2023年10月12日放送 プレバト!! 俳句金秋戦2023決勝戦結果まとめ
年4回の改変期に選ばれし名人・特待生のみが参加を許される俳句タイトル戦。
秋の季節に行われる
第7回金秋戦決勝戦 で名人・特待生の面々が詠んだ俳句を紹介します。
※29日に全て更新しました。大変長らくお待たせいたしました。
→結果一覧 →トーク集 →俳句詳細(決勝ブロック) →編集後記 ⇒ 予選記事 ※過去のタイトル戦結果などは
こちら またはブログカテゴリからどうぞ。
挑戦者挑戦者→森迫永依[14],藤本敏史[95],森口瑤子[43],村上健志[93],春風亭昇吉[18],横尾渉[79],千原ジュニア[100],梅沢富美男[206],犬山紙子[24],皆藤愛子[40] ※数字は挑戦回数 見届け人:<名人9段>千賀健永、<名人8段>中田喜子、<名人7段>立川志らく ◇金秋戦2023(第7回金秋戦)のルール 【予選】 ・予選は今回から1ブロックのみ (辞退の東国原名人を除き、シード権獲得者が6名いるため)。 ・予選の上位4名が決勝進出 【決勝】 ・第7回春光戦上位2名および永世名人・特別永世名人がシードで参加 ・決勝はシード6名(永世名人含む)、予選通過4名の合計10名
◆全参加者(14名)の段位一覧 予選 予選免除 特別永世名人 梅沢 永世名人 藤本 村上 ジュニア 横尾 名人10段 名人9段 千賀 名人8段 中田 名人7段 志らく 森口 名人6段 名人5段 皆藤 名人4段 名人3段 名人2段 名人初段 1級 馬場 2級 3級 森迫 犬山 4級 昇吉 5級
●兼題:月 清水アナの俳句査定 (プレバト!!公式Xより)
清水アナの俳句 夏井先生評 パイプ椅子片す良夜のグラウンド 才能アリ です。季語がいい。マグレでないことを祈る。
※順位クリックでリンク内移動します。
1位 森迫永依 3級 朝月のアザーン砂漠の空港へ あさづきのあざーんさばくのくうこうへ 2位 藤本敏史(FUJIWARA) 永世名人 月白のワーディー渡るヌーの群 つきしろのわーでぃーわたるぬーのむれ 3位 森口瑤子 名人7段 こりりとすっぱそうな三日月のかど こりりとすっぱそうなみかづきのかど 4位 村上健志(フルーツポンチ) 永世名人 良夜かな香典返しの茶漬け食ふ りょうやかなこうでんがえしのちゃづけくう 5位 春風亭昇吉 4級 名月は東に父島観測所 めいげつはひがしにちちじまかんそくじょ 6位 横尾渉(Kis-My-Ft2) 永世名人 良夜のノーヒッター肘の手術痕 りょうやののーひったーひじのしゅじゅつあと 7位 千原ジュニア 永世名人 あんな家二度と帰るか睨む月 あんないえにどとかえるかにらむつき 8位 梅沢富美男 特別永世名人 桂月やキャラメルの香の満ち満ちて けいげつやきゃらめるのかのみちみちて 9位 犬山紙子 3級 別れるはずだったのに月が綺麗 わかれるはずだったのにつきがきれい 10位 皆藤愛子 名人5段 細月を探す三箇所残り蚊に さいげつをさがすさんかしょのこりがに
順位発表順:2位→5位→4位→最下位→6位→7位→8位→3位→9位→1位 →上段に梅沢特別永世名人、中段左から村上・ジュニア・藤本・横尾の各永世名人、下段左から森口・皆藤の各名人に犬山・森迫・昇吉と特待生が座り、上段・中段の永世名人勢と下段の新世代勢という構図に。夏井先生 皆さんもうホント力つけてきましたからね。いよいよ、三大季語挑んでもらいたいと思いました。 ⇒過去最高難度の三大季語「雪月花」から出題 。発想の新しさ・発想の技術を最大限に発揮すること。梅沢永世名人 今回は私が優勝して、そのうちに全部これ(→肖像画を)私の顔にします。勢いというのは恐ろしいもので。将棋界では藤井君(→藤井聡太)、野球界では大谷君(→大谷翔平)、俳句界では梅沢富美男。藤本永世名人 年齢が…(笑)。年齢が凄い上がりすぎ。 ***浜田 森口さん、どうでした?森口名人 お題を頂いた時に三度見くらいしました。これだって、どれだけの方が月に対して詠んでて。浜田 なるほどね。村上永世名人 今まで季語がお題になってないのに、今回季語がお題なので。これもまた。浜田 なるほど、なるほど。さあ、特別永世名人。梅沢永世名人 はい、悩みました。物凄い悩んでる時に、私を救ってくれたお手紙が来たんです。藤本永世名人 またやもう…。浜田 俺、そんなつもりで振ってないちゃうで(笑)。梅沢永世名人 (手紙を取り出しながら)優月(ゆづき)ちゃん、優月ちゃんていうのが、「梅沢さん頑張って下さい」って。村上永世名人 前に持ってきたのと字が一緒ですけど(笑)。梅沢永世名人 何言ってんだ!千原永世名人 ホンマやな。梅沢永世名人 お前、この番組だけ上手くしゃべるな。ホントに(笑)。清水アナ 村上さんは、千原ジュニアさんから(8月に結婚して)ご祝儀を貰ったそうですが、ちょっと納得してないようです。浜田 え、どういうことですか?村上永世名人 ジュニアさんがくれたんですけど、祝儀袋3つ用意して3択で。入っているのが、「30万円」「1万円」「(ジュニアの)宣材写真」。浜田 ええやんか。自分から30万もぎとれば。村上永世名人 で、選んで引いたら宣材写真で(笑)。マジで投げつけてやりましたけど。でも、3つとも宣材写真だったんじゃないかと疑ってます。千原永世名人 ちゃうわ、入れるとこ見てるわ。 ***浜田 中田さんはどうですか。この顔ぶれを見て。中田名人 もうやはり、梅沢さんにもう一度優勝して頂きたい。もう句集を出してから何か勢いに乗っていて幸運に恵まれているんですよ、ね。浜田 どうですか、この顔ぶれ。千賀名人 もうホントに、強い人いっぱいいますけど。やっぱり横尾さんには勝って頂きたいですね。横尾永世名人 ありがとうございます。千賀名人 (キスマイが)6人として再出発したばっかなので、是非横尾さんに勝って貰いたいですね。横尾永世名人 どこに発想を飛ばすか迷いましたけど、発想を間違えるとジュニアさんやフジモンさんが凄い言ってくるんで(笑)。浜田 ハハハハハ。言ってくるの?そんなこと。横尾永世名人 それお題と違くねえか?とか。千原永世名人 言ってませんよ、そんなこと。言うてるじゃないですか。横尾永世名人 ちょっとそれにビビりながら。藤本永世名人 めっちゃ人のせいにする。 *** [VTR]梅沢永世名人 皆さんまとめて私に掛かってきなさい。犬山 今日はもう憧れるのやめます。森迫 もう1回優勝して…。
清水アナ では、何位から開けましょうか。浜田 あ~10人もおるから。いや5位か6位かと思ったけど、2位。梅沢永世名人 あら!そんな惜しかった?惜しいやつだね。皆さん、まとめて私に掛かってきなさい。うん、大きな胸で受け止めてあげましょう…。浜田 (遮って)さぁ、いきましょう(笑)。金秋戦第2位はこの人! ▼2位は藤本敏史(FUJIWARA) ※秋の連覇ならず!藤本永世名人 う~わ。梅沢永世名人 健闘したよ。藤本永世名人 悔しい、ここまで来たら。梅沢永世名人 いや、健闘した健闘した。千原永世名人 凄いね。中田名人 すごっ。藤本永世名人 何とかなりませんかね~?浜田 2位は凄いよな。藤本永世名人 いや凄いですけど、ここなんか逆に悔しい。千原永世名人 惜しかったね。藤本永世名人 これ何とか1位になりませんかね?(笑)浜田 いやならんから早よ行けもう。藤本永世名人 そうか~、もうちょっとな~。いや嬉しいんやけど。浜田 いや凄いです、凄いです。 ⇒収録日は9月8日(放送当日は事故により活動自粛) ***清水アナ では、続いては何位を。浜田 じゃあちょっと下の方いこう。まあ、5位ぐらい、5位。いきましょう。第5位はこの人! ▼5位は春風亭昇吉 ※大健闘!昇吉 まぁまぁまぁ。ありがとうございます。浜田 これ健闘じゃないですか。梅沢永世名人 健闘した方。浜田 だいぶ健闘してますよ。昇吉 ありがとうございます。梅沢永世名人 健闘した。村上永世名人 4級だもんな。昇吉 4級ですから、僕。 ***清水アナ さあ、では続いては何位を開けましょうか。浜田 じゃあ、昇吉の上4位。梅沢永世名人 まぁ、これはね。いい方か。千原永世名人 あぁ…。浜田 いきましょう。金秋戦第4位はこの人! ▼4位は村上健志(フルーツポンチ) 村上永世名人 勝てないなぁ。藤本永世名人 またや。村上永世名人 勝てないよ~。藤本永世名人 勝てないよね、タイトル戦。村上永世名人 勝てないです~。勝てないよね~。藤本永世名人 4位。村上永世名人 4位はいいはずですよ。 ***清水アナ 続いては何位を開けましょうか。浜田 じゃあ、もうここらで下いきましょう。最下位!一同 えぇ~!千原永世名人 来るわ~、これ来るわ~俺。犬山 絶対来る。きっつ。浜田 いきます。金秋戦最下位はこの人! ▼最下位は皆藤愛子 皆藤名人 あぁ、やってしまった~。 ***清水アナ では、続いては何位を見ましょうか。浜田 じゃあ、昇吉の下、6位。藤本永世名人 6位。浜田 いきましょう。金秋戦第6位はこの人!梅沢永世名人 (笑いながら)誰だ?浜田 あんたかもしれんやん。村上永世名人 呼ばれないみたいに。藤本永世名人 ずっと笑うてるけど。 ▼6位は横尾渉(Kis-My-Ft2) 横尾永世名人 うわ~。梅沢永世名人 中途半端な位置にいったね~。横尾永世名人 そっか~。キスマイも6人になったからな(笑)。藤本永世名人 いや、寂しいこと言わんでいいのよ。 ***浜田 さあ、残っているのは(優勝経験者のみの)この5人でございます。梅沢さん、どうでしょうか。梅沢永世名人 私は「どうでしょう?」と言われても、優勝は私ですから。皆さん、よく健闘なさいましたよ。浜田 さあ、森口さんどうですか。森口名人 いや~、上滑り疑惑が。浜田 最初にね、先生ちょっと仰ってましたけど。それ私じゃないのかと。 →夏井先生「下位の俳句は上滑りしている」森口名人 もう間違いなく、そんな気がしてきました。犬山 いや、私の方が上滑りなんですよ、多分。上滑り。もう絶対上滑って。森迫 私の方が上滑って(笑)。浜田 何なん、みんな。ジュニアさんは。千原永世名人 いや、俺はね…。だだすべり(笑)。浜田 あぁ、そうですか。清水アナ では、続いては何位を開けましょうか。浜田 これ、横尾君の下7位。犬山 入りたいかも、もう。浜田 いきましょう、第7位はこの人! ▼7位は千原ジュニア 一同 えぇ~!千原永世名人 う~ん。犬山 ジュニアさんが?横尾永世名人 だだすべり?藤本永世名人 ややすべりね~(笑)。ややね。梅沢永世名人 そうだね。 ***浜田 さあジュニアさんが7位ということになりました。残っているのはこの4人。清水アナ はい、女子3人と特別永世名人ですね。浜田 素晴らしい。藤本永世名人 ジジイ1人。清水アナ では続いて、何を開けましょうか。浜田 じゃあジュニアさんの下8位いきましょう。藤本永世名人 あららら。浜田 いきます。金秋戦第8位はこの人! ▼8位は梅沢富美男 ※最高位が惨敗一同 えぇ~!千賀名人 ウソ!千原永世名人 これはおもろい。これはおもろい。中田名人 なんと~。藤本永世名人 何か嬉しい。やった~!森迫 えっ?千賀名人 こんなことある?浜田 「こんなことあるんか」というね。 ***清水アナ では何位を開けましょうか。浜田 3位。犬山 入りたい。森口名人 入りたい。森迫 入りたい。絶対入りたい。千賀名人 凄いですよ。浜田 いきましょう、金秋戦第3位はこの人! ▼3位は森口瑤子 一同 えぇ~!村上永世名人 さすが。森口名人 嬉しい。森迫 あぁ~!藤本永世名人 素晴らしい安定感。森口名人 あ~嬉しい。藤本永世名人 いつも上位。浜田 そうですね、森口さんはそうですね。森口名人 良かった。上滑ってなかった。 *** →残るは共に、段位なしながらタイトル戦初挑戦で初優勝という快挙を成し遂げた二人。浜田 さあ?清水アナ 残るは予選3位通過の犬山紙子さん、4位通過の森迫永依さん。かつて下剋上を起こした二人です。浜田 どうですか、今ここまでこれて。森迫 ここまできたら1位がいいですけど、でもかつて下剋上を起こされてる方でもありますし。浜田 そうですね。犬山 かつてですよ。浜田 アハハ。森迫 私もかつてなので。犬山 嫌~怖い。浜田 これ千賀さん、どうですか。この2人が残った。千賀名人 嬉しいですよね。やはり。浜田 あ、予選からきて。千賀名人 予選からきて、あの人(→永世名人)たちを抑えて。浜田 なるほど、なるほど。千賀名人 どっちが勝っても。頑張ってほしいですね。浜田 中田さんどうでしょう。中田名人 文才のある犬山さんと、本当によく勉強している森迫さんと。さあ、どっちかな?っていう感じですよね。浜田 なるほど。さあ、それでは。いきましょう。今年の金秋戦を制した第1位はこの人!藤本永世名人 えぇ?村上永世名人 え~、どっち?森迫 あ~。犬山 怖いけど。 ▼1位は森迫永依 、9位は犬山紙子 森迫 うわ~!藤本永世名人 凄い~。犬山 やっぱり上滑りなんです~。 ***浜田 さ、というわけで。清水アナ 見事、2023年金秋戦を制した森迫永依さん、第1位の席へ移動してください。梅沢永世名人 よっ、娘!偉い。森迫 ありがとうございます。千賀名人 いやホント凄い。
1位 ◆『朝月の アザーン 砂漠の空港へ 』 森迫永依 ※「アザーン」はイスラム教における礼拝時間の呼びかけ。今年話題を呼んだドラマ『VIVANT』の劇中を彷彿させる壮大な風景を詠んだ一句。
【本人談】 モロッコ旅行に行った時、沢山のモスクがあり、アザーンがどこにいても一日のうちに5回は聞こえてきた。帰国の日にホテルをチェックアウトし、出てみたら夜明け前の月がほんのり残っている時にアザーンが物静かな街に聞こえてきて、今から帰らなきゃならないという帰国の寂しい気持ちと、神聖な感じを季語に込めた。
村上永世名人 簡単にやっているように見えるんですけど、今これを見ただけで今仰ったような物語をハッキリではないが感じ取れる。1位獲るよな~。
藤本永世名人 これは1位っすね~。
浜田 梅沢さんはどう思われますか。
梅沢永世名人 素晴らしい。フジモンとの違いは実体験を詠んでいる。ここの違いなんですよ。これはもう(ゴゴッ)読み手が(ガハッ)…。
藤本永世名人 タン絡んどるやないか(笑)。
浜田 フジモン!
藤本永世名人 えっ?
浜田 言うな。
藤本永世名人 腹立ちますやん。8位を2位…。
浜田 「タン絡んどるやないか」って何やねん。
藤本永世名人 何で8位に言われなきゃいけないんですか。タン絡んどるやないか。
夏井先生 モロッコでの海外の光景を読む「海外詠」に挑んでくれた。
今回1位・2位はたまたま海外の様子を詠んだ句になった。
海外詠の難しいところは、季節感が薄くなったり違和感があったりする。
この句はやはり実体験だと話を聞いて、なるほどそうでなければこうは詠めないと納得した。
まず「朝月のアザーン」。
朝の月で、有明の頃の細い月を想像した。
「アザーン」の一語でイスラム圏の国へワープする。
「アザーン」と「砂漠」がやや近いと思う人がいると思うが、ちゃんと読むと街の中のアザーンの声を耳の奥・胸の中に抱きながら、砂漠の空港「へ」向かって出発するため、光景として齟齬は全くないと思う。
映像がしっかりと描けている。
この人だったのかとホントに嬉しい思い、将来を応援したい・期待したい思いもある。
●解説のポイント モロッコでの海外の光景を読む「海外詠」 実体験らしい詠み口に納得した 季語で有明の細い月を想像する 「アザーン」でイスラム圏の国へワープ 「アザーン」「砂漠へ」の光景に齟齬は全くない 将来性を期待したい
添削なし 仲秋の天文「朝月」は「有明月」の傍題。イスラム圏の国で聞こえたアザーンと帰国の途に向かう様子を示した対句表現の一句。視覚・聴覚・嗅覚を刺激し、異国の地の空気感が味わえる構成です。モスクのミナレットから大音量で流れるアザーンは1日5回。その初回が「朝月」の出る日の出前の時間帯で、多くの旅行者が驚いて目を覚ます頃。月齢が15以降と考えると細い新月に近い月が東の空に薄く淡く残り、冷ややかな感触の中にある男性のアザーンの新鮮な響きがある清々しい光景で、「朝」の若々しさまで感じ取れます。後半の砂漠に向かう心境にも朝の冷たさを思いながら、「砂漠の空港」がエキゾチックな世界観で、カサブランカ空港など砂漠の玄関口を意図しているかのよう。助詞「へ」があることで、眼前にはアザーンが聞こえながら朝を迎えるモスクの光景が広がり、「砂漠の空港」に向かう動作が示唆されています。また、「朝」「アザ」「砂漠」とアの韻が名詞で2つずつ重なることも希望を思わせる効果を発揮しています。評価のポイントとして、前半の光景描写に対して後半が一人称目線の動作という主語の転換があるため、ここを2句に分解してゆったり表現する可能性もあるでしょうが、「アザーン」の固有名詞を「砂漠」で押さえることで、聞き慣れない固有名詞を浮つかせない工夫と捉えて大目に見れば悪くない印象にも感じます。当番組デビューもモロッコ旅行の句でしたが、4か国を操るマルチリンガルを活かした句材で勝負されるとプレバト!!出演者では右に出るものはいない独創性があり、初回出演から脅威に感じていましたが、まさにその若き力がタイトル戦で存分に躍動する格好となりました。
2位 ◆『月白の ワーディー渡る ヌーの群 』 藤本敏史(FUJIWARA) 【本人談】 ワーディーは普段は干上がって水が流れていない川のこと。「月白」は月が昇る時、空が明るく白んでいく様子。その水が流れてない川を渡るヌーの群れ。
梅沢永世名人 これね、「月白」という季語を選んだところが、これを持ってきたところが偉い。でも、ちょっとやっぱり俳句を読んでくれた人には分かりづらいところがあるんじゃないかな、伝わりにくいところが。だから2位…。
本人 そうですかね?
梅沢永世名人 2位だから、偉そうに言ってんじゃないよ(笑)。
本人 2位…2位、まぁまぁ。
梅沢永世名人 1位がいるんだから。
千原永世名人 いやこれは凄いですね。素晴らしいですけど、何か「ヌーの群」とか羊とか好きね(→過去に「羊群の最後はすすき持つ少年」)。
村上永世名人 確かに。
千原永世名人 何かね。
藤本永世名人 何年前の話よ(笑)。めちゃくちゃ前の話よ、もう忘れてるでしょみんな。「群れ」好きやねん。
千原永世名人 1人やから?(笑)
本人 「1人やから?」とか言うた~(笑)。「1人やから?」とか言うてる。
夏井先生 季語「月白」が良かった。
月が出る前、空がほんのり明るくなる。
その「月白」から「ワーディー」。
水の枯れた川を渡っていいくヌーの群れであるよと。
ヌーは夜に野営地を目指すのだろうが、枯れた川には砂埃のようなものも立つに違いない。
月白の色合い・枯れた川の色合い・ヌーの群れの色合い、全部がそれぞれ無彩色の濃淡みたいなものの映像になっている。
印象的な陰影が生まれてくる。
それがこの季語「月白」を選んだ良かった点だった。
作者が分かってみると「ヌーの群」で、"なるほど。
フジモンさんか"ととても納得している。
本人 何で?ダメなんですか?
夏井先生 直しは要らない。
本人 わぁ~。最後にちょっと良いですか?凄い何かあの、凄い褒めてくれたので、1位になりませんかね。
浜田 なんでやねん!(笑)
本人 無理?
夏井先生 そ…そんな、1位を見てから言って(笑)。
本人 え~!
●解説のポイント 月が出る前のやや明るい空「月白」が良い 水の枯れた川を渡るヌーの群れがある 野営地を目指す砂埃が見える それぞれが無彩色の濃淡の映像に 印象的な陰影が生まれる季語選び
添削なし 秋の天文「月白」は月が東から昇る前の薄明の頃で、1位と同様新月に近い満ち欠けの月。フジモンさんが得意とする動物句で、普段は干上がって流れない枯れ川を指す「ワーディー」、アフリカ南部に生息域を広げる「ヌー」との取り合わせを詠んだ定型句。色彩感覚が豊かな句で、「月白」の空の薄明かり、枯れた川の黄土色、ヌーの灰色のイメージが俯瞰的に描かれている印象深い光景で、弱肉強食の世界である大草原の一日の始まりが生易しいものではない日常であることを想像させます。「地球ドラマチック」などの動物番組で知識をある程度仕入れていないと、表現するのも難解な句ですが、1位との違いはやはり実体験でない光景句であることが明快な書き方の点で、句会でも点を貰う意味では少々不利。とはいえ、動物句として映像が明確に確保された一句です。
3位 ◆『こりりと すっぱそうな 三日月のかど 』 森口瑤子 【本人談】 本物の月を眺めているだけでは難し過ぎるため、ありとあらゆる写真をとにかく眺めていた。何かこの三日月の「かど」の部分が、フルーツ例えばパイナップルみたいな感じで酸っぱそうに見えてきてそれを書いた。
横尾永世名人 「こりり」っていう言葉がいいですよね。この発想は僕にはないので、凄いなと思います。
浜田 梅沢さん。ちなみに、答える元気があればお願いします。
梅沢永世名人 よろしいですか。「すっぱそうな」ってどう伝わるんですか。私の「満ち満ちて」を消しといて。
千原永世名人 えっ?
梅沢永世名人 まだ私のキャラメルの方が…。
浜田 8位が3位に何を言うてんの?(笑)
梅沢永世名人 三日月見て「すっぱい」って皆さん感じますか?(笑)
本人 アハハッ。
梅沢永世名人 (急に立ち上がって上位を向き)感じますか?ここにいる人。(見上げながら)「あぁ、この月はすっぱいな」って(笑)。
藤本永世名人 だから良いんですって。
梅沢永世名人 説明してもらおうじゃないか。
浜田 違う違う、梅沢さん今の立ったからオモロイんで(笑)。
夏井先生 みんな中々思いつかなから、そこに詩があるということ。
こんな句を見たのは初めて。
「こりり」から「すっぱそうな」にいった時、良い意味での違和感・意外性のようなものがある。
ただこれだけだと上滑りするかもしれない。
上滑りしないのは「かど」に焦点を絞って着地しているから。
映像としてしっかり押さえているのが大事なところ。
しかも、最後の「かど」という表現は、作者自身の尖った心情・思いと接点を持つ。
そこが良かった。
勿論、好き嫌いは分かれるタイプの句だが、「この句を嫌いな人がいるかもしれない」と恐れるのではなく、自分の感覚を率直に書くと絶対共感する人は出てくる。
果敢に自分を信じてこれからも表現していってほしい。
直しは要らない。
浜田 おめでとうございます。
●解説のポイント 中々思いつかない点に詩がある 「こりり・すっぱそう」に良い意味の違和感・意外性 上滑りしないのは「かど」に焦点を絞った 「かど」は作者の尖った心情と接点を持つ 好き嫌いは分かれるタイプの句 自分の感覚を率直に書くと共感する人はいる 果敢に自分を信じて表現してほしい
添削なし 秋の天文「三日月」を一物仕立てで味覚を表現した破調。現代口語俳句として月を独特に比喩した形式だと明快。夏井先生なら間違いなく評価する一句で、村上名人が詠んだ「夜晴れにペリッと剥がせそうな月」と同じような新しい発想です。「すっぱそう」があるため「こりり」が梅干しなど硬い物を食べた何とも言えない感触を思わせる擬態語として読み手に共感を訴求している印象があります。「三日月」は日没前後の西側で数時間しか観測できない月齢3の細い月。三日月を平面図形と捉え、その陰影の境界を「かど」と独特に表現した見立てに加えて、味覚への着眼自体に独創性があります。御大同様、個人的に共感はできませんでしたが、季語以外を全て平仮名にする徹底ぶりで童話の世界観のような印象を植え付けた一句。今回も森口イズムが発揮されたと言えるでしょう。
4位 ◆『良夜かな 香典返しの 茶漬け食ふ 』 村上健志(フルーツポンチ) ※「良夜」とは中秋の名月の夜のこと。
【本人談】 良夜に香典返しのお茶漬けを食べている光景だけ。今僕が生きているという「食べる」という行為が「死」との距離を良夜の日に良い感じに取れたという。
中田名人 ちょっと嫌味な感じがする(笑)。上五に「良夜かな」を敢えて持ってきたというのが、あまりにも「どうだ!」と言っているような感じがして。
梅沢永世名人 これは良い句なんですよ。ただ良い句なんだけど先ほど仰った「かな」。これがどうかなと。「かな」、私も失敗してるから。それから「茶漬け食ふ」、この「食ふ」が要らないんじゃないかと私は思いました。
夏井先生 今お話を聞いてて、みんな議論すべき点がちゃんとわかっていると。
これがホント"上達してきたな"としみじみ嬉しい気持ちになった。
この句の中で、議論すべき点は「かな」と「食ふ」の二点になる。
上五の「かな」はとても難しい。
最初に「美しい月の夜だな」と詠嘆する。
詠嘆が先に来ると、後半の中七・下五とのバランスが取りにくいが、これは際どいところでバランスが取れている。
その成功の理由が着地の「食ふ」にもある。
この句の解釈になるが、同い年ぐらいが亡くなったお葬式を思い浮かべた。
つらい寂しい葬儀から日数が経って、少し悲しみも落ち着いてくる。
香典返しの茶漬を食べることを受け入れるのが表現としてちゃんと伝わる。
おっちゃんの指摘に合った「食ふ」が要らない点は、「香典返しなる茶漬け」と表現した方が良いと思う人もいるとは思う。
ただ、そう添削すると頂いた茶漬けの箱を見ているだけに読まれる可能性も出てくる。
梅沢永世名人 あ、そうか…。
夏井先生 だから、ここは「食ふ」という単語が必要だといえるのが1点。
それからもう1つはご本人も仰った悲しみの日々から誰かの死を受け入れることが出来て、やっと物を食べるという日常が戻ってくると。
それも「食ふ」にあるのが大事。
全体のバランスが整っていて、読み終わった後、なかなか手慣れの作品だと思った。
直しは要らない。
本人 えぇ~!
藤本永世名人 何が「えぇ~!」?
本人 これまでの4位の中で一番レベル高いんじゃないですか、もしかして。
浜田 自分で言うの?
本人 別に何も悪いところがないという。
浜田 いやいや。
本人 4位史上の1番だ。
浜田 いやいや違う違う、違うよ。
本人 過去最高の4位。
●解説のポイント 上五「かな」と「食ふ」の2つが議論点 上五「かな」は際どく後半とバランスを取った 着地の「食ふ」も成功要因 「香典返しなる茶漬け」では箱を見る意味に 誰かの死を受け入れる行為が「食ふ」 手慣れの作品に受け止めた
添削なし 秋の天文「良夜」は陰暦8月15日の名月の夜。中秋の名月と満月が今年は一致していますが、旧暦が数えであることや月齢が29.5日まであること、天体の公転軌道が楕円であることなど複雑な要素が絡み、旧暦16~17日に満月となることも多いそう(この2つが一致するのは次回7年後とのこと)。この句は上五を「かな」で詠嘆し、中七字余りで葬儀後の人の死を受け入れる心情を描写した一句です。お茶やお茶菓子あるいはカタログギフトが香典返しでは一般的ですが、茶漬けという独特の珍しい風土。亡くした方との間柄も感じられ、「食ふ」という動作に作者の生命観も密やかに反映されています。季語がお盆の時期と重なるのも一つのポイントで、お中元などを送ったり貰ったりする時期で、貰い物を片付ける何らかの契機も想像できます。ご指摘の通り「香典返しの茶漬を食らふ良夜かな」なども可能であり、上五「かな」に作者の表現行為があるとともに、中田名人の指摘通り表現意図の出し過ぎ感も句会では指摘されてしまいそう。賛否の分かれる形で月に思いを馳せた一句です。
5位 ◆『名月は 東に 父島観測所 』 春風亭昇吉 ※父島は東京都心から南へ実に1000kmもの距離にある。
【本人談】 船で小笠原諸島に行ったことがある。気象予報士なので、父島気象観測所の資料を見に行きたいと思って行った。360度水平線で、日の入りとほぼ同じぐらいに水平線から月の出が見られる。その綺麗な月を詠んだ。
森口名人 「名月は東に」だけで「あ、聞いたことあるな」と思ったら「父島観測所」が出てきた途端に光景がブワッと立ち上がって素敵な句だと思いました。
本人 ありがとうございます。
村上永世名人 いやこれもやっぱり、行ったことある人だからこの「父島観測所」ってのが出せたってのはいいなっと思います。これで5位か…。
志らく名人 いや、良い句なんですけど自分がさりげなく気象予報士だって言ってる辺りが嫌味ですよね(笑)。
村上永世名人 嫌なこと見つけるなぁ…。
志らく名人 別に言わなくたっていい。それが東大出の嫌らしいところ(笑)。
藤本永世名人 そうなんですね。
夏井先生 兼題写真から真正面に取り組んでいる作品だと思う。
海の広さ・月の大きさを感じられる。
さらに、「父島気象観測所」の固有名詞の力もよく効いている。
気になるところを指摘するとなると、本当に「名月」で良いのか?という点。
お話を聞く限り、「名月」よりは「満月」の方が良いかもしれないと思った。
梅沢永世名人 私もそう思いました。
夏井先生 「名月」は月を愛でる心の方に軸足がある。
この日本の端の孤島で愛でる月のなんと美しいことか、というニュアンス。
それに対し、昇吉さんのお話では360度水平線を月が上がってくるという気象予報士としての光景に心を打たれている。
むしろ、まん丸な月「満月」が出てくる方に軸足があるのではないか。
「名月」は愛でる心・「満月」はくりっとした月の映像。
それぞれ違うということは一つ覚えて頂きたいかなと思う。
本人 ホントに仰る通りです。勉強になりました。
●解説のポイント 兼題写真から真正面に取り組んだ 海の広さ・月の大きさを感じる 父島気象観測所の固有名詞も効果的 「名月」は月を愛でる心に軸足 気象予報士目線なら「満月」に軸足を 「名月」は愛でる心・「満月」は月の映像
添削後
『満 月は 東に 父島観測所 』 秋の天文「名月」と父島観測所という固有名詞を取り合わせた句またがりの18音。父島は小笠原諸島の中核ともいえる孤島で、気象観測所の他、宇宙航空研究開発機構・国立天文台の観測施設もあります。気象予報士という専門職の経験が活かされた実体験を詠まれたもので、孤島と丸い月のぽっかりとした対比を表現。「名月」は満月ゆえ「東」とあるため、日没後に上がった月とも明快です。水平線が360度あり、周りを遮る障害物がないことから、月だけでなく星空もきっと観測に適したものであることは明白。「名月」「満月」問題が指摘されましたが、個人的に天文らしさ・観測らしさを出すなら「望月」を推したいと考えます。また、「東に」の助詞「に」が散文的にも捉えかねない点で少々悩みたい部分ですが、固有名詞を活かし切った点を褒めたいところです。
6位 ◆『良夜の ノーヒッター 肘の手術痕 』 横尾渉(Kis-My-Ft2) ※「ノーヒッター」は相手チームに一本もヒットを打たれなかった試合のこと。WBC世界一を皮切りに盛り上がった今年のプロ野球から発想。
【本人談】 野球のナイトゲームで、ノーヒットノーランを起こしたピッチャー(のガッツポーズ)をよく見ると、肘に手術の痕があり、ここまでいくまでに凄い努力をしていたのだろうなと。それを全て月は見ていたと。
千賀名人 いやめちゃくちゃ良いと思いますけどね。広いところからフォーカスしていく。最後、手術痕にいく作り方も凄く良いし、なんで6位何だろう?という。
本人 6人になったから。
千賀名人 関係ないのそれはやめてください(笑)。
千原永世名人 いやホント、カメラがズームしていってる感じが素晴らしいですけどね。
夏井先生 月の良い夜の勝利。
勝利投手が月に向かって握り拳をする映像まで見えてくる。
題材も非常に面白い。
何が僅かな順位の差になるか。
必要な情報を17音に詰め込み過ぎたことで、肝心の季語「良夜」が少し脇役になってしまった。
だからといってどの言葉も外せない。
この句は言いたいことを全部入れていくと、そのことによって詩としての調べが少し窮屈になってしまった。
僅かな差を見抜いて順位をつけるしかないという悲しい部分が私にもある。
この句は直すことは出来ないが、これはこれで味わうしかないという気がする。
本人 もっと季語を大事にするというのをもっと勉強したいなと思いました。
●解説のポイント 勝利投手が月に向かって握り拳をする映像 題材も非常に面白い 順位の差は情報の詰め込み過ぎ 季語「良夜」が脇役になった 詩としての調べが窮屈になった 直しは出来ないがこれで味わう
添削なし 秋の天文「良夜」と野球選手の腕の傷に焦点が向かう対句表現の18音。一瞬、右肘の靭帯修復手術を受けた大谷翔平選手のことを今回も詠まれたのかとミスリードしましたが、プロ野球が句材のよう。投手が相手チームにヒットを打たせないノーヒットノーランを達成した直後、投手の肘にある手術痕を描いたという一句です。夜の満月が照らしてくれる今宵は、ノーヒッターを達成した喜びの「良夜」であり、肘の手術を克服した努力の成果である「良夜」だと解釈でき、野球に精通した横尾さんだからこそ具体的な言葉選びで情景を思いやすくしています。以前の「星月夜」句もそうでしたが、天文季語が球場や選手を見守って包んでいるという季語選びは少々実感が湧きにくい取り合わせ。特にこの句は季語以外の情報量も多い点が多少順位を下げた要因になったと言わざるを得ません。
7位 ◆『あんな家 二度と帰るか 睨む月 』 千原ジュニア 【本人談】 中学生の時に家出して月が出ていたのを思い出した。その時の気持ちを詠んだ。
志らく名人 面白い句だとは思いますけどね。だから、すべってはいないと思いますよ。
本人 ありがとうございます。
藤本永世名人 もうちょっと、情景を盛り込んだ方が良かったんじゃないのかなとは思うけどね。
志らく名人 感情が表に出過ぎちゃってるから、この順位になっちゃったんじゃないですかね。
梅沢永世名人 皆さん、そんなことを言ってるから2位・3位(未発表)・5位・6位・7位なんですよ。
藤本永世名人 2位はいいでしょ(笑)。
梅沢永世名人 だだすべりになった原因は「睨む月」。これが問題。月が睨んでるのか、本人が睨んでるのか。
本人 これ、分かるでしょ。
梅沢永世名人 読む方が…私たちはこうやっているから…。
藤本永世名人 それは分かるんじゃないですか。それは。
梅沢永世名人 そうそうそうそう。
浜田 「そうそうそうそう」。何にも聞いてないよ(笑)。
藤本永世名人 「そうそう」じゃないです。
夏井先生 これはおっちゃんの指摘が正しいと思う。
良いところから褒めたい。
生々しい台詞「あんな家二度と帰るか」を叩き付けるように持ってきたのが良い。
着地の問題になるが、選択肢は2つに分かれる。
1つ目の方向は月の描写。
「月皓皓(こうこう)」や「月明(あかる)し」などで月を映像化する。
ただ、この句の場合は「睨む」という動作に作者の強い思いがあるのは判断できる。
そうなると、第二の選択肢になる。
俳句というのは物を描写するのが定石だとジュニアさんは学んできたため、ここはあまり迷いなく「睨む月」と置いたはずと分かる。
ただ、この句の場合は月の映像よりは、睨む行為の方が作者の言いたいこととして強くある。
浜田 テレコ(語順が逆)?
夏井先生 もしやるなら、やはり「月/睨む」とするなら作者の思いにかなっている。
さらに、もう一つ言わせてもらうと、前半が凄く強いため後半もう一声やっても良いと思った。
月に向かって睨むだけではなく吼える。
「月に吼ゆ」、「吼ゆ」は吼えるという意味になる。
ここまでやると、睨む動作よるも思いがストレートに出るかもしれない。
本人 なるほど~そうか~。吼えなかったからな~(笑)。吼えといたら良かったな~。
藤本永世名人 何で吼えなかったのよ。
本人 なあ。
浜田 (藤本名人へ)何を言うてんねん、お前さっきから。
●解説のポイント 梅沢「睨む月」の主体が不明の指摘は○ 生々しい台詞を叩き付けた 下五「月皓皓」「月明るし」など月の描写も 「睨む」の作者の思いが強いなら「月睨む」 前半が強いため後半もう一声「月に吼ゆ」で思いを
添削後
『あんな家 二度と帰るか 月皓 皓 』 『あんな家 二度と帰るか 月明 る し 』 『あんな家 二度と帰るか 月睨む』 『あんな家 二度と帰るか 月 に吼ゆ 』 秋の天文「月」と家出した若い頃の少年の気持ちをストレートに口語口調で吐き出した定型句。反抗期の苦い経験として共感できる句材で、その心境を台詞で表現して夜の満月に託すという着眼点に面白さがあります。「帰る」の動詞に強い「か」の投げかけで一旦意味が切れますが、「睨む月」という動詞・名詞の下五により、睨むのが作者なのか月なのか修飾が曖昧になった点を指摘されました。意味的には前者と考えるのが基本ですが、「月睨む」とすれば誤読はほぼ解消されるといえます。かつての大仏句でも「睨む」で添削されたことからも、嫉妬のようなネガティブな心情句に気持ちがこもっていた点は強く伝わりますが、光景が季語以外にないことも順位を下げた要因になってしまいました。
8位 ◆『桂月や キャラメルの香の 満ち満ちて 』 梅沢富美男 ※月には桂の木が生えているという中国の伝説がある。
【本人談】 桂木は非常に良い香りがする。桂林に行くと、砂糖が焦げたような香りがする。満月の黄色い月を見ると、月にもその香りが満ちているんだなという句を詠んだ。
本人 お気に召さなかったみたいね。
中田名人 もう永世名人に申し訳ないんですけど、やっぱり梅沢さんタイトル戦は弱いんでしょうか(笑)。
藤本永世名人 ねえ。
村上永世名人 何か「桂月」でカッコつけてるとか、「キャラメル」とか何か多分…梅沢さんが知ってるだけで一番オシャレな言葉入れて(笑)。何かね、こう良いっぽいのに結局言ってることはそんな…。これすべ沢富美男ですね。
浜田 アハハッ。一番知ってるオシャレな言葉が「キャラメル」…(笑)。
夏井先生 これは「桂月」で悩んでしまう。
月のことを「桂月」ともいい、「月」の違った呼び名であるのが一つ。
本人 そうですよ。
夏井先生 もう1つあり、陰暦の8月のことを「桂月」という風にも言う。
本人 そうですよ。お気に召さないだけじゃん!どうしてくれんの?この大島紬新しくした!
藤本永世名人 聞きなはれや、最後までまず。
村上永世名人 途中ですから。
夏井先生 これ、陰暦8月の意味だと読めば案外悪くない。
初秋の少し涼しくなる、ひんやりとしてくる空気の中でキャラメルの香りを嗅ぐという取り合わせは悪くない。
ただ、兼題写真が月の写真のため、この句は実際の月のことを指しているものと判断するのが普通。
そうなると、この季語を後半で説明しているような一句になっている。
もっと分かりやすく言うと、己の知っている知識だけで作ったと。
知識をひけらかしてみたと、そういう句になってしまっている。
そこがとても勿体ないという風に思った。
そうなると、陰暦8月ではなく、実際の月のことであって、なおかつという意図なら添削するしかない。
「満ち満ちて」いる場合ではない。
本人 何で?「満ち満ちて」気に入って書いたのに。
夏井先生 じゃあそれは持って帰って下さい。「満ち満ちて」はね。
「キャラメルの香か」、"キャラメルの香りだろうか"として「桂月の甘からん」ぐらいがいい。
どこからともなくキャラメルの香りがしてくる。
ひょっとすると、月の香りかもしれない。
月の桂の木も甘い匂いを出しているに違いないと。
ここまであれば、順位は多少上がったかもしれない。
浜田 ハハハ。
本人 多少か!
夏井先生 多少だよ。
浜田 8位ですから、まあまあ。どうですか、梅沢さんこうやって直されると。
本人 ありがとうございました。どうもすいませんでしたね。
夏井先生 どういたしまして。
本人 もう、「満ち満ちて」は絶対書かないからな(笑)。
●解説のポイント 「桂月」は月の別名・陰暦8月の別名と二重の意味 陰暦8月の解釈だと取り合わせは悪くない 兼題写真から実際の月と判断するのが無難 季語を後半で説明している構成になった 己の知識をひけらかしてみた 月にある桂の甘い香りを想像させる
添削後
『キャラメルの香か 桂月の甘 か ら ん 』 「桂月(けいげつ)」とキャラメルの香という嗅覚の描写を取り合わせた定型句。「桂男(かつらおとこ)」という中国の古い故事で、仙術を学んでいた呉剛という男が、罪を犯して月に配流されたのちに高さ1500mにもなり何度も再生する桂の木(木犀/もくせい)に斧を当て続ける罰を受けたという伝説があります。「久かたの月の桂もをるばかり家の風をもふかせてしがな」(『拾遺抄』)とあり、日本でも平安時代に伝わっていた逸話のようです(※なお、桂・月桂・木犀は生物学的には全て異なる植物です)。この句は季語が時候か天文かで解釈を迷います。角川「季寄せ」では8月を指す葉月の別名ですが、大歳時記で探したであろう御大の話を聞く限りは月の異名としてやはり天文で、夜の満月の景。天文の場合の説明臭さが解説されましたが、時候として読んでも情景の弱さは気になります。兼題に真っ向勝負したのは素晴らしい点ですし、砂糖が焦げたような甘い香りに託した点も御大らしい発想でしたが、兼題「月」から歳時記の情報を紹介したくなった癖を指摘された御大。タイトル戦連覇の夢は潰えましたが、今後の展開にも注目しましょう。
9位 ◆『別れるはずだったのに 月が綺麗 』 犬山紙子 浜田 まあまあ、別れの句ですから。フジモンどうですか?
藤本永世名人 何で僕ですか?
浜田 いやいや、まあ一応。
藤本永世名人 他にもいるでしょう?いないかあ。俺だけやな、これ~(笑)。よう見たら。
浜田 これ、特別永世名人はどう思われますか?
梅沢永世名人 「はずだったのに」がちょっとくどいかな。俳句にしては。
夏井先生 おっちゃんは何で他人の句のことはハッキリ分かるのか。
仰る通り。
英語教師をしていた夏目漱石のエピソードで、"I love you "を"月が綺麗ですね"と訳しておけという台詞があり、後半「月が綺麗」="I love you "という隠してある言葉がここにある。
そこら辺の機知はとても良い。
惜しいのはおっちゃんの言う通りで、「のに」が説明をする言葉になっている。
「別れるはずだった/月が綺麗だった」と「だった」を繰り返す手がある。
本人 うわ~、凄い良い。
夏井先生 この「のに」さえ外してくれたら、梅沢(→8位)を軽々と飛び越える(笑)。
●解説のポイント 「はずだったのに」のクドさを梅沢は見抜ける 夏目漱石が"I love you "を「月が綺麗」と訳した 後半"I love you "が隠語となる機知は良い 「のに」が説明をしている 「だった」をリフレインする これなら梅沢(8位)を軽々と飛び越える
添削後
『別れるはずだった 月が綺麗 だった 』 秋の天文「月」と別れの台詞を切り出せなかった心境を口語で吐き出した破調の一句。人間関係における負の心情をストレートに台詞で表現した点で7位のジュニアさんと似ていますが、大変女性的な目線で孤高感を持った書き方。夏目漱石のくだりは都市伝説的に扱われており、豊田有恒著『あなたもSF作家になれるわけではない』では、"I love you."のことを「月がとっても青いなあ――と訳すもの」と紹介されています。夜の満月が美しく、何もかもを払拭して忘れてしまいたい心境が前半の台詞口調に表れています。前後半の因果関係を感じやすい書き方で、特に「のに」で説明臭さが増したのが惜しい点に。添削は「だった」のリフレインでしたが、俳句というよりは短歌と親和性が強い句材です。本人の自句自解が全面的にカットされ、何を語っていたのかが気になります。この句も光景描写が弱い点が低順位になった一つの要因だと言えるでしょう。
10位 ◆『細月を探す 三箇所 残り蚊に 』 皆藤愛子 ※涼しくなっても出てくる「残り蚊」は秋の季語。
【本人談】 実体験で夜空を観察している時、三箇所蚊に刺されてそれを句にした。
犬山 何が「三箇所」なのかが分かりにくかったかなと思いました。
浜田 これはもう、梅沢さんも同じ?
梅沢永世名人 これはね、あの~私のお師匠さんの夏井先生がよく言っていることを忘れてはいけませんよ。季語2つ(→「細月」「残り蚊」)わざと使ったんですよね。
本人 あ、はい。
梅沢永世名人 そうですよね、その時には片方の季語が立つような俳句を詠まなきゃいけない。これだと両方とも立ってない。だから最下位なんです。
夏井先生 結論から言うとおっちゃんの言う通りだが、ああいう言われ方するとカチンとくるよね(笑)。
読んだ時に「細月」が主役なのか、「残り蚊」が主役なのかがハッキリしていないというのは損をした。
細い月とはいえ、「探す」ほどの時間が経つのか?という疑問を率直に抱く人もいるかもしれない。
そこに「三箇所」とくると、探す時間との時間軸がぶれてくるのが勿体ない。
何で「三箇所」にしたかというと、「細月」と「さ」の韻を踏もうとした意図が読み取れる。
今回の場合、残り蚊に刺されたことを主役にした方が句としては整いやすい。
「細」も分かるが「月さがす」と平仮名にする。
要らない言葉に見えるかもしれないが、「間を」と時間をしっかり書く。
「三箇所」は諦める。
「残り蚊に刺されけり」と。
「刺され」も要らないように思うかもしれないが、後半を主役にするためにこれぐらいに押さえた方が良い。
これだと俳句の調べがしっかりと乗ってくる。
●解説のポイント 「細月」「残り蚊」の主役季語が不明確 「探す」時間と「三箇所」に時間軸のブレ 「さ」の韻を踏もうとした意図は分かる 残り蚊に刺されたことを主役にして整える 「間」「刺され」を書いて俳句の調べを
添削後
『月さ が す 間 を残り蚊に 刺 さ れ け り 』 秋の動物「残り蚊」と天文「細月」の季重なり。細い月を探している間に秋の蚊に3箇所刺された夕刻のひと時の心境を吐露した定型句です。「細月」「探す」「三」と「サ」の韻を合わせたことで季語が動きにくい形に。過去にも「別れ蚊を払う一人の台所」、「終電を待つ二の腕に蚊の名残」と詠み、「蚊」と数詞を用いる傾向があり、蚊への執着心が強く感じられます。今回は「三箇所」が前後どちらに掛かるか分かりにくく、時間経過も実感を得にくい形に。「細月」が指す三日月は日没前後の西の空にあり、「探す」となると雲の合間に月が隠れている瞬間の光景と捉えると季語として弱く、また刺された痕のみならば「残り蚊」の主体も感じられにくい形に。前回最下位に沈んだ「大谷翔平」句は非常に評価される可能性を有していましたが、今回はあまり弁解の余地がない印象なのが残念です。
清水アナ それでは2023年金秋戦を制した森迫永依さんにはトロフィーを贈呈します。
藤本永世名人 うわ~いいな。
浜田 優勝おめでとうございます。
村上永世名人 素敵な俳句。
ありがとう、素敵な俳句を。
清水アナ おめでとうございます。
藤本永世名人 帰って月見よう。
7年目のシーズンを迎えている俳句タイトル戦・金秋戦。水彩画・大漁旗の二大企画に続いて放送されました。兼題は「月」。三大季語・雪月花の一つとして非常に古くから詠まれている代表的な季語で、傍題や関連季語も山ほどあります。単なる「月」ならば満月を指しますが、満ち欠けの形によって観測できる時間帯や方角が異なるため、それらを吟味した上での鑑賞が不可欠。季節は異なりますが、「菜の花や月は東に日は西に」は理科の教科書にも掲載される与謝蕪村の有名な一句で、月の満ち欠けが満月に近いものを表す典型例として紹介されています。 季語は全員秋の天文で「月」「良夜」が2名ずつ。ただ、御大は時候ともいえる「桂月」、最下位の皆藤さんは動物「秋の蚊」を用いた季重なりです。月齢の小さく日没前後の「三日月」「細月」が1名ずつ、月齢の大きい朝方の「朝月」「月白」が1名ずつ、また昇吉さんは夜の「名月」を用いました。上位2名は朝方の海外詠となり、3位の森口さんは月の一物仕立て、4位の村上名人が香典返し、5位の昇吉さんが観測所、6位の横尾さんが野球、7位のジュニアさんと9位の犬山さんが口語の台詞表現、8位の御大が桂月の知識、最下位の皆藤さんが蚊を刺された景をそれぞれ取り合わせています。「月」は天文季語ゆえにロマンチックになり過ぎないこと、具体的な光景描写は重要ですが、特にタイトル戦の場合は類想にならないオリジナリティが求められます。上位は独創的な句が目立ちましたが、下位は光景が弱いという明確な傾向が見られました。 さて、11日の報道でご存知の通り、FUJIWARA・藤本敏史さんが当て逃げ事件を起こしたことにより、芸能活動を自粛しました。報道によりますと、東京・渋谷区の交差点で乗用車を運転中に別の車に接触する事故を起こしたまま走り去ったことが、被害者の通報により発覚したそうです。俳句決勝戦の放送前日という喫緊のことゆえ当番組では「9月8日に収録しました」という字幕テロップでの対応となり、ひとまず本人の言動は編集でカットされずに放送された模様です。現時点での活動復帰は未定とのことです。ガヤ芸人としての一つの立ち位置を確立したフジモンさんですが、プレバト!!俳句では盗作疑惑が時たま指摘されます(最近では9月14日放送の「ショッカーのかたまって摂る夜食かな 」が角川俳句歳時記の例句に掲載される「脇役のかたまつてとる夜食かな 」(角川春樹)に酷似していると話題になったばかりです)。17音しかない俳句は性善説で捉えますので、パクリではないと思いつつ、今回のタイトル戦のようなご本人らしい俳句を今後も詠み続けていってほしいと切に願う次第です。
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