2018年6月14日放送 プレバト!!
出演者が詠んだ俳句を紹介します。
●お題:雨の路面
◆1位
才能アリ73点 別所哲也
「
追憶や つま先濡らす 走り梅雨」
【本人談】自分が大学生くらいの時、ちょうど雨の時に俳優になるか、ならまいか考えていたことを思い出した。
靴先が雨でグズグズしていたなという感じが出てきて、自分が勢いをつけるために走った。
走って自分の未来に向かおうと思った時の走りというのが、季語「走り梅雨」という美しい言葉があって、
昔の思い出から自分の未来へ向かって走ったことと写真の光景を重ねて詠んだ。
千賀「つま先濡らす」ということだけで昔の悲しい思い出が伝わってくる。完全にキショくない句。
夏井先生本人が意識したかわからないが、結構難しい型に挑戦している。
一番大事なのが「追憶や」。上五に季語ではない名詞である抽象名詞を置いて「や」で切って、残りの12音に季語を入れ込むのは、中級者コース位の技。
なぜ難しいというと、上五と季語の入った中七・下五のバランスとして釣り合ってくれないといけないが、うまくできている。
この人は多分、何かでつま先を濡らすたびに、走り梅雨の季節になるたびに、ある過去の出来事を思い出すに違いない。
その過去の出来事を語るには、俳句はあまりにも短い。そのため「追憶や」という投げかけだけにしてそれ以上を敢えて語らない。
あとは読み手の追憶を呼び覚ますやり方をしている。
意識してたかどうかは知りませんが、上手くいった。直しはいらない。
浜田 意識してた?してない?
本人 意識してました(見栄を張るように)。
[ここがポイント]言葉のバランスを保つ
※17音を分解し、名詞+「や」の上五と、季語を含む中七・下五の型を使う場合、後者は音数が多くて季語も含むため、言葉の質量が大きくなりがち。全体の言葉の質量のバランスを考えて詠むことが重要です。
添削なし
◆2位
才能アリ70点 横澤夏子
「
傘閉じて 路面に沈む 梅雨夕焼」
【本人談】雨上がりの夕焼けの光景に発想を飛ばした一句。
歳時記で「梅雨夕焼(つゆゆやけ)」を見つけた。滅茶苦茶いい言葉で、ロマンチックな梅雨時の夕焼けって綺麗。
それを傘閉じて路面に水たまりがいっぱいあって、そこに沈んでいく梅雨夕焼をイメージした。
千賀「路面に沈む」がいい例え。ロマンチックで綺麗に描かれている。
夏井先生作者が分かってビックリ。ホントにお見事。
何よりも一番いいのは「沈む」という表現。この表現で凡人から完全に脱している。
凡人でこういう状況を描こうとすると路面に「映る」「にじむ」と使いたがる。
「沈む」と言ったことで、梅雨の頃の湿度・濡れた感じや暗くなっていく感じが言えている。
もったいないのは上五。雨が上がって夕焼けになるとわかるので、わざわざ「傘閉じて」という必要はあんまりない。
別の言葉で俳句はもっと広がる。
例えば「とつくに」という言葉を知ってますか。「外つ国や」とすると、外国で1人で…という感じになる。
音も入る。「サイレンや」とすると、救急車?パトカー?梅雨の出水の警報か?と読み手は色々と想像してくれる。
上を狙うためには、他の情報をさらっとどう入れていくか。勉強すると、特待生の可能性が出てくる。あくまでも可能性。
[ここがポイント]「傘閉じて」と言わなくても伝わる
※「梅雨夕焼」という言葉から「傘閉じて」の光景は連想できます。言わなくても伝わる光景に音数を使わずに、別の情報を入れることで俳句に広がりが生まれるんです。
添削後
「
外つ国や 路面に沈む 梅雨夕焼」
「
サイレンや 路面に沈む 梅雨夕焼」
◆3位
凡人65点 片岡鶴太郎「
雨の夕 麻布育ちか 雨蛙」
【本人談】麻布に住んでいて、小さな公園がある。
雨降りの時に、雨蛙がぴょんと跳んだ。あれ?こんな都会にいるということは君「麻布育ち」かな?と思った。
「あ」の語呂がいいと思って詠んだ。
夏井先生良いところは、「雨」「麻布」「雨蛙」の「あ」の韻の踏み方。
俳句は韻文なので、調べ・リズムがとっても大事。口に出した時に楽しくなる。とてもいいところ。
もったいないのは「育ちか」。この句の世界を考えると、自分の感想を言わずに、感想は句を読んだ人に残してあげる。
その方が句の世界が広がる。
「夕ぐれの」から始め、「雨の麻布の雨蛙」と「の」を重ねる。この3つの「の」は意味を限定していく。
「夕ぐれ」は色々あるけど、「雨の夕ぐれ」も色々ある。「麻布の雨の夕ぐれ」という風に限定していく。
ついでに「切れ」も勉強して帰ってほしい。「や」の切れ字を入れると、そこでカットが変わる。
「夕ぐれ
や 雨の麻布の雨蛙」とすると、夕ぐれの濃淡の光景だけがあってカットが変わって雨の麻布が出てくる。
「夕ぐれの雨
や 麻布の雨蛙」とすると、夕ぐれの雨が先に降っていて、カットが変わって麻布らしい光景が出る。
「夕ぐれの雨の麻布
や 雨蛙」とすると、麻布という地名が強調されて、雨蛙が出てくる。
カットをどこで切るか?たった1音ですが、とても大事なところ。
作者の好きなところに「切れ」を入れてみてください。
[ここがポイント]切れ字「や」で意図を鮮明に
※詠嘆の切れ字「や」を入れる場所を変えることで、強調したい光景をより鮮明に描き出すことができます。どこに入れればその思いに近づくのかを考えましょう。
添削後
「
夕ぐれの 雨の麻布の 雨蛙」
※3か所の「の」はいずれか1か所を切れ字「や」に変えても良い。
◆4位
凡人55点 藤真利子
「
赤信号 驟雨(しゅうう)にまぎれ 奪ふ唇」
【本人談】「驟雨」とは夕立やにわか雨を表す夏の季語。
赤信号になって、傘がなくて立ち止まったこれから恋が始まりそうな2人が、雨の力を借りて男性が女性に初めてキスをするという感動的な場面を詠んだ。
千賀下五が字余りなのが良くない。上五の字余りはいいが、そこの基本がなってないのが凡人。
夏井先生「驟雨」という季語をよく見つけた。
もったいないのは2つ。「まぎれ」が説明。映像の言葉ではない。
千賀の指摘した「下五」が7音の字余り。これではロマンチックな場面と言うよりドタバタコメディーの韻律。
思い描いた場面に寄せる。「まぎれ」なきゃいい。唇のアップから始める。
「唇を奪ふ」として、激しくザーと「驟雨の赤信号」とすればいい。
説明しなくても映像は立ち上がる。持っている素質は悪くない。
俳句のちょっとしたコツを勉強をするとすぐ上に行く可能性がある。
[ここがポイント]説明をしない
※「まぎれ」のような説明の言葉は不要。「唇を奪ふ驟雨」とあれば光景は思い浮かびます。単なる説明になっていないかよく吟味しましょう。
添削後
「
唇を 奪ふ驟雨の 赤信号」
◆最下位
才能ナシ30点 柳ゆり菜
「
五月雨や 見慣れた帰路が 別世界」
【本人談】雨に濡れてアスファルトだったり、傘をさしている人波で全然違う世界に見える。
「別世界」が美しく見えるか憂鬱に見えるかは読み手に託して想像を膨らませようと思って詠んだ。
千賀それが違う。考え方がそもそも違う。「別世界」が何なのかが知りたい。
これを句にしないと「あなたは何のために俳句をやってるのか?」と言われますよ。
夏井先生諸悪の根源は何か?それが「別世界」。
「別世界」という言葉で何かを表現できた、伝えることができたと、こんな安易なやり方で「伝えた」と思っていることがアウト。
「見慣れた帰路」が読んだ人には何の映像か掴みどころがない。
「見慣れた帰路」が違う世界ということは、逆説で言えばよい。
「見慣れぬもののように帰路」とすれば、「帰路」だけが映像になる。
読み手は自分の帰路に当てはめてささやかながら勝手に映像を探し出してくれる。
添削後
「
五月雨や 見慣れぬものの ように帰路」
★特待生昇格試験★◆「
白線や 蟾(ひき)へばりつく 雨後の夜」
中田喜子【本人談】「蟾(ひき)」はヒキガエルのことで夏の季語。
車線に雨上がりの夜にヒキガエルがジッとして動かないのを見た体験を句にした。
夏井先生この句の評価のポイントは「へばりつく」の是非です。
■査定結果1級で
現状維持理由:詰めが甘い
夏井先生詰めが甘い。これは詰めが甘い。
この型はさっきの1位の句の型と同じ。
頭に季語ではない名詞に「や」で切る。季語「蟾」を入れた12音のフレーズ。
1位の句もできていたが、やっぱり特待生の方が凄い。なぜなら入っている情報量が全然違う。
「白線」「蟾」、「雨後」「夜」という時間情報。これだけの情報を入れて一句が破綻していないのは実力がある証拠。
何がもったいないかと「へばりつく」。「へばりつく」の辞書的な意味は、「ぴったりくっつく」「べったりはりつく」のどちらかの感触。
「白線」が「白壁」なら違和感はない。垂直なところに落ちないでくっついているのは、ぴったりくっついているということ。
「白線」は平面、水平なところ。「へばりついている」というのはどういうことか。「べったりはりついている」。
車に轢かれたのか?読み手はそこまで考えてしまう。これがもったいない。
何を言いたかったか。この蟾は「動かないでいる」。それを書けばいい。
ただ「動かない」というとイメージに合わなかったのかもしれない。こんな日本語がある。「みじろがない」。
「みじろがぬ」とすれば、だれも「車に轢かれた死体」がべったりはりついていると読む人は一人もいなくなる。
これをやってくれたら今日は間違いなく名人でした。
添削後
「
白線や 蟾みじろがぬ 雨後の夜」
◆「
出水深し 街路をのぼる 青き魚(うお)」
千賀健永(Kis-My-Ft2)【本人談】大雨が降って川の水が溢れ出てしまった。川のちょっと濁った茶色い水に青い魚が出てきて街路を泳いでいる。
「青き魚」は鯖(サバ)のこと。
中田 !!
浜田 「青き魚」とは鯖のこと?
本人 鯖のことなんです。「青き魚」。鯖のことを詠みました。
豊崎アナ・浜田 川っていうのは?
本人 梅雨じゃないですか。大雨が降って。この写真とは違う光景を詠んでいる。
浜田 あ~。発想を飛ばしてね。はいはい、わかりました。
夏井先生この句の評価のポイントは「青き魚」の是非です。
■査定結果1級で
現状維持理由:中途半端
夏井先生中途半端の極み。「青き魚」とは幻想の世界。
今、話聞くと現実を描こうとしている。
あなたの中で「幻想」「現実」のどちらを描きたいのかグチャグチャになってるから、中途半端なものになって表れる。
何その顔?聞いてる?
しかもあなた鯖と言いましたね。魚類として無理がある。鯖は結構沖を回遊している。
河口のあたりで出水とか出て、河口で水が動いた時に鰡(ぼら)あたりなら跳ねるかもしれない。
とてつもない出水という意味で「大出水」という季語にする。「街路」でカットを切る。のぼらなくてよい。
この後、あなたが語った光景。濁った水の中を魚が跳ぶんだよね。鯖ではない奴がね。
「濁水」と書いて「跳ねる」として2音余る。魚の種類を限定して「鰡」とする。
鰡なら跳ねてるかもしれない。
本人 それは鯖じゃダメなんですね。
夏井先生 あきらめの悪い男だね~。
本人 メッチャ恥ずかしい。
添削後
「
大出水の 街路濁水 跳ねる鰡(ぼら)」
編集後記通常挑戦者で1位の句は面白い型でしたね。本人は意識してやってないため偶然うまくいった感じですが、バランスが整っています。ちなみに、73点という得点は千原ジュニアの「750cc(ナナハン)の タンクにしがみつく 寒夜」以来の高得点です。
3位の句の添削では切れ字「や」の使い方についてでしたが、個人的には3番目の「や」が好みです。夏井先生の添削も冴えわたっていて毎回勉強になります。
特待生はどちらも名人目前ということで、厳しい査定になることはわかっていましたが、中田さんは惜しかったですね。読む人に勘違いされない客観視をもう少し磨く必要がありそうですが、実力は安定しています。
一方の千賀さんは、正直何が言いたいのか本人にもブレがあって、浜田さんから厳しいツッコミがありましたね。夏井先生の話も理解していないようで、現状維持査定は少し甘いかなとも感じました。
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