”母を詠む”をテーマに季語を選び、原形をとどめない形に作り変えた。ハセンの句の手直しでないことを認めるも、発想を飛ばしての凡人査定にショックを受けたと語り、「どういうことですか?」とハセンに追及される。ジュニアは「ハセンの方が良い」と笑いをとる。「元の句を見て驚いた」と語る先生は、季語の知識を褒め、夏の季語「蟹」が弱いため季重なりは問題ないと解説。問題点「だけ」が嬉しいのか寂しいのか読み取れず、全体を分からなくしたとし、台所の光景と読み取れないと指摘。「蟹の足」から始め、句またがりで台所を指す「厨(くりや)」に着地する語順にし、台所に集まる女性の会話が聞こえる情景に添削。さらに、強く言いたいと先生は続ける。原句を添削するならば、作者の意図する「母の手」を削ってまで勝手に直すのは添削ではなく”改作”だと指摘。添削は作者の思いを尊重しなければダメで、「添削したことに対して、非常に反省をしていただきたい」と作者を無視して独善的な句を提出した本人に説教し、原句も陳腐なためどのみち4位だとまとめた。本人は「正月早々、本気で怒られて泣きそう」と心境をつづった。
●[29] @20/01/09◆お題:
冬のお風呂[冬の入浴]『冬の蚊の申し訳なさそうなふう』名人初段で
現状維持添削後
『冬の蚊の申し訳なさそうに寄る』『冬の蚊の申し訳なさそうに鳴く』『冬の蚊の申し訳なさそうに刺す』
季語は「冬の蚊」。タイトル戦での予選落ちに小1の娘が学校で「お前のパパ勝てなかったそうだな」と言われるという背徳感を告白し、「夜中の3時に飛び起きて、『プレバト!!』で」と共演する田山涼成の焦るエピソードをもじって笑いをとる。肝心の句は兼題から大きく発想を飛ばし、句またがりに挑戦。銭湯を出た帰り道、体がほてっているため肌を露出していると冬の蚊に刺されることがあるが、夏の蚊と違う感触を表現して素直に詠んだと語った。査定ポイントは「ふう」の是非。「あと少し映像が欲しい!」と評す先生は、後半の表現に持って回ったようなこの句なりの味わいがあると語り、特待生1級以下ならば褒めて昇格させる句と解説。しかし名人ならば、季語の把握の問題を挙げなければと続け、季節「蚊」の違いを出すべきだと指南する。夏の季語「蚊」に対し、「秋の蚊」は動きが弱々しく哀れな気分が出る蚊の表現で、「冬の蚊」はじっと静止して人を刺す生命力もない蚊が季語の本意(ほい)だと解説。蚊の様子の差別化を最後にすれば映像が補完できると指摘し、添削を3例示す。じっとしている蚊がじわっと「寄る」、”冬の蚊のくせに飛んで来やがった”と羽音が「鳴く」、”冬の蚊のくせに俺を刺しやがった”と「刺す」で最後の晩餐をも表現。季語の本意を押さえた上で、ひと仕掛けをするかが名人の挑戦だと忠告した。本人は観念したかのように「名人の道は厳しいですね。今夜間違いなく夜中の3時に飛び起きます」と語った。
●[30] @20/02/27◆お題:
カップラーメン『カップ麺の匂い蜥蜴穴を出る』第4回春光戦予選Aブロック・4位(予選敗退)添削後
『カップ麺三分蜥蜴穴を出る』
季語は「蜥蜴(とかげ)穴を出る」は、冬眠から覚めた蜥蜴が活動的になることで、そのような暖かい気候にカップ麺を食べている人物を描写。「匂い」で穴から出た理由をイメージさせる気持ちで詠んだと語った。中田名人は「志らくさんらしい2フレーズの取り合わせ。3位までに入らなかったんですね~」とコメントし「てっきり1位だと思っていた」と本人。3位と4位をどうするか悩んだという先生は、句の半分が季語の難しい挑戦で、「カップ麺」との付かず離れずの感覚は良いと褒めるも、「匂い」で蜥蜴が穴を出したという"ナンセンスな因果関係"が引っかかると指摘し、俳句は因果関係を嫌う点に触れる。単純に時間を入れ、待つ間に「蜥蜴もそろそろ穴を出るかなあ」と外へ思いを馳せる感じの添削を行う。「とても惜しかった。作者が分かって呆然とした」と告げる。本人は、妻に句を見せたら「『匂い』が邪魔じゃない?」と言われたため、「何言ってんだよ。匂いでおびき出すんだよ!」と返したエピソードを語り、後の祭りを反省した。
●[31] @20/04/30◆お題:
おうちの冷凍食品(通信添削・おうちで俳句)
『冷凍肉溶けて血外は虎が雨』名人初段で
ガッカリ添削後
『冷凍肉溶けて血虎が雨しとど』
季語は「虎が雨」。冷凍庫の掃除のため肉の塊を出して放置すると、肉から血(ドリップ)が滲んできた。その時、外は雨が降ってきたため、血を雨が洗い流すイメージを詠んだ一句。普通の雨では面白くないと「虎が雨」にし、なかなか良い句が出来たと語った。先生は、マニアックな季語を見つけたと語り、取り合わせに冷凍肉の滲む血を見つけ出したのは褒めて良いと評価。「虎が雨」が外で降るのは伝わり、「外は」が説明的なのが勿体なく、季語の描写をすべきだと指摘する。「しとど」で勢いが激しく、ぐっしょりと濡れる様子を表現できるとし、添削後なら昇格だったと添えた。本人に「吹っ切れていけるのではないかと期待したい」とエールを送った。
●[32] @20/05/07◆お題:
春の花屋さん『春バラの赤やバンクシーの風船』名人初段で
現状維持添削後
『バンクシーの風船春バラの赤よ』
季語は「春バラ」と「風船」。覆面アーティストのバンクシーが描いた代表作「風船と絵画」から着想。春のバラ園に行った時、大きなバラのアーチが浮くように見えたのが綺麗で、バラの赤があまりにも鮮明で衝撃を受けた。バンクシーの絵の真っ赤な風船と重なったため詠んだという句。梅沢名人は挑戦を褒め、私には分からないと連呼する。査定ポイントは2つの季語「春バラ」と「風船」のバランスの是非。「メリハリが足りない!」と評す先生は、物凄く勿体ないと評す。発想は面白く、2つの季語を活かそうとする意思も明確にあるとし、「風船」は絵の中の物のため虚構の季語で、実像の「春バラ」が本来の季語だと、季語の違いを解説する。2つの季語を繋ぐ「赤」の選択も正しいと褒めるが、本人が書いた実体験通りの語順ではなく、俳句として味わう時は逆が正解と指摘。虚構の季語を先に出し、最後の詠嘆も軽く添えるtと、詠嘆により、春バラの映像が最後に残ることで、実の季語が強くメリハリが出ると解説。やって下されば、遠慮なく昇格だったと総括した。勿体ない挑戦に本人も後半に気持ちが行き過ぎた反省した。
●[33] @20/05/21◆お題:
デリバリー『ねずみもちの花溢れ宅配ピザ乱れ』名人2段へ
1ランク昇格添削なし
「鼠黐(ねずみもち)の花」は夏の季語。庭にこぼれるように沢山咲くねずみもちの花。自宅に届いたピザは運び方が悪くて中が崩れていた。そんな2つの光景を取り合わせたという20音の一句。「花乱れ」「ピザ溢(こぼ)れ」とせず、敢えて動詞の対応を変えた方が粋ではないかと語った。査定ポイントは「ねずみもちの花」「宅配ピザ」の取り合わせの是非。「取り合わせが成功」と評す先生は、無関係な2つの物を1句に取り込む"取り合わせ"を解説。意味は関係ないが、似合う気がする「つかず離れず」の感覚に挑戦した意欲を評価した。プラスの「溢(あふ)れ」、マイナスの「乱れ」とイメージを対比させ、「れ」で韻を踏んだ点も称賛。前々回の「ガッカリ」査定で7歳の娘に対する親のメンツが丸つぶれだと語っていた本人へ「かなり頑張ってる。娘さんに『お父さん頑張ったよ』と伝えて」と名誉挽回の先生の一言に、「永久保存版にします」と本人は返した。
●[34] @20/07/02◆お題:
ペットボトルのお茶『三ツ矢サイダー三島由紀夫の覚悟』名人3段へ
1ランク昇格添削なし
季語は「サイダー」。「毎度おなじみ」と自分でも語るほど多い人物俳句の破調は10回目。三島由紀夫は三ツ矢サイダーがとても好きで、サイダーを詠んだ句(「ワイシャツは白くサイダー溢るゝ卓」)もあり、切腹自殺する年の夏に覚悟を決めて三ツ矢サイダーを飲んだのではないかという妄想句と語った。梅沢名人は、「CMスポンサーがあるため、他社の飲料水の話は出来ない」と笑いを取るも、査定ポイント「固有名詞2つを取り合わせたことの是非」と発表されると急にダメ出しする御大。「企みが成功している!」と評す先生は、3点のたくらみを挙げる。1点目は、「三ツ矢」と「三島」で韻を踏んでいること。2点目は、単なるサイダーではなく固有名詞にしたことでロゴを含めた映像が見えること。3点目は、「サイダー」の泡に対し、強く堅い言葉の「覚悟」と対比させようとした点。色々な企みを二重三重に張り巡らせているが、全部成功していると称賛し、名人になると二重以上の企みのバランスが取れるようになると総括した。
●[35] @20/07/30◆お題:
アイスクリーム売り場『八月十五日アイス溶け続け』第4回炎帝戦予選D2位(補欠より決勝進出)添削なし
「八月十五日」「アイス」の季重なり。終戦記念日の8月15日は日本で一番長い日と言われ、ラジオの玉音放送を聞くただならぬ大人たちの雰囲気があった。たまたまアイスキャンディーを持っていた子が舐めることも出来ずにアイスは溶け続けているという様子を詠んだ。日本人が忘れてはいけない日のため、永遠にアイスは溶け続けるという気持ちを込めたと語った。梅沢名人は「季語が2つあるオシャレな句」と褒めるも、昇吉は「全然ダメ。物がないはずの終戦日になぜ"アイス"があるのか?」と指摘し、評価が割れる。玉音放送や蝉の声、すすり泣く人たちの声が否応なく出る重い終戦日の季語に対し、「アイス」は現代に切り替わっている光景に読めると昇吉の疑問に回答する先生。手に持つアイスは、時の流れを超えて永遠に溶け続けていると解釈でき、「け」と切らずに流しているのも作者の意図に違いなく、「チャレンジしている」句と評した。予選2位で敗者復活に回ったが、重いテーマに果敢に挑んだ姿勢を褒める先生は、終わらない戦争のイメージをアイスの現代的な映像で切りだし、力をつけていると決勝進出理由を説明した。
●[36] @20/08/06◆お題:
ポイントカード『炎天のミミズ診察券のシミ』第4回炎帝戦決勝2位(シード権獲得)
添削なし
季語は「炎天」「ミミズ」。生と死の比較を詠んだという一句。診察券にシミが付いても患者は一生懸命に生きているが、炎天の中でミミズは干乾びているという2つの対比を考えたと語った。先生は句またがりの対句表現の型だと押さえ、夏の季語を2つ重ねた句だと評す。一般に、季語となる生き物は片仮名で表記しないが、意図的な表記で、干乾びて死にかけているに違いないミミズだと伝わると語り、患者の診察券のシミという無関係な物と取り合わせたと解説。生と死は大袈裟に表現しがちだが、この句はさりげなく取り合わせ、「ミミズ」「シミ」の韻も考えており、よく勉強している句だと称賛。「作者が分かったら嬉しい」と褒め称えた。自身最高位となる2位となり、初めてシード権を獲得した。
●[37] @20/09/24◆お題:
文房具『龍淵に潜む我を消す消しゴム』秋の他流試合SP第1試合9-10で
判定負け添削なし
秋の季語「龍淵(りゅうふち)に潜む」は、秋分の頃を指す想像上の季語。力を持つ龍の伝説の季語を用い、秋の日になると嫌な思い出を消したくなる瞬間がある思いを詠み、「消す」「潜む」と並べて「潜む」「消しゴム」で韻を踏んだと語った一句。梅沢名人は「大したもんだ」と適当に褒める。結果は、定期試験前にシャープペンの芯を補充する実体験を詠んだ東大王・岡本沙紀の「シャー芯をストンと補充秋高し」に判定負け。先生は、決して悪くない句だと慰め、後半に自分の想いをぶつける勇気ある挑戦だと認める。難しい季語に挑んだ点が評価の分かれ目だと解説。季語が長く、どのみち定型にはならないが、「我」を2音の「われ」と普通に読むか、1音の「が」と読み、利己的な心を消すのかという点で迷う所が微量あると指摘する。俳句は企み過ぎると、企みによって季語が生かし切れないと解説し、背伸びをせずにリアリティある句を詠んだ岡本を褒め称えた。負けた本人は「来週から『グッとラック!』の司会をやって」と岡本に持ちかけた。
●[38] @20/11/12◆お題:
7時過ぎの時計『谷崎のエロス潤目鰯の骨』第4回金秋戦決勝5位(次回シード権なし)添削後
『谷崎のエロス潤目の骨刺さる』『谷崎のエロス潤目の骨柔し』『谷崎のエロス潤目の骨ウザい』
季語は「鰯(いわし)」。谷崎文学賞は受賞者に時計を贈呈するが、谷崎潤一郎は独特な美意識が特徴の小説家で、作品を読むと実に官能的になる。潤(うる)目鰯で酒を一杯やる時に、その骨までも官能的に見える。「潤目」と名前の「潤一郎」の「潤」を引っかけて遊んでみたと語った。円楽は「遊びは面白いが、破調が好きすぎる。作風が嫌い」と火花を散らし、仲良くされるよう出演者に促されるが、「好き嫌いはあっていい。芸事だから」と堂々と立ち振る舞う。梅沢名人は「七五調で定型にしてほしかった」とコメントし、その分析力を褒める先生は、「発想を飛ばし方は限界の句」と評す。「潤目」と言わず「鰯の骨」の後に骨を描写すれば良いと考えていた先生だが、作者は「潤目」を活かしたい意図があるため、秋の季語「鰯」を諦め、「潤目の骨」と省略すれば「鰯」と通じると添削の方向性を示す。「エロス」「骨」をつなぐ描写を余った音数で示すべきと「刺さる」「柔し」「ウザい」と例示し、「エロス」と釣り合うような季語の描写をするよう忠告した。最後の描写はご自身で完成させてほしいと語り、上位に行けた発想を勿体ないと総括した。
●[39] @20/11/26◆お題:
箱根の紅葉『強羅のもみぢ宙に浮くマリア像』名人3段で
現状維持添削後
『マリア像うかべ強羅の山紅葉』『マリア像うかべ強羅の谷紅葉』
季語は「紅葉」。「破調が多すぎる」とネットでも呟かれるも、御大と対照的に破調で永世名人になると豪語する本人。箱根の強羅温泉にかつてあった教会(箱根教会:~2017年)の庭にあるマリア像は、小高い祠のような場所にあり、遠目に見ると像がまるで宙に浮いているように見えた。紅葉の季節になると、宙に浮くマリア像の背景にある紅葉が、物凄い崇高で神聖なものに見えてきたのを詠んだと語った。査定ポイントは中七「宙に浮く」の是非。「色々と裏目!」と評す先生は、本人の工夫した点が少しずつ裏目に出てかなり損したと印象を語る。まず、季語以上にマリア像が印象に残る語順の問題を挙げる。「宙に浮く」も、ホラー・オカルトがかった光景の印象があると指摘。さらに、「もみぢ」と平仮名に書くことで、周囲の漢字に対して浮き出す意図があるのは理解できるも、「強羅」「マリア像」の印象が強すぎて、逆に季語の平仮名が沈んでしまったと失敗を紐解きながら解説する。浜田が「語順もあるのかな?」と呟くと先生が同意し、「『マリア像』からいきましょう!」と正解を的中させる吸収力を見せる浜田。「マリア像浮かべ」で前半を作り、「強羅の○紅葉」と後半に置き、季語も漢字表記の方が印象が深いと指南する。最後の描写は、「山紅葉」なら広い光景となり、「谷紅葉」なら上から俯瞰して自分の目の下にマリア像が浮かぶ感じになると添削例を示し、「2音で色々できるのが名人の技ではございませんか」と諭した。本人は、「やはり語順が難しいんです、破調は。ですから、次回は五七五で」とさっさと破調を諦めた。
●[40] @21/01/14◆お題:
輪ゴム『雑煮食う爺(じじ)はバケモノ指鉄砲』第4回冬麗戦10位(最下位)添削後
『雑煮食うバケモノ爺さんの喉(のんど)』
季語は「雑煮」。[9]「婆やは蜜柑食べ続ける妖怪」を以前詠んだが、それを進化させて何か行動に移したいなと子どもの頃の思い出を詠んだという本人。おじいさんが正月に雑煮を食ってる姿が何だか不気味で、指鉄砲でパチンと撃ってみたい思い出があったと語った。梅沢名人も苦笑する展開に。先生は、意図はそれなりに面白いと前置きするが、材料が少し多すぎる問題点を挙げる。「雑煮」「爺」「バケモノ」「指鉄砲」とキーワードが4つもあるため、肝心の季語の印象がどうしても薄まると指摘する。兼題がなくなる(「指鉄砲」を諦め)が、「雑煮食う」から「バケモノ」にいき、読み手に疑問を抱かせた後、、「爺さんの喉(のんど)」と着地して恐ろしい響きを出すと添削を行う。最後、爺さんの喉にだけ焦点が当たり、この喉の動きがバケモノみたいに気持ちが悪く、これなら季語「雑煮」が主役に立ってくれると解説した。本人は「久しぶりに破調はやめて、五七五で詠んだが、こんな結果になってしまいました」と落胆した。
●[41] @21/02/25◆お題:
きのこの山とたけのこの里『鷹化して鳩にありし日の駄菓子屋』第5回春光戦予選D4位(予選敗退)添削後
『鷹鳩と化しありし日の駄菓子屋よ』
「鷹化して鳩になる」は、幻想的な気分を表す春の季語。兼題写真を見て、幼少期に駄菓子屋に行った昔の幻想的な光景がおぼろげに頭に浮かんできて、「鷹化して鳩に」とうまく合わさり、良い句が詠めたなと思ったと語った。先生は「本当に勿体ないことをした。大凡ミスと言うべき」と厳しく批評。縦一行に書いた際、「鷹化して鳩にありし日」と文法的には読めるため、鷹が鳩だった日の駄菓子屋という意味に誤読されると指摘する。「鳩に」までが季語だと分かるように、季語をアレンジすべきと忠告。同じ意味の「鷹鳩と化し」とすれば、意味が後ろに繋がらず、「駄菓子屋よ」の詠嘆で郷愁を少し強めるべきと添削した。1位を狙えた発想だったが、本人は「いやいや。この季語引っ張ってくるだけでも大変なのに、そんな難しいところまでは」と本音を述べた。
●[42] @21/04/08◆お題:
あくび『春眠や「カイロの紫のバラ」よ』名人3段で
現状維持添削後
『春眠とは「カイロの紫のバラ」か』
季語は「春暁」。「カイロの紫のバラ」は1985年公開、ウディ・アレン監督のファンタジー映画。生活にくたびれた主婦が同じ映画を2度観に行くと、劇中の演者が彼女に「また来ているんだね」と話しかけ、スクリーンから抜け出てくると、2人で映画館から出ていくというラブストーリー。これが春の眠たさと合わさって夢のような気がすると語った。査定ポイントは助詞「や」と「よ」の効果の是非で、本人も梅沢名人もポイントに挙げる。「読み手に寄り添ってあげてほしい」と評す先生は、勇気のある挑戦で、「春眠」の季語を使うのも難しく、固有名詞「カイロ」に季語「バラ」を含めた映画の題名との取り合わせを二重三重の挑戦だと褒める。「や」は季語の詠嘆で、「よ」は春眠のように柔らかく詠嘆する作者の意図も理解できるが、「『カイロの紫のバラ』」を知らない読者には、分からない句で終わってしまうと指摘する。読者に小さな「調べてみよう」と思わせる仕掛けがあれば良いと指南し、「とは」「か」を用いて語りかけるような文脈に添削した。"「春眠」は「カイロの紫のバラ」だと思いますが、あなた方はどうですか?"と投げかければ読者が興味を持つと解説し、最後に「こういう挑戦はやめたらダメ。あなたの持ち味ですから」と念押しした。本人は「思いつかないですね。ちょっと感動してしまいました」と感心した。
●[43] @21/07/08◆お題:
携帯扇風機『焼き鳥屋の団扇に「みつを」を見つけ』名人3段で
現状維持添削後
『焼き鳥屋の団扇に相田みつをの詩』
季語は「焼き鳥」「団扇(うちわ)」。携帯扇風機から団扇を発想。暑い中、焼き鳥屋では店主がバタバタと焼き鳥を仰いでいるが、団扇に何か字が書いてあると思うと相田みつをの言葉があり、あまりに団扇と不釣り合いで面白いと思ったと語った。梅沢名人は「志らくさんしか詠めない。ただ、『見つけ』はいらない」と指摘するも本人は「みつを」「見つけ」で韻を踏んだと説明すると納得してしまう。査定ポイントは、下五「を見つけ」という着地の是非。「あとは技術だけ!」と評す先生は、発想は面白さを17音に収める技術が必要だと忠告。2つの季語に加え、相田みつをの固有名詞も季語と同じほどのパワーを発揮するため、3つのバランスをとるのは物凄く難しいと述べる。後半「みつを」をさらに描写すべきと語る先生は、「見つけ」と鍵括弧を削除し、「相田みつをの詩」と添削。最後に、団扇の字に映像がクローズアップされ、2つの季語と固有名詞をこの1字が引き受ける非常に難しいバランスになると解説した。「志らくさんが俳筋力をしっかりつけた後は恐ろしいことになるんだろうとは思う」と印象を語る先生に対し、本人は「なんか私知らないうちに物凄い領域に挑もうとしているんだ」と反省の弁を述べた。
●[44] @21/08/19◆お題:
蜩『今日も空蝉を拾らふだけの朝か』名人4段へ
1ランク昇格添削なし
季語は「空蝉」。空蝉を拾うことしか何もやることがなくなったご老人の思いが頭に浮かんで詠んだ自由律俳句。東京より大阪の方が蝉の鳴き声がうるさいさまを「拾(ひ)らう」の表記で表現し、無常さを出したと語った。梅沢名人は自由律俳句の可否を判断できないと述べ、「好きではない」とコメント。査定ポイントは「も」「だけ」「か」を選択した是非。「助詞で人物像を描けている!」と評す先生は「とうとう自由律になったか」と感触を率直に述べる。「も」「だけ」は拾うことだけを今日もずっと続けているニュアンスで、「朝か」の「か」によって、ため息をする人物の印象を与えると解説。「も」「だけ」「か」のニュアンスのつけ方によって、人物像を自分の想い通りに焦点を合わせてきたと称賛した。拾うものは何でも良いはずだが、「空蝉」であるところが非常に良く、抜け殻のような心持ちの人が今日も空蝉を拾っているような句と味わう先生は、「好きな句でした」と総評。本人は約1年ぶりに昇格を決めた。
●[45] @21/09/09◆お題:
食欲の秋『《首つりの家》には林檎は無いのか』第5回金秋戦予選B2位(決勝進出)添削なし
季語は「林檎」。読まれた瞬間、出演者も仰天した句。首を吊るような因縁のある家には華やかな林檎はないと読んでも良いと語る本人。林檎の絵が有名なセザンヌの「首吊りの家」という代表作を展覧会で見た時、タイトルにインパクトがある上、「林檎が描かれてない」と素直に思った記憶を書いたという一句。東国原名人は破調にする姿勢を褒めるが、絵の林檎のため季語の季節感が弱いとコメント。先生は、まるで一行詩のような作品だと感触を述べる。「首つりの家」がセザンヌの作品だと知る人は作者の思い通りの読みになるが、逆に知らなかった読み手がどういう読みを紡ぐかが評価の大きな分かれ目だと前置きする。首つりのあった家に対する誹謗・中傷・同情の目が当然あるが、その家には幸せの象徴のような赤く灯る林檎がなく、残された家族の痛ましい日々を「無いのか」と呟いて詠嘆した一句だと解説する。「林檎」は季語よりも、幸せな一家や家庭の比喩的象徴としてある味わいだと述べ、最終的にセザンヌを知るか否かに関わらず、同じ読みに寄るため、作品としては成功していると言わざるを得ないと語って称賛。鍵括弧もこだわりがあって選んだに違いないと思い、作者が分かって腑に落ちたと述べる。東国原名人は、志らく名人と決勝で戦う場合に「定型で詠まれたら怖い。今の破調のままなら勝てる」とコメントするも、本人に「そうやって五七五に誘導させて負けさせようとしている」とあくどい意図をすぐさま見抜かれて真顔になってしまった。
●[46] @21/09/30◆お題:
バッテリー切れ間近(携帯電話の電池残量)『静かに文を破くふと秋蛍』第5回金秋戦決勝3位(次回シード権あり)添削後
『静かに文を破く秋蛍ふっと』『静かに文を破く秋蛍ほのと』
季語は「秋蛍」。充電切れから秋の蛍を思いついたという本人。蛍が今にも消えそうに飛んでいるが、「文(ふみ)」は自分の中ではラブレターで、それを静かに破いている動作を「ラブレター」と書かずに「秋蛍」の季語によって浮かび出るように詠めるかなと語った。8位に沈んだ中田名人は、自由律俳句を詠まなかったことに不満げで「中途半端」だと評し、出演者を驚かせる。先生は、「文を破く」と「秋蛍」との取り合わせに詩があると褒める。「ふと」だけが引っ掛かり、俳句で2音足りない時に「ふと」、3音足りない時に「少し」を用いる嫌味な言い方をする時があると語る。文を破いている時にふと気付くという意味の語順であるが、後半の語順をひっくり返せば「秋蛍」の描写にすることもできると添削案を示す。季語の方に比重を入れるなら「秋蛍ふっと」や「秋蛍ほのと」で季語の動きを出せると解説した。
●[47] @21/10/21◆お題:
プレバトのランキング席『歯車の音が聞こゆる秋の空』名人4段で
現状維持添削後
『歯車や秋空軋むほど青し』
季語は「秋の空」。「歯車の音が聞こゆる」は芥川龍之介の小説『歯車』で、偏頭痛の前兆の症状を歯車に喩えた慣用表現。ランキング席を見ると、頭が痛くなる点と秋の偏頭痛とを重ねたと語った。査定ポイントは中七「聞こゆる」の是非。「読者に寄り添って!」と評す先生は、「歯車」が何を表しているのか少しだけ読者にヒントを与えるべきだと指摘。歯車が軋むような音なら、「軋む」の動詞を核とし、主役の季語を立てる描写をすべきと指南する。「歯車や」と思い切って詠嘆し、「秋空軋むほど」の後、「青し」で秋空を描写した。「自分の頭の歯車が軋むほど秋空の青さは一体何だと」と純度を上げる添削に、困り顔の本人は「やはり定型の基本が出来ていないと」と延べて反省した。
●[48] @22/01/13◆お題:
人生ゲーム『顕微鏡の蠢めく人生ゲーム』第5回冬麗戦12位(14名中)添削されず
無季。地球の命は微生物から始まったことを人生ゲームで喩えた一句。先生は「何かやろうとする意欲だけは物凄く感じるが、ただ何やろうとしているか分かりにくく、あの人らしい」と述べ、添削を行わなかった。名人としてランキングシートに座れずランク外の屈辱を味わった。
●[49] @22/01/27◆お題:
肉まん『冬の路地裏に昭和が捨ててある』名人5段へ
1ランク昇格添削なし
季語は「冬」。昔は平気で路地や空き地など色んな場所に、ゴミが捨てられていたと述べる本人。コンビニの脇にある空き地に立ち寄ると、肉まんの台紙をはじめ様々なゴミが捨てられており、「あ~、こういうところに昭和が残っているんだ」と思って詠んだと語った。査定ポイントは中七「昭和」の一語の是非。「時代と物が見える!」と評す先生は、どういう物が捨ててあるかを具体的に書かず、「昭和」の一単語を置くことで句の奥行きが膨らむ効果が十分にあると称賛する。昭和の時代を知る人の心の中に、捨てられていた物や自分自身が捨ててきた物などが色々と思い浮かび、読み手に色んな昭和を思い起こさせる力があると述べる。下五「捨ててある」の口語の呟きのような言い方も、そういう意味で効果があったと評した。特待生に行きたいと意気込む平場挑戦者の勝俣州和も先生の解説を真剣に聞いていた。
●[50] @22/03/03◆お題:
おもちゃ屋さんの雛人形『流し雛目があったのよ、本当よ』名人5段で
現状維持添削後
『流される雛と目が合ったと言い張る』
季語「流し雛」は、3月3日に災厄祓いを願い、川や海へ雛人形を流す風習。流された雛を娘が見ているが、やはり少し切なく、その切なさで「目が合ったのよ!本当よ!」と一生懸命に親に言っている様子を描写。わざと「、」を入れ、母親が一息聞き返す間を意図したと語った。梅沢名人は良い句だと褒める。査定ポイントは読点(「、」)を使った会話の是非。「会話よりも表情を!」と評す先生は、光景が良いと褒め、雛流しの行事に参加すると、本当に目が合ったような気がする時はあるという共感性にも言及。しかし、読点(「、」)や会話を使うことが句の内容としてベストかは再考すべきだと忠告する。表情を書くことで、会話を出すべきだと述べる先生は、「流し雛」が行事そのものを指すため、「雛」に焦点を集めるよう指南。「流される(流さるる)雛と」とし、「目が合ったと」の後に「言い張る」と人物の描写をした。人物を限定しないことで一句の世界が広がり、俳句でちょっと得をする書き方になると解説。本人は感心したように聞いていたが、連続昇格とはならなかった。
●[51] @22/03/31◆お題:
ハプニング『影のような野良犬に桜ながし』第6回春光戦優勝
添削なし
「桜流し」は鹿児島地方の方言から広まった珍しい季語で、桜が咲く頃の長雨により、桜の花びらが流れている様子。汚れた野良犬を見てハッとした本人の一句。綺麗な桜の中にいるみすぼらしい野良犬が影のようで、犬まで風景になって綺麗に見えた記憶を詠んだと語った。先生は季語「桜ながし」を前置きし、歳時記にもあまり掲載がない独特な季語を定着させる挑戦を褒める。全体で17音になる破調だが、ジャンルとしては完全に自由律の俳句だと解説。絢爛に咲く桜の中、その桜を散らせる長雨が数日降り続いており、その中に佇む影のような野良犬に会ってハッとしたハプニングの思いが読み取れると述べ、本人の意図を理解する。薄墨色の影と薄墨色の雨、その中に野良犬が一匹という絵画のような作品で、薄墨色の絵画の中に「桜」の一字がポッと灯る効果も持っていると味わいを語り、「これを1位にするのは少し勇気が要るが、本人のやろうとしていることはちゃんと出来ているため、文句を言うわけにはいかない」と優勝をねぎらった。初挑戦から5年の歳月をかけ、遂に初戴冠となった。
●[52] @22/06/09◆お題:
最後の一個『清貧の菓子屋青簾に忌中』名人6段へ
1ランク昇格添削なし
季語は「青簾」。古い菓子屋が閉まっており、綺麗な簾に「忌中」と書いてあった。店の誰かが亡くなり、この店が最後を迎えたという光景だと語った。素晴らしいと褒める梅沢名人は「清貧」の単語を敢えて書いた点を指摘。査定ポイントは句またがりの型を選んだ是非。「まるで短編小説」と評す先生は、当の菓子屋からすれば、「清貧」だと言われるのは余計なお世話のため、「清貧」が不要という考え方ができる点を押さえるが、作者自身はそこに企みがあると述べる。前半「清貧の菓子屋」で小さなストーリーがあり、古くて流行らないが、こだわりがある菓子屋が見えると述べる。単なるイメージにとどめず、後半で物語が一気に動き出し、映像として「青」と「忌中」の白と黒が色彩的に鮮やかだと解説。読み終わった瞬間、菓子屋の行く末を読者が勝手に想像できる一句になっていると評した。タイトル戦制覇後の査定は幸先よく、覇者のメンツを保った。
●[53] @22/07/28◆お題:
水族館『油照りナポレオンフィッシュの旦那』名人6段で
現状維持添削後
『我が汗の鼻先にナポレオンフィッシュ』
季語は「油照り」は風がなく汗ばむような日和。大変暑い時に水族館に入り、大型の海水魚・ナポレオンフィッシュの雄大な泳ぎを見て、まるで金持ちの涼やかそうな旦那が「よ!」っと挨拶に来たようなイメージが浮かんだという冒険句。査定ポイントは「油照り」「ナポレオンフィッシュ」の取り合わせの是非。「外?中?どっちなの?」と評す先生は、ナポレオンフィッシュの措辞に俳諧味・滑稽味がある点を褒める。しかし、屋外の季語から始まることで、生身で魚が投げ出されているかのような印象を出し、最後が「旦那」とくるため、全体が人物の比喩に誤読される可能性を指摘し、読み手への誘導が不親切だと解説。取り合わせのフレーズを活かす季語の選択が難しく、考えても思いつかないと述べる。暑い中から水族館に入り、ナポレオンフィッシュと対面する感じを出す場合、自分が感じた季語を書くべきだとし、「我が汗の鼻先に」と前半に置いて「旦那」を削除。目の前に水槽がボンといきなり現れる効果を確保する添削を行ったが、作者の目的とは異なる添削のため、後半の措辞を活かす季語選びが達成できる日を待ち望みたいと述べた。本人は「う~ん、先生が見つからないのに見つけられるわけがない」と難しそうに語って反省した。
●[54] @22/08/18◆お題:
サービスエリア『蜩の駅にひぐらし辿り着く』名人6段で
現状維持添削後
『蜩の駅ひっそりとひぐらし来』(当初予定)
『追憶のひぐらし蜩の駅に』(本人意図より)
季語は「蜩」。兼題から駅へと発想。蜩が沢山いる無人駅に、余命を感じた"ひぐらし"が飛んできた情景だが、余命を悟った老人が大好きな駅に来たという自分の中での想いを「ひぐらし」に重ねたと語った。「冒険するな」と先生から釘を刺されていた本人の出直し句に対し、村上名人は「冒険している。志らく志らくしている」と同じ季語を2回重ねたことを独特に表現。査定ポイントは下五「辿り着く」の是非。「そりゃひぐらしも来るだろうけど…」と評す先生は、字面から「蜩の駅」ならそりゃ蜩だって来るはずだと思ったため、「ひ」の韻を効かせて「蜩の駅ひっそりとひぐらし来」と簡単に添削する予定だったと告白。しかし、作者の表現意図は途轍もなく複雑かつ冒険しており、マネージャーへの伝言を理解してないことを叱責。しかし、そのような内容を表現したいと思う気持ちは好きだと述べる。添削に困り果てる先生だが、「辿り着く」に甘えるのをやめ、余命を悟った蜩が物思いに更けて駅に来る意図として「追憶」を用いることを提案し、最後に「(添削は)ホント大変!」と吐き捨てた。本人は「村上さんの言った通り、志らく志らくしてる」と反省した。
●[55] @22/09/22◆お題:
中洲の屋台(福岡県)『冷酒に心の月を入れて呑む』ふるさと戦②(福岡)2位★添削なし
季語は「冷酒」「心の月」。「心の月」は悟りが開けた清らかな境地を月に喩えている。お酒を飲むときは比較的グダグダ呑むが、写真にはない月が綺麗で心を澄みやかに吞みたい光景だと語った。梅沢名人は絶賛し、先生は「読んだ時のよろしさがしっかりとある」と評す。「冷酒」を主たる季語として、一句独立で十分に味わえる作品で、「写真俳句」としても屋台の写真と合わせて十分成立するため、「福岡県は予算が許すなら、これも半分ポスターにしてあげてほしいくらい」と褒め称える。2位となった理由として、兼題写真の屋台の賑やかさに対し、静けさの中でしみじみと呑む「心の月」では微量雰囲気が損だと指摘。これは他の写真と合わせると、いかようにも凄いことになると忠告し、先生は"夕焼の中に湖がある風景"、"白熱電球1つだけの灯り"の写真を提示。それらと合わせることで句の意味合いも変化すると解説し、「面白い句を作って下さったと感心している」と総評を述べた。
●[56] @22/09/22◆お題:
道頓堀(大阪府)『月夜の酔つ払い嗚呼かに道楽』ふるさと戦③(大阪)3位★添削後
『かに道楽見上げ月夜の酔っ払い』
季語は「月夜」。澄んだ月夜の晩は何か楽しく飲みたいと思い、かに道楽の看板を見るとホッとすると述べる本人。酔っ払いがカニっぽく歩いている点を狙って詠んだと語った。先生は「月夜の酔っ払い」と「かに道楽」の取り合わせの良さに加え、飄々として俳諧味もある点を褒める。写真に"かに道楽"が映っているため、「写真俳句」として際立たせる方法として、後から写真にない情報を添えることを指南。「かに道楽」から始め、「見上げ」の後に「月夜の酔っ払い」と語順を変えた。夜の光景に時間を飛ばせば、"かに道楽"の看板を見上げてる酔っ払いがいるに違いないという味わいを持った"写真俳句"になると解説。本人はジュニア名人の提案に便乗し、「かに道楽の関係者の皆さん、是非よろしくお願いします」と一企業にポスター掲載をPRした。
●[57] @22/10/13◆お題:
大谷翔平『巌流無念しおれた菊人形』第6回金秋戦決勝9位(シード権なし)添削後
『小次郎の無念しおれた菊人形』
季語は「菊人形」。「巌流」は巌流島も指すが、宮本武蔵に敗れた佐々木小次郎が剣豪として名乗った流派名が由来。兼題から「二刀流」、巌流島の戦いへと発想。菊人形展で佐々木小次郎の菊人形がしおれており、敗戦で菊もしおれてさぞかし無念だろうと思い詠んだ一句。タイトル戦はブービーに終わり、「今の私の方が無念」だとユーモラスに語った。3位につけた落語家・春風亭昇吉は「無念」と「しおれた」が付き過ぎで、巌流島の戦いは4月のため季節感が異なると鋭く指摘。先生は後半「しおれた菊人形」は表現として光景があるが、「無念」「しおれた」の気分が近い点が勿体ないと指摘する。全体で17音の構成だが、上五に「の」を入れて5音とするだけで破調の感じをだいぶ薄められると指摘して添削を始める。さらに、「巌流」は「巌流島」だと思う日本国民の方が多いため、むしろ「小次郎」と書いた方が意図を理解する人の量が多いと指摘し、「小次郎の」に変えた。最後に、「でも"無念"・"しおれた"はまさに今のあなただと思う」と本人の意見に同調した。昇吉に負けた場合、本人の落語会にノーギャラで出演することを宣言していたが、「あの…ギャラに関してはちょっと相談させて。車代だけ出して」と商談する羽目に。
●[58] @22/12/08◆お題:
たい焼き『余命を知りたい焼きを腹から食う』名人6段で
現状維持添削後
『余命知るたい焼きを腹から食らう』
季語は「鯛焼」。今は亡き知人が「たい焼きを腹から食ったんだよ」と入院中に教えてくれた体験があり、自分の余命を知った時に、今までは尻尾からチビチビ食べていたのが、一回ぐらい腹からガブっと食べたんだという印象が強く残っていたと語った。査定ポイントは「知り」→「食う」と展開する叙述の是非で、藤本名人の指摘と同じ。「キリッとしてない」と評す先生は、鯛焼の句として面白いところを狙っており、非常にオリジナリティ・リアリティがあると称賛。これだけの題材があるため、あと一言キリッとさせるだけで良い句になると忠告する。「を知ってから」「食らいました」という叙述がダラダラ続くのが勿体ないと指摘し、切れを一か所入れるように指南。「余命知る」と終止形で言い切り、「食らう」と一音入れて整えた。腹から鯛焼を食らうところに、"何と余命というものは理不尽なものであるか"という思いを匂わせられるとの解説に、本人は「一言もないです」と意気消沈。タイトル戦敗北で、春風亭昇吉の落語会に前座での出演が決定していた本人は、さらに「先生の俳句の会の前座をタダで」とコメントすると、夏井先生に「いやもう、聞いたことは絶対忘れない」とまで言われ、事実上の出演が約束される形となった。
●[59] @23/01/12◆お題:
ラッキー『闇動く幸せが動く梟』第6回冬麗戦15位(最下位)添削されず
季語は「梟(ふくろう)」。闇夜で幸運の鳥と言われる梟に気づき、幸せがもたらされたと感じた一句。先生は、本人の意図は理解できるものの、「闇動く」から始まると「幸せが動いて不幸が来る」という悪い印象が付きまとうのが本当に損だと指摘し、「語順は怖いですね」と総括した。冬麗戦で2度目の最下位となり、俳句が放送されない屈辱のランク外となった。
●[60] @23/01/26◆お題:
小湊鉄道(千葉県)『忘れ物を探しに菜の花を行く』ふるさと戦⑤(千葉)1位★
添削なし
季語は「菜の花」。大切なものを忘れてしまった現代人を、兼題写真から思う幻想的なイメージで詠んだという一句。ジュニア名人は志らく節、藤本名人はノスタルジックで良いと称賛。先生は「17音の破調が志らくさんらしい韻律」と前置きし、写真俳句として一つのお手本になる句だと述べる。後半が一見写真とベタつきに思うが、「菜の花を行く」は自分が菜の花の真っ只中を歩く意味合いになると解説。「忘れ物を探しに」の前半のフレーズと写真との距離感が絶妙だったと称賛する。そして、「人間、大なり小なり"何かを喪失した"想いがあり、トロッコの旅は人生の忘れ物を探しに行く旅なんだ」と味わえ、この場に行きたくなる句だと総評を述べた。東京都出身ながら「千葉県ふるさと俳人」となり、句が載ったポスターが県庁をはじめ県内に掲載される運びとなった。
●[61] @23/02/02◆お題:
節分『もうちょいと生きてみるよと豆を撒く』名人6段で
現状維持添削後
『もうちょいと落語に生きん豆を撒く』
『もうちょいと笑いに生きん豆を撒く』
季語は「豆撒」。2022年に死去した三遊亭円楽師匠の追悼の想いで詠んだ一句。亡くなる1か月前の復帰高座で「あまり焦らず静かにのんびりと落語やっていきますよ」と仰った言葉が忘れられず、お寺の豆撒きのイベントにも毎年参加していただけに、もし「豆撒き今年もお願いしますよ」と言えば「ああ、もうちょっと生きてみるから豆撒くよ」と言う姿が思い浮かんだと語った。村上名人は前半の口語調を褒める。査定ポイントは季語「豆を撒く」の是非。「(誰に向けた句なんですか?)」と評す先生は、追悼する人物の特徴を書くべきだと忠告。最後の季語を変えるのが一番容易く、農家なら「田を植うる」、漁師なら「鰯引く」などを挙げる。しかし、円楽さんに捧げる意図なら季語が動かせないため、前半のフレーズに職業・人柄が想像できるフレーズを入れるべきだと指南。"生きてみましょう"の意味で「○○○に生きん」とし、「落語に」「笑いに」などを例示した。一単語足りないとの総評となり、4回連続現状維持となった。
●[62] @23/03/16◆お題:
入学[正門と桜]『弟子入りの日墨色の八重桜よ』第7回春光戦予選C3位(決勝進出)添削後
『弟子入りの日よ墨色の八重桜』
季語は「八重桜」。どこかに弟子入りする人は心がとても晴れやかで、八重桜が応援してくれているが、不安の方が多く私の記憶の中では街の色がモノクロに見えていたと語った。共感できると述べる梅沢名人は「"よ"を中七につけるべきだった」と添削例を示す。先生は、兼題から自分の弟子入りの日に引き付けた点に非常にオリジナリティー・リアリティーがあり、「弟子入りの日」の不安な気持ちが「墨色」で表現できた点を褒める。惜しい点はまさに梅沢名人の指摘で、例示の通りに添削。五七五の韻律に近づけるだけで調べがよくなり、着地が「八重桜」の名詞で切れるため、「八重桜」という季語が読後にバーッと広がる効果があると解説。最後に下手に詠嘆するより、「弟子入りの日」を軽く詠嘆して季語を主役にすべきだと忠告した。本人も「"よ"をどっちにつけるかで相当悩んだんです」と告白。辛くも3位ながら予選通過を果たした。
●[63] @23/03/30◆お題:
給与明細『桜蘂降る陸自の戦車しづか』第7回春光戦決勝8位(シード権なし)添削後
『戦車しづか桜蘂降る駐屯地』
季語「桜蘂ふる」は桜の花びらが散った後に"しべ"が降ることを指す春の季語。給料を貰って一番大変な人が災害時の自衛隊だと思い、「明細」と自衛隊の「迷彩」色も含めて発想した一句。桜がバーッと散っている場所に、移動の戦車が実に静かだという映像が過ぎって詠んだと語った。春風亭昇吉は場所が分かりにくいと指摘。先生は、兼題との絡みとの点で損しているが、作品の方向性として面白い物だと称賛。地面が桜の蘂でほんのりと桃色になる美しく優しい季語に対し、硬く冷たく大きい「戦車」を取り合わせることで対比が出た点を褒める。一方、「陸自」の言い方でまとめたのが損で、語順も変えて韻律も整えるべきだと指摘する。「戦車しづか」から始め、最後に場所「駐屯地」で空間を作るように添削。駐屯地の大きな空間の中、静けさの中に桜蘂が降る印象を出していれば、上位3句には入れた可能性を持った句との批評に本人は「なんか、8位でもとっても嬉しいです」とご満悦の様子だった。
●[64] @23/05/11◆お題:
浜田雅功『浜ちゃんの笑い声慈雨の風鈴』浜田杯11位(20名中)添削後
『浜ちゃんの呵々慈雨に鳴る風鈴よ』
季語は「慈雨」と「風鈴」。「慈雨」は日照り続きの時に降る雨。浜田の笑い声はどんなひどい場面でも楽しくする力があり、恵みの雨の時ですら風鈴が鳴ると暑い風情の感じになるイメージと重なったと語った。先生は「良く考えている句」と評し、季重なりもイメージを伝える点で成功していると許容する。しかし、「笑い声」の5音が勿体ないと指摘。「呵々大笑(かかたいしょう)」の四字熟語から「呵々」を引用し、「慈雨に鳴る風鈴よ」と続けて添削した。添削例なら10位以内入賞だったと述べるも、本人は「"呵々"は出てこないです」と正直に語った。
●[65] @23/06/15◆お題:
夏の夕『夏至の古色蒼然行商老婆』名人6段で
現状維持添削後
『行商の老婆は夏至の逆光に』
季語は「夏至」。行商の大きな荷物を担いで東京に来る老婆と、過去の雰囲気を示す「古色蒼然」を取り合わせた一句。いつまで経っても日が暮れずに荷物を背負ったお婆さんが電車に乗る光景が頭に浮かんだと語った。査定ポイントは四字熟語「古色蒼然」を使った効果の是非。「四字熟語に頼りすぎ!」と評す先生は、四字熟語を句に入れてはダメという意味ではないと前置きし、「古色蒼然」の言葉に寄りかかり過ぎて肝心の描写が手薄になった点を指摘する。時候の季語に抽象的な四字熟語では映像が見えず、むしろ「古色蒼然」が老婆の描写にも誤読されるのが勿体ないと述べる。添削は、場面や人物が出る「行商の」から始め、「老婆は」で人物に焦点を合わせ、「夏至の逆光に」と後半で描写した。夏至という一番長い日中の逆光に老婆は立っており、最後の「に」の余白が広がることで季語「夏至」が認識されるという解説に、ぐうの音も出ない本人は「頭に思い描いていた光景がまさにコレ」と感心して述べた。
●[66] @23/07/13◆お題:
パフェ『桃のパフェに溺れ死海の謎解き』名人7段へ
1ランク昇格添削なし
季語は「桃」。大きい桃がドンと入ったパフェを一生懸命食べている姿が、死海の謎解きをしている人と同じように見えたと感じて詠んだと語った。査定ポイントは前半・後半の対句表現を使った効果の是非。「余韻の作り方が面白い」と評す先生は、取り合わせの発想を絶賛し、表現者たる一句だと感心する。「桃のパフェ」と「死海の謎」が対句表現として対比され、「溺れ」と「解き」も切れがない形で対比されることで、全体が対句表現にもなったと解説。さらに、甘い「桃」と塩辛い「死海」の対比、甘い「パフェ」と魅力のある「謎」と、人々を魅了するものも付かず離れずになった企みもあると述べ、大袈裟な表現も失敗していないと評した。実に1年ぶりとなる昇格を勝ち取った。
●[67] @23/08/03◆お題:
行きつけのお店『西日溜める店影だけが呑んでる』第7回炎帝戦9位添削後
『西日の店いつも影だけが呑んでる』
季語は「西日」。かつて存在した盛岡の店では西日がとにかく暑く、気が付くと客が逆光で影だけで飲んでいるような、客の姿も見えない印象を詠んだと語った。落語家としても活躍した5位の伊集院は「エピソードを聞くとより良い。ノスタルジックな感じがする」と褒める。作者を見抜いていたという先生は、「西日」に関して「溜める」という表現が類想にも思う不安と、行きつけ感が弱いという2点を指摘。添削は「西日の店」から始め、「いつも」を入れるだけで順位が大きく上がっていたと解説した。辛うじて同じ落語家の春風亭昇吉(10位)を順位で上回り、ひとまず面目を保った。
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