2020年11月5日放送 プレバト!! 俳句金秋戦予選C・Dブロック結果まとめ
年4回の改変期に選ばれし名人・特待生のみが参加を許される俳句タイトル戦。
秋の季節に行われる第4回
金秋戦予選C・Dブロックで名人・特待生の面々が詠んだ俳句を紹介します。
◎は夏井先生講評の要約です。
→結果一覧 →トーク集 →俳句詳細(Cブロック) →俳句詳細(Dブロック) →敗者復活者発表 →編集後記⇒予選A・Bブロック記事
⇒決勝戦記事※過去のタイトル戦結果などは
こちらまたはブログカテゴリからどうぞ。
挑戦者:
Cブロック→<名人10段★3>村上健志(フルーツポンチ)[50],<名人2段>千賀健永(Kis-My-Ft2)[40],<4級>馬場典子[15],<5級>春風亭昇吉[4]
Dブロック→<名人5段>中田喜子[42],<名人初段>ミッツ・マングローブ[31],<4級>河合郁人(A.B.C-Z)[16],<4級>筒井真理子[9] ※数字は挑戦回数見届け人:梅沢永世名人、ジュニア名人・岩永徹也(補欠)◇金秋戦2020のルール(※前回の炎帝戦を踏襲した形) 【予選】 ・ABCDの4ブロック制で、各ブロック4名が参加 ・ブロック分けは段位を考慮した上、玉巻アナが事前にくじ引きを行い決定 ・兼題はAB・CDの2ブロック単位で共通 ・各ブロック上位1名が決勝進出 ・各ブロック2位は補欠となり、4名中最も良い1名が決勝進出(敗者復活) 【決勝】 ・前回上位4名がシードで参加 ・決勝はシード4名(永世名人含む)、予選通過5名の合計9名 |
●お題:ポンプのノズル
※各ブロック1位が無条件で決勝進出、2位は補欠※順位クリックでリンク内移動します。
◆予選Cブロック |
1位 | 千賀健永(Kis-My-Ft2) | 名人2段 | 夏の海を描くスプレーの秋思 | なつのうみをえがくすぷれーのしゅうし |
2位 | 村上健志(フルーツポンチ) | 名人10段★3 | 秋麗チョコスプレーの淡き影 | あきうららちょこすぷれーのあわきかげ |
3位 | 馬場典子 | 4級 | 空ボトルノズルは律の調かな | からぼとるのずるはりちのしらべかな |
4位 | 春風亭昇吉 | 5級 | コロナ禍のハンドジェルにも深む秋 | ころなかのはんどじぇるにもふかむあき |
◆予選Dブロック |
1位 | 中田喜子 | 名人5段 | 泡ポンプの英知秋天を仰ぐ | あわぽんぷのえいちしゅうてんをあおぐ |
2位 | 筒井真理子 | 4級 | 玻璃越しの稲妻湯の中の乳房 | はりごしのいなづまゆのなかのちぶさ |
3位 | ミッツ・マングローブ | 名人初段 | 飴貰うごと狭霧に手広げし子 | あめもらうごとさぎりにてひろげしこ |
4位 | 河合郁人(A.B.C-Z) | 4級 | 秋風の終電マイバッグの梨 | しゅうふうのしゅうでんまいばっぐのなし |
順位発表順 Cブロック:3位→2位→最下位→1位、Dブロック:最下位→2位→3位→1位■トーク集(クリックで展開)
梅沢永世名人 今回は優勝しますよ。いや、しなきゃいけない。ねじ伏せてやりますよ。
村上名人 だいぶ俺は図抜けてると思いますね。
中田名人 いや~、久しぶりに予選からなんですね~。前回シード権獲れなかったので、ま~ドキドキしてます。***私ね、自分自身が許せない。もし落ちたら(敗退したら)。いきます。絶対行きますよ。
浜田 ジュニアさんはこのCブロック、どう思われますか?
ジュニア名人 これはホントにぶっちゃけて村上が群抜いて1位で行ってもらいたい。変にごちゃついて村上が2位(=補欠)とかに来たら…。
岩永 あ、確かに…。
一同 (笑)
***
→名人10段・村上健志は前回5位で惜しくもシード権を逃した。
村上名人 いや、まあ今回パッと(メンバーを)見たら、ぶっちぎりで段位高いじゃん(笑)。ビックリして僕も…「え~!」っと思って。
浜田 10段ってやっぱりそれくらいな感じですか?
村上名人 10段って世界に4人(→梅沢・東国原・村上・藤本)しかいないんです(笑)
ジュニア名人 いけよ、マジで。しょーもないことすなよ~、お前(笑)。なぁ。
村上名人 いや全…、いけ…。今回お題ちょっとね~、意地悪な感じですよ。
***
→5級・春風亭昇吉はわずか2回の査定で特待生に昇格。前回炎帝戦は初挑戦ながら予選2位だった。
浜田 そうなんですよ。彼、なかなかやるんですよ。
昇吉 決勝に(シード権の)志らく師匠と円楽師匠がいるじゃないですか。今回これ突破してあの2人を倒したいです。
梅沢永世名人 昇吉君は望みが低すぎる。決勝に上がって師匠2人を倒したいと。あの2人は何の役にも立ちませんから(笑)。大丈夫ですよ、「俺を倒したい。世界の梅沢を倒したい」。その台詞が出ないうちはまだ上がるのは早い。
***
→名人2段・千賀健永は2017年の冬の王者。前回も予選を突破している。
千賀名人 この間、石川遼くんとたまたまご飯をさせていただく機会があって、凄く仲良くなったんですけど、遼君が「プレバト!!」のファンで、観てるらしくって、それで僕を観てて「千賀君のファンです、大好きです」(と応援してくれている)。だから、石川遼くんのためにも今回はホームランというか、ホールインワンをしたいなと思っておりますんで。
一同 …。
浜田 ジュニアさん、今の何なんすか。
ジュニア名人 パッと(→ゴルフのパットと掛けて)しないということですね(笑)。
浜田 上手いこと返してくれたよ。
千賀名人 助けていただきましたね。
***
浜田 これはでも予選敗退2人いますから3位くらいから開けときますか。
ジュニア名人 かわいそうに。かわいそうに。
▼予選敗退3位は馬場典子
浜田 まあ馬場ちゃん3位。
馬場:ねぇ。
***
浜田 これはもう2位開けましょう。
千賀名人 いや~、見たくないなあ。
ジュニア名人 どんなの?
村上名人 可能性はあんのか、2位は…。
▼補欠2位はフルポン村上健志
村上名人 えっ!?
ジュニア名人 もういらんことすんなよ!(笑) それをやめろ言うてんねん!
村上名人 いや俺狙って2位なんか…。
ジュニア名人 それを言うてるんですよ。
梅沢永世名人 何した?
浜田 何をしてんの?
村上名人 これね、じゃあ1位が相当良いです。
浜田 いやいや、同じこと言うてる。
梅沢永世名人 これはビックリ。
浜田 「村上!」って言うた時に、中田さんがすごい顔したもん(笑)。
梅沢永世名人 するわ~、それはね。
ジュニア名人 いらんことすなや、お前~。
村上名人 マジで凄い良いと思いますよ、1位が。
浜田 それジュニアも言うたもんな。
村上名人 (1位席を向き)これはもう立派!(拍手の仕草)
浜田 腹立つわ~。
***
→残るは千賀名人と昇吉の2名
千賀名人 いや、でも僕発想をいつもより挑戦させてもらったんですよ。色々技術は入れてるんで、もしかしたらこれイケるのかも。
ジュニア名人 村上倒してってのはどっちにしても凄いと思います。
浜田 あ~そうね。確かにそうやわ。
▼予選通過1位はキスマイ千賀、予選敗退最下位は春風亭昇吉
→発表と同時に「ホールインワン~!」と叫びながら左手を1のポーズで掲げる千賀名人
千賀名人 よ~し!おいしょ!
昇吉 え!?
浜田 いや~、昇吉もええ感じなやんけどな~、いつも。どうした?
昇吉 すみません。
浜田 うるさいくらい叫んだな、千賀。
千賀名人 すみません。嬉しすぎて。
***
梅沢永世名人 さすがはタイトルホルダー。ねっ。
浜田 名人2段が10段抜いたんです。
千賀名人 めっちゃ嬉しい。
浜田 村上の(梅干しのような不満気な)顔(笑)。
→名人5段・中田喜子は女性最高段位。前回はシード権を獲得できなかった。
中田名人 今回は何が何でも1位を獲らなければと思って、小学生の10歳の子が私の折り紙を折ってくれたので、お守りで持ってきました(おもむろに着物から折り紙2つを取り出す)。ありがとうございます~。
河合 可愛い。
浜田 何なん、梅沢さんもなんかそんな持って…小学生が。
梅沢永世名人 もう。
浜田 年寄りはそんなん好きなんですか?
中田名人 年寄り?
浜田 すみません、すみません。これで1位なればという。
中田名人 どうか1位に。
***
→名人初段・ミッツマングローブは名人として初のタイトル戦。決勝に行けないことが多く苦戦している。
ミッツ名人 ようやく先日名人になれましたし。
玉巻アナ 炎帝戦では惜しくも予選敗退だったんですが、実は決勝戦用に書いていた幻の作品を夏井先生が絶賛でして、決勝に進んでいたら優勝していたかもしれない一句だったと。
ミッツ名人 結構、そういうのが多いんですよ。
浜田 ねえそういうのあるから~。
***
→4級・河合郁人はタイトル戦2度目。前回は予選最下位に終わった。
浜田 河合はどうなんかな?
河合 努力して努力してここまで来れてる。今回は絶対に良い結果を出したい。
浜田 あ、そう。
***
→4級・筒井真理子はタイトル戦初挑戦。前回は「たまご」の兼題で見事に昇格。俳句のクオリティは常に安定し、夏井先生も一目置く才能を発揮したと紹介。
浜田 確かに、どうですか。普段の感じで行けば…。
筒井 中田さんもミッツさんもいらっしゃるし、皆さんいらっしゃるんで、ちょっと攻めた句を詠んでみました。
浜田 それがどっちに…。
筒井 どっちにいくかドキドキなんですけど(笑)。
***
梅沢永世名人 Dブロックはこれは中田さんでしょう。
浜田 そうですか。
梅沢永世名人 ここで敗退・番狂わせは無いような気がするな。
浜田 村上というあのさっきのパターンも。
梅沢永世名人 いや、これは無いような気もしますけど…。
浜田 ちなみにCブロックの1位千賀君どう思われますか?
千賀名人 中田さん、ミッツさんなのかなとは思いますけど、2位くらいで河合君来てほしいなと思います。
浜田 あら。
千賀名人 1位は分かんないけど、2位で食い込んで敗者復活で本戦に出場。
浜田 え~と、さっきから村上さんは一言もしゃべりません(笑)。
村上名人 ちょっと千賀君が「2位になったら」って言ってたけど、2位に俺いるから。無理じゃんと思って(笑)。
***
浜田 ねえ~、いつものパターンやからね~。最下位。
中田名人 えっ?
岩永 最下位から?
河合 えへへっ。
ジュニア名人 可愛そうやな。
▼予選敗退最下位はA.B.C-Z河合
河合 あっ…。
浜田 違う違う、ちょっと待って。中田さんが小っちゃい声で(順位発表寸前に)「やめてやめて」って、それやめて下さい。めっちゃおもろいんですよ(笑)。河合、最下位でございました。
河合 マジか~。まだ駄目か。ヤバいな、全然成長してないな~。
浜田 ま~でも見てさ、こちらの方々(名人ら)がどう言うか、どう直されるか。
河合 感想聞かせていただきたいです。
***
浜田 う~ん、2位。
梅沢永世名人 それはいいんじゃない、2位にくれば。
ジュニア名人 誰がくんの?
梅沢永世名人 まさか。
▼補欠2位は筒井真理子
浜田 ほらやっぱり来るでしょ。
筒井 喜んでいいのか、悲しんでいいのか。
梅沢永世名人 いやいやいやいや。
筒井 さっきからゼンマイ仕掛けみたいに…。
浜田 補欠2位に入りましたよ。可能性を持って。
***
ミッツ名人 あ~、もう駄目だ駄目だ。
梅沢永世名人 まさか。
ミッツ名人 今日中田さんがずっと褒め殺ししてくるのよ(笑)。「ミッツさんが~」とか言うから。
中田名人 こないだの句はホントに素晴らしかったので。
ミッツ名人 それでさ~ってツッツッツと(1位に)行くわけでしょ(笑)。
中田名人 いやいや、ホントにミッツさん凄いなと思って。
浜田 どっちが(1位)なっても分かりません。おかしくないですからね。
▼予選通過1位は中田喜子、予選敗退3位はミッツ・マングローブ
中田名人 (立ち上がって)ああ~!嬉しい!
ミッツ名人 ほら~もう。
浜田 ははははっ。
ジュニア名人 1位でもその顔するんすね~(笑)。
ミッツ名人 ふふふっ。
中田名人 いや、嬉しい。
ミッツ名人 気を持たせるから~、女優が~もう。
***
中田名人 ありがとう。嬉しい!フフッ。
浜田 ジュニア言った通り、1位になってもあの(驚いた)顔するんや(笑)。
梅沢永世名人 するんですね。
中田名人 ダメだと思ったもんですから。
浜田 そうなんですか?
◆それでは順位別に見ていきます◆予選Cブロック
1位
◆『夏の海を描く スプレーの秋思』 千賀健永(Kis-My-Ft2)◎
作者を知って感動を覚えた。9音+8音で合計17音という破調。「夏の海」から始まるため、これが季語だと誰もが思うが、「描く」で虚の季語だと初めて分かる。水彩画か油絵かと思うと「スプレー」で、大きな画面を思い、壁面画やシャッターアートかと思わせる。最後の着地が良く、「スプレーの秋思」は擬人化をした。「秋思」はセンチメンタルになり、感情が崩れやすい。名詞止もピシッと止めようと工夫した。破調・季重なり・擬人化・名詞止めと全部意図を持ってやっている。本物になりつつある。ジュニア名人 すげぇ。
中田名人 はぁ~、凄い。
【本人談】絵を良く描く。「夏の海を描く」は夏が爽やかでスカッとした感じのイメージ・映像。「スプレー」はアクリル用のスプレーで、Kis-My-Ft2の初めての絵の仕事でスプレーの絵を描かせてもらったこともある。「スプレー」は描いた時に小さいアクリルの粒が出る。それが乗っからないと空気に溶けてなくなっていく。その光景が良いなと思い、似合う季語を探して「秋思」。敢えて破調にし、漂っているような終わりがない感じを出したいと思い「秋思」を使った。
梅沢永世名人 素晴らしいですね。大したもんだ。
本人 ありがとうございます。
梅沢永世名人 夏から始まって海の絵を描いてたんだよね。それから、どんどん秋思に持っていくとこなんかは、さすがはタイトルホルダー。大したもんだ。
本人 ありがとうございます。
梅沢永世名人 これはもう村上君も「恐れ入りました」と…。
浜田 ちなみにどうですか?
村上名人 これは
確かにカッコイイです。シンプルに俳句がカッコ良いし、最近ようみんな破調…フフッ、やりたがるじゃないですか。(笑)
浜田 何でそこで「フフッ」とか言うわけ?
村上名人 破調の方が俳句の高等技術みたいに思っている人がいる(フフ)。
浜田 笑うな!
村上名人 けど、この破調は言ったように
見事に内容と合っている。
夏井先生 これが千賀さんだという事実に、ささやかな感動を覚えている。
「
夏の海を描く/スプレーの秋思」と9音+8音で合計17音という破調。
「夏の海」から始まるため、これが季語だと誰もが思う。
「描く」で本当の季語ではなく、虚(架空)の季語だと初めて分かる。
水彩画か油絵かと思うと「
スプレー」で、スプレー画のような
大きな画面をみんな思う。壁面画やシャッターアートかとちゃんと思わせる。
最後の着地が良い。「スプレーの秋思」は擬人化。「
秋思」の季語はセンチメンタルになり、感情がぐずぐずって崩れてしまう。
名詞止もピシッと止めようと工夫した?
本人 そうです。ピシッと止めて、切ない感じを出そうとした。
夏井先生 ちゃんと分かってる。
破調・季重なり・擬人化・名詞止めにすると。全部意図を持ってやっている。
浜田 ホンマか、お前?(笑) 今、先生が全部先生が言ったことホンマに全部わかってやったんか?
本人 ホンマです。
浜田 は~、そら素晴らしいわ。
夏井先生 直しは勿論いらない。本物になりつつあるじゃないか。
本人 ありがとうございます。
浜田 はぁ~?
添削なし
季語を2つ使い、アクリル用スプレーを擬人化して作者の想いを季語に託した一句です。光景描写が得意な千賀さんならでの発想で、擬人化した上での季語に被せる展開は正直言うと陳腐にもなりやすいのですが、破調の調べに乗せて名詞止めの余韻を残すことで意図が際立ち、うまい具合に成功しました。「描く」は「かく」とも読めますが、「夏の海を描くスプレー」まで勢いよく読み切り、その「秋思」にスプレーのみならず絵を描いた作者の達成感や秋になった寂寥感というような心情や時間経過の概念もキッチリ季重なりの効果で発揮されました。恐らくは青系のスプレーを使い切ってしまったことにインスピレーションを感じ取って生まれた一句。感覚で詠んでいる印象はありますが、褒めるしかない一句です。
2位◆『秋麗 チョコスプレーの 淡き影』 村上健志(フルーツポンチ)◎
兼題写真から「チョコスプレー」にいく。発想を企みながら他人が絶対に書かないことを書くのはさすが名人。秋の麗らかさに小さなチョコレスプレーに淡い影があるという気付きが良く、まさに俳句は発見だと思う。助詞「の」の展開で、(吹きかけられた)チョコスプレーの淡い影があったとまさに映像であり、十二分に成立した。しかし、違うかもしれないと疑ったのが「の」。こんな小さな影に気付くことのできる自分に少し嬉しくなったと本人は語り、そこが言いたいなら助詞は「に」にすべき。【本人談】「チョコスプレー」はカラフルなチョコの粒々で、ドーナツやチョコバナナの上に掛かっているもの。良い天気の日だとドーナツの影は下にできる。しかし、そこにはチョコスプレーの影は出ない。チョコスプレーは物体で絶対に影がある。ドーナツを見たら「あら?ここにちょっとだけチョコスプレーの影があるぞ」と気付ける麗らかさって、何か良くないですか?
一同 ………。
本人 せんせ~い!(笑)
ジュニア名人 おい!セルフで行くな!(笑)
本人 (進行が)俺だったっけ?と思っちゃって。
梅沢永世名人 失敗でしょうね。助詞が悪い。
本人 どこがですか?
梅沢永世名人 チョコスプレー「の」。「の」が悪い。「に」にすれば良かった。
夏井先生 (嬉しそうに拍手する)
本人 ま~、ある。あ~でも俺は…。
梅沢永世名人 お前そういう根性だから。2位なのよ。世界の梅沢に対して何なの!
本人 梅沢さん、別に前回も1位になってない…。
梅沢永世名人 何その言い方!(笑) じゃあ先生に聞いてもらいましょうよ、どっちが正しいんだか。
夏井先生 兼題写真から普通のスプレーもあるのに「チョコスプレー」にいく。
これは発想を企みながら他の人が絶対に書かないものを書こうとする。
これはさすが顔が分かって名人だなというのは思う。
秋の麗らかさに小さなチョコレスプレーに淡い影があるというこの気付きが良い。まさに俳句は発見だと。
作者の話を聞いての判断に思った点が「
の」。おっちゃん偉い、これはホントに偉い。
「
チョコスプレーの影」の展開で映像化され、(吹きかけられた)
チョコスプレーの淡い・濃い・小さい・大きい影と色々あるが、淡い影だったとまさに映像。これで十二分に成立している。
しかし、ひょっとしたら違うかもしれないと疑ったのが「
の」。
こんな小さな影に気付くことのできる自分に少し嬉しくなったと本人は語った。
そこが言いたいなら助詞は「
に」。
ジュニア名人 言いましたね、確かに。
本人 でも違うんです。それは思いであって着地点は「の」です、僕の。
夏井先生 うん、お疲れ(笑)。
本人 お疲れさまでした。
添削後
『秋麗 チョコスプレーに 淡き影』
二分竹の棒ビーズのような形状をしたトッピング用菓子「チョコスプレー」に発想し、その影の発見を描いた一句です。発想は見事で、ドーナツやアイスなどに振りかけて食べるのが一般的なチョコスプレー。コメントも頂きましたが、助詞「の」か「に」かは重要な点。個人的なポイントは「淡き」の形容詞で、影がどこにあるのかが読み解きの大切な部分。私は地面に映るドーナツに凹凸にまぶしたチョコスプレーの影が淡く映っていると読みました。「淡し」とピンボケした描写は物体とやや距離がないと表しにくいため、ドーナツにまぶした立体的なチョコスプレー”に”チョコスプレー“の”影が淡く映っているとは読みにくいのです。発見した喜びを表現するなら「に」にすべきと指摘され、反論を交えて渋々納得する本人でしたが、仮に下五が「影淡し」なら助詞は「の」しかありえない展開に。何に着目して表現するか、その精度の弱さに屈した10段。不遇としか言いようがありません。【追記】
「淡き影」の解釈に関して、最初は影の"輪郭"がはっきりせずに淡いため、地面に映ったドーナツやら何かの描写だと解釈していましたが、ご本人の説明を聞くと「ドーナツに」とはっきりおっしゃっているため、「淡き影」はチョコスプレーの影の"色"が原色系ではなく淡い色で、それがドーナツのチョコスプレーのパステルカラーの色と相まって、凹凸の影として現れている描写なのだと再考させられました。後者の場合は、添削の通り「に」でないと伝わらないと思いました。
3位◆『空ボトル ノズルは律の調かな』 馬場典子◎
「律の調」と難しい季語に目を付けた。この音をノズルから聞き留めるのは俳人の耳で、そこが良い。問題は語順で、「空ボトル」から始まると、読む人は空の容器を思い浮かべてしまい、ノズルの音は何かと考え直してしまう。読む人に分かるように伝えるべきで、中身の液体が切れかかっている状況を「液切れの」と書けば、音と手の感触は伝わる。さらに、音に気付いた作者の発見を強く押し出しても良く、「あり」と偉そうに言っても良く、作者の共感が一歩前に出る。梅沢永世名人 ん~。
【本人談】ボトルの中身は気付くと無くなっていることがあって、押した時にスコスコと間抜けな音がする。自分はいつもの調子で押しているが、少しもの悲しい感じがある。季語「律(りち)の調(しらべ)」は秋の趣・音の調子を表すため、引っかけてみた。
梅沢永世名人 「空ボトル」が失敗だったかな。そう言うなら。
少し残ってるんですよね?「パシッ、パキッ」と音がするくらいだから。これは失敗だった。こんなこと言うのは何ですよ、私がいちいち偉そうに…。
浜田 ちょっと待ってください。ジュニアさん、面白い顔で(御大を)見るのやめて下さい。
夏井先生 おっちゃん偉い。ホントに。
この句で一番問題になるのは上五「空ボトル」。「律の調」とよく難しい季語に目を付けた。この音をたかかノズルから聞き留めるのは俳人の耳で、そこが良かった。
問題は語順。「空ボトル」から始まると、読む人は完全に空の容器を思い浮かべてからノズルにいく。
そこから「ノズル」と言われると、ノズルの音は何だろうかと一回考え直さないといけない。
この場合は、
読む人に分かるように伝えた方が良い。
これは
中身に何か液が入っていて、それが切れかかっているはず。その状況を書くだけ。
「
液切れのノズル」で何の液かは言わなくとも音が聞こえてきて、液が切れている手の感触も伝わる。それなりに経験があるはず。
その音に気付いているなら、
作者の発見をもう少し強く押し出しても良い。最後に「あり」と偉そうに言って良い。
多くの人には気付かなかったが、作者の耳には聞こえていると共感が一歩前に出る。
添削後
『液切れの ノズルに律の調あり』
雅楽の音階に起因する季語を用いて、空になりかけたボトルのプッシュ音を表現した一句。以前茶道の句を詠んでいた方だけに、古風に洒落ています。平調(ひょうじょう)など雅楽や琴の基本音階などを含めた「律」で俗なボトルを表現する意図は素晴らしく、「かな」の詠嘆も発見型俳句として効いていると思います。基本的には「空ボトル」では腑抜けな音しかないのが残念で、弱点をすぐに見抜いた御大も流石でした。さらに「空き瓶で小遣い五円夏の夕」と過去に詠んでいるだけに、「空き」など満たされない要素への着眼が目立つ馬場さんですが、兼題に真っ向勝負した姿勢は褒めなければいけません。
4位◆『コロナ禍の ハンドジェルにも 深む秋』 春風亭昇吉◎
「にも」が散文的(趣のない文章)であると気付くべき。「コロナ」の問題は、同じ時代を共有する読者をもっと信じて良い。ジェルを揉み込み、秋が深まってきているという意図は良いため、もっと焦点を絞るべき。語った「揉み込む」が良く。「ハンドジェル」を揉み込めば秋も揉み込んでいくかのような表現を「深みゆく」とすれば、時間経過が出る。同じ時代を生きる読者たちは同じ思いと共感する。【本人談】今年の春ごろからアルコール消毒を使うことが多くなってきた。季節が移ろい、だんだんアルコール除菌自体に年季が入ってくる。ハンドジェルを使って、手を揉み込む時に秋が深まってきたなという空気を感じる。季語が主役になっている。
本人 なんで負けたんだろう?(笑)
岩永 そうですね。
「にも」という言葉に説明している感じがあるかなと思いました。
梅沢永世名人 タイトル戦にしてはちょっと考えすぎたね。これじゃタイトル戦に残れませんよ。
今の時代だったら「ハンドジェル」と言えばコロナ(禍)だと読んでくれる。普通の回なら良いでしょう。タイトル戦ですよ。
夏井先生 本当におっちゃんは人の句はちゃんと分かる。本当に見事。
まず、
「にも」が散文的(趣のない文章)であると気付いてほしい。
次に、
「コロナ」の問題。おっちゃんの言うように、同じ時代に共有している読者をもっと信じて良い。
ジェルを揉み込んでいると、秋があっという間に深まってきているなと。描こうとした光景は良いため、もっと
焦点を絞らないといけない。語った
「揉み込む」が良い。「ハンドジェル」を揉み込めば秋も揉み込んでいくかのような表現を「深みゆく」として、時間経過が出る。同じ時代を生きる読者たちは同じ思いと共感を持ってくれる。
本人 初めて直されたんですけど、ホントありがとうございます(笑)。
添削後
『ハンドジェル 揉み込めば秋 深みゆく』
「コロナ禍」における共感性を「ハンドジェル」に込め、心理的な時候の季語を合わせた一句。「コロナ禍」に関しては、編集後記にも触れますが、その時代的な背景・時事的な物を記録する意味合いで重要で、有無の違いを考えた場合、より「深む秋」の意味合いの特別感が異なることもあり、私は書いて良いと思います(「禍」と書いた点も非常に重要です)。しかし、このご時世において辟易とする読者も多いのも事実で、さらに「ハンドジェル」と近い連想の単語があれば、消毒用と分かるので消されやすいのも分かります。「にも」の用法も安易で、かつ兼題からの発想の方向性に関しても大して飛躍していません。「揉み込む」という動作を素直に詠んでいれば少しは独自性が出せたのが残念で、先生の解説中に納得いかない態度を見せた本人でしたが、勝負のタイトル戦だからこそ違った視点の切り込み方ができないと上位は厳しいかもしれません。
◆予選Dブロック
1位◆『泡ポンプの英知 秋天を仰ぐ』 中田喜子◎
「泡ポンプ」の表現を調べた。「英知」のような抽象名詞を俳句の中に浮き上がらないように入れ込むのは難しい。開発をしている、商品の価値、研究者など全部集まって「英知」だと読み取れる。後半の納め方は実はとても難しい。秋の晴れ渡った空を「仰ぐ」で大袈裟だが、「英知」が大袈裟で抽象的な言葉のため、敢えてこの言葉を浮き上がらせないように「秋天を仰ぐ」とし、しっかり響き合わせた。際どい所をよく潜り抜けて整えた。※中田喜子の十八番(おはこ)。前半と後半の取り合わせで勝負する破調の一句。
【本人談】石鹸が泡で出てくるボトルが「泡ポンプ」。それを開発している人が「あと一歩で出来るのに、一体何が足りないんだろう?」と言って「どうか智慧を下さい」と天を仰いでいるという句。
浜田 永世名人?
梅沢永世名人 …。
浜田 永世名人?
梅沢永世名人 はい?
浜田 どうですか? え?死ぬの?
梅沢永世名人 いやいや、死にません。今、話を聞いて、
逆に深い俳句なんだな~というのを感じてしまったので、説明ができない(笑)。さすがは1位だわ~。
浜田 これ村上に聞いた方が早いんじゃないですか。
ジュニア名人 あ~そうですね。
村上名人 …「泡ポンプ」ってね、便利ですよね。
一同 …。
村上名人 せんせ~い!(笑) 先生お願いします。
ジュニア名人 セルフすな。
浜田 先生~!
夏井先生 「
泡ポンプ」と言うのだとこの句に出会って調べた。
正直言うと「
英知」のような
抽象名詞を俳句の中に浮き上がらないように入れ込むのは難しい。
「泡ポンプの英知」で
開発をしている、商品の価値、研究した人たちと全部集まって「英知」なんだと読み取れる。
そこから
後の納め方は、実はとても難しい。俗な物に「英知」と言っているため。
それを企んだ後半で、
秋の晴れ渡った空を「仰ぐ」で大袈裟な表現。「見る」「見上げる」ではない。
「英知」が大袈裟で抽象的な言葉のため、敢えてこの言葉を浮き上がらせないように「秋天を仰ぐ」と。
しっかり響き合わせた。際どい所をよく潜り抜けて整えたという一句。
これは下手に直したら崩れる。褒めましょう。
本人 ありがとうございます。
添削なし
破調の形で「泡ポンプ」に着目し、作者の動作で心情を表現した一句です。「泡ポンプ」といえば、ボディソープやハンドソープを想起しやすいですが、その仕組みは日常では中々考えたことがありません。「英知」という部分は、非常に難しい特許技術が詰まっている事実を客観的に表現したように思いましたが、擬人化して表現したと先生は捉えたようです。抽象名詞は確かにバランスが難しく、後半の季語に何を持っていくかは重要ですが、ソフトに納めた印象で、作者のポジティブな気分が表現されました。この句は着眼点として良いのですが、インパクトに弱い書き方にも思う句で他のグループであれば負けていたかもしれません。しかし、難しい兼題からの発想力に敬意を表したいと思います。
2位◆『玻璃越しの稲妻 湯の中の乳房』 筒井真理子◎
2カットの句またがり。ガラスの窓越しに稲妻が走ると、「湯」で風呂場の窓だと分かる構成が良い。「稲妻」は秋の季語で、雷光など光に重点がある。ガラス越しに雷が光り、湯の中に乳房があるという光景の描き方はとても良い。惜しいのは「中の」で、「湯」「乳房」で入浴中だと分かる。「に」だけでも「の中に」は伝わるため、余った音数で季語を立てるひと工夫を。「白き」で稲妻が光るとその白さがポッと湯の中に見える。【本人談】兼題からシャンプーやソープを思い浮かべた。「玻璃越し」はガラス越し。実家で子どもの頃はお風呂が暗かったため、稲妻が走るとビーっと分かり、その時に浴槽の湯が微量揺れたような感じがする。さっぱりと一枚の絵のように情景だけを書いて、読んでる方に想像してもらいたいと思った。
梅沢永世名人 勿体ないことをした。私は乳房は良く見てますから。(笑)
浜田 何を言うてんの?
梅沢永世名人 「中の」がいらなかったかな。これが無かったら1位だったと思いますよ。これ無駄だった。
ジュニア名人 そうか。
夏井先生 おっちゃん、本当に偉い。
「
玻璃越しの稲妻」で1カットの場面。「玻璃」はガラスで、ガラスの窓越しに稲妻が走ると。
カットが変わり「湯」で
風呂場の窓だと分かる構成も良い。
「
稲妻」は秋の季語で、同じような現象「
雷」だと夏の季語。「雷」は雷鳴の音、「稲妻」は
雷光など光を表現し、性質は分かれる。ガラス越しに雷が光り、湯の中に乳房があるという光景の描き方はとても良い。
惜しいのは「中の」で、重要なポイント。
「湯」「乳房」で浴槽の湯に入っているのは分かる。念押しするなら「
に」だけでも「の中に」は伝わる。
余った音数で
季語を立てるひと工夫ができる。「
湯に白き」で稲妻が光るとその白さがポッと湯の中に見えると。
ここまでやれたら良い感じになった。
本人 「白き」ってしてもらうと、なるほど。
浜田 いやいや。
添削後
『玻璃越しの稲妻 湯に白き乳房』
兼題からシャンプーへと発想し、入浴シーンに稲妻がある光景を句またがりで表現した一句。「玻璃」の用語から言葉遣いに手馴れている印象で、前半だけで屋内のどこかで雷鳴がある場面だと分かります。後半が女性である作者が入浴していると分かる描写で、風呂場という安心感のある場所で稲妻という恐怖感を与える対比、さらに「乳房」「稲妻」で白の色の呼応、有機的・愛情のある物質と無機質な可愛げない現象との対比も表現されました。「上中下」と方向示す名詞は基本的には使いにくく、添削もされやすい印象があり、言葉の精度をさらに上げるのが課題でしょうか。
3位◆『飴貰うごと 狭霧に手広げし子』 ミッツ・マングローブ◎
掴めない霧を掴もうとする子の手が、まさか飴を貰う手であると表現できる人は珍しく、比喩の発想は面白い。七五五だが、リズムの悪さが気になる。さらに、前半の比喩と後半の光景との「つかず離れず」が、中々思いつかない比喩のため読み解く時間が欲しい。「飴貰うごと」と上五字余りに置き、「両手」を広げれば、霧の感触を確かめる動作が分かりやすくなる。「広ぐる」で文語、「広げる」で口語の表現に。季語がゆっくりと見えてくれば比喩も効いてくる。調べをどのように内容に寄り添わせるかが大事な勝負所。【本人談】この間甥っ子と電車に乗った時、消毒スプレーを自分にやった後、甥っ子にもかけようと思ってスプレーを出したら、(コロナ禍の状況下で)何の迷いもなくスッて(甥っ子の)手が出る。まるで飴玉を貰うように。「狭霧」は霧。霧が立ち込めていても、子どもは無条件に(霧に)触ろうとする。
梅沢永世名人 私にはこういう句は書けない。何か
リズムが悪いかな。読めば読む程リズムが悪いんだよ。リズムが悪い。
本人 聞こえてますよ。
夏井先生 この発想が、作者が分かると納得する。
掴めない霧をも掴もうとする子どもの手が、まさか飴を貰う手であると表現できる人は中々いない。比喩の発想は面白い。
ただ、七五五で合計17音にはなるが、
読んだときのリズムの悪さが気になる。
さらに、前半の「飴貰うごと」の比喩と後半の光景との
「つかず離れず」が、中々思いつかない比喩のため、しっくりいくためには読み手には時間が欲しい。それを解消する小さなコツは、「飴貰うごと」を
上五字余りとして先に言う。
片手を見たかもしれないが、狭霧に「
両手」を広げるにすれば、霧の感触を確かめようとするのが分かりやすくなる。
「広ぐる」で文語、「広げる」で口語の表現になる。
季語がゆっくりと見えてくれば比喩も効いてくる。
調べをどうやって内容に寄り添わせていくか、そこがこの句の大事な勝負所だった。
添削後
『飴貰うごと 狭霧に両手 広ぐる子』
『飴貰うごと 狭霧に両手 広げる子』
アルコール消毒で手を素早く出す子どもの動作を起点に発想。飴を貰う子どもの動作を比喩として狭霧に手を広げる光景を描いた一句。ミッツさんらしい怪しい光景ではありませんが、着眼点はやはり名人としての面目を保っています。しかし、様々な光景を重ねすぎてしまい、「ごと」が「如き」か「毎に」のどちらか不明なので、読み手を混乱させやすく、本人の解説を聞くまで意味が分かりませんでした。漢字表記であれば何とかなりますが、リズムの問題は別に解消するしかありません。決勝では闇のタイトルホルダーですが、予選通過のハードルは高いですね。
4位◆『秋風の終電 マイバッグの梨』 河合郁人(A.B.C-Z)◎
季重なりは凄く難しい。兼題から「秋風の終電」の発想までは悪くはなかった。消毒で、電車の窓が開き、秋風が来るのは換気のためだと。なぜ、そこに絞らなかったのか。「梨」まで書くと一句がバラバラになる。前半と後半の一塊が別々に存在している。それぞれを2句に切り分けてやり直してきなさい。※五七五を崩し、「秋風(しゅうふう)」「梨」の季重なりに挑戦した一句。
【本人談】ポンプの時点で消毒や石鹸は想像できたため、そこから膨らませてみた。今年はマイバッグやエコバッグを皆使っている。終電の窓を開けて(コロナ禍で叫ばれている)換気の良い風が当たっている中で、先ほど買ったマイバッグに入っている梨を帰ってから贅沢のために食べる楽しみ。その時の気持ちをこめて詠んだ。
季語が重なっているのが駄目だったのかな?
梅沢永世名人 その通りだよ。
本人 ホント、すみません。
梅沢永世名人 何をしたの? タイトル戦よ。その予選よ。
予選に季語2つもつけて、よく出てこられたもんだね(笑)。まだ10年早い!(笑) 季語を2つ使って俳句を作る。それもタイトル戦よ!
浜田 分かったよ。
岩永 季語重なり(季重なり)が凄く気になりまして、千賀さんのあのカッコイイ俳句を見た後なので、どういう思いで作られたのかな?
本人 やめてくれ!(笑) 何てこと言う!
千賀名人 まあね。
本人 千賀の知らないで作ってるから!
夏井先生 季重なりは物凄く難しい。
兼題のノズルから「秋風の終電」の発想までは悪くはなかった。
消毒・電車の窓が空いている、秋風が来るのは換気のためだと。なぜ、
そこに絞らなかったのか。
そこから「梨」まで思ったため、一句がバラバラになる。
前半と後半の一塊が別々に存在している感じになった。「秋風の秋風」「マイバッグの梨」のそれぞれを2句に切り分けて
やり直し、宿題!本人 宿題!?(笑)
浜田 やり直しです。
夏井先生 やり直してきなさい。
本人 はい、わかりました。
添削されず
兼題から現代のご時世を読み取り、換気とマイバッグの双方の発想を詰め込んで大失敗した一句。季語を2つ入れた意図は、タイトル戦だけに居切ってしまったのが見え見えの仕方ない失敗で、2つの光景に関連性が見えません。換気のためバスや電車は換気で窓を開けている世の中という発想の点は良いですが、「終電」「秋風」の言葉の選び方に安易さがあります(音数の問題で選んだ可能性が高いです)。さらに、後半の「梨」もマイバッグに刺繍されている梨なのかもしれないと思いました(季語の強弱を考えて)。御大から「10年早い」の厳しい評価に加え、先生からも滅多打ちになったのは気の毒でしたが、タイトル戦初の「添削されず」で記録され、なおかつ2句分割が宿題とされた河合さん。降格でなく良かったと前向きに受け取ってもらいたいものです。
【補欠からの決勝進出者】
●各ブロック2位の俳句
A2位 | 鍵盤図弾く兄の背や秋の暮 | 千原ジュニア |
B2位 | 色のなき風やボカロのラブソング | 岩永徹也 |
C2位 | 秋麗チョコスプレーの淡き影 | 村上健志 |
D2位 | 玻璃越しの稲妻湯の中の乳房 | 筒井真理子 |
ジュニア名人 は~。ん~、ふふふっ。どれ~?(笑)
岩永 皆さん凄いですけど、この4つの中で僕の句だけ直しが無かったんですよ。なので、そこを先生が言ってくれないかなと期待はしています。
ジュニア名人 ホンマや。
梅沢永世名人 そうだな。
村上名人 僕は直しと言うか、言ってたことを表現したいならこっちだよというアレだったんですけど、…これもう1回プレゼン、これ先生気付いていると思うけど、これ見て下さい。字面。「淡」に点々いっぱいあるじゃないですか。チョコスプレーっぽくないですか?
一同 ん?
村上名人 チョコスプレーっぽいギミックが入ってるんですよ、映像として。
一同 …。
村上名人 先生、お願いします(笑)。
筒井 そうですね、出した時は自信があったんですけど、並んでみると直しが無かった岩永さんもいらっしゃいますし、ドキドキです。
浜田 千賀さん、パッと見てどう思われますか?
千賀名人 それぞれ凄い良い句だな~と。
浜田 そりゃ、悪い句はないと思いますけど。
千賀名人 村上さんは無いかな(笑)。
村上名人 え!?やめてって。お願いお願いそんな…。
昇吉 「玻璃越し」が一番物語があって素敵かなと。
村上名人 決勝行って戦えるの俺ですよ、一番絶対。
◆補欠となった4名からAブロック2位となった
千原ジュニア名人の決勝進出を発表。
先生が迷ったのは、村上名人の句で、どちらも一字を「に」に直されただけ。
鍵盤図弾く兄の背や秋の暮(千原ジュニア) | 「や」は強いが、作者の押し出したい意図であった。 |
秋麗チョコスプレーの淡き影(村上健志) | 「の」は1つの映像になったが、この句の良い点は他人が気付かない発見。「に」は自分のために使うべきだった。 |
ジュニア名人 (立ち上がって)お~!よっしゃ、よっしゃ。せいじ~!(笑)
夏井先生 私の中で迷ったのが2句あった。
「鍵盤図」と「チョコスプレー」。どっちも「に」に直しただけだった。
「鍵盤図」は「背や」の「や」が強いと思ったが、まさに作者が想いを押し出したい意図の「や」であった。
「チョコスプレー」は原句「の」でも映像になってはいる。この句のいい所は、他の人が気付かない「影に」気付いた発見がこの句の最も良い所だと思った。
村上名人 先生のおっしゃること、マジですげー当たってるんですけど、「に」にすると僕の主観じゃないですか。「の」によって、この俳句を見て影を発見しようとする鑑賞にその「に」をあげたっていうことなんですけど。
夏井先生 でもその「に」は自分のために使う方が良かったと思う。
村上名人 すみませんでした(笑)。
夏井先生 はい。
浜田 何やねん、めっちゃ素直やん。
★次回は金秋戦決勝。兼題は「(7時過ぎの)時計⌚」です。
タイトル戦中日の予選の兼題は「ポンプのノズル」。兼題を聞いた時は灯油入れポンプかと思いましたが、コロナ禍の状況で、アルコールなどの消毒液を店の入り口などで利用する機会が多くなったことを背景に設定されたお題の印象。ボトル自体はプラスチック製のものが大半ですが、一部にステンレス製のものもありますね。ちなみに拙句は「洗面台にハンドラップや冬近し」でした(※「ハンドラップ」は理化学用品メーカー「アズワン」の商品名で、密閉性に優れた容器。消毒用ポンプが品薄となった春からエタノールを入れて使用していました)。
Cブロック上位2句はどちらも「スプレー」からの発想で、シャンプーなどの容器からの着想は馬場さん、筒井さん、中田名人と女性陣。ミッツさんは消毒用に手を出す動作という着眼の工夫がありましたが、コロナ禍関連から発想した2句は両者最下位に沈んでしまいました。
さて、「コロナ禍」と書く必要性の点に於いてはコメント欄でも議論がございました。ありがとうございます。講評にも書きましたが、私の立場として「コロナ禍」の用語を書くこと自体に問題はないと考えます。
パックンさんのボリビア札の句との比較の話がありましたが、この場合で重要なのは”読み手に共感できるか”という点ではないでしょうか。パックンさんの場合は、「ハイパーインフレ」と書かないと大方の読み手に伝わりませんが、昇吉さんの句の場合は「ハンドジェル」とあるため、「コロナ禍」と書かなくても大概の読み手に状況は伝わると先生は判断されました。しかし、数年後・数十年後において、「コロナ禍」と書かれたこの句の意味合いが過去のものとしてどのように解釈されていくかはその時にならないと分からない(「コロナ禍」の有無で意味合いが変わってしまう)のも事実であり、句の良し悪しとは別に記録的な意味合いとして書くことは大切ではないかと思います。
蛇足ですが、東国原名人の2年前の冬麗戦優勝句「凍蠅よ生産性の我にあるや」も「国会での発言」という言い回しは避けた書き方になっていますが、昇吉さんの句とは対照的に時間経過で意味合いが変容するものだと解釈しています。
ところで、「コロナ禍」と書くと痛い目がある可能性にも触れたいと思います。
最近は、松山の俳句ポスト365や新聞の投稿欄などでも「コロナ禍」関連の句の入選作を多く拝見いたしますが、「コロナ」の字を見るだけで拒絶反応を起こす読み手も少なくない側面もございます。特にこの度「コロナウイルス」で大変に苦しまれた方々もいらっしゃいますから、安易にかつ直接的にかつ語弊があるような表現で詠むべきではありません。このような題材は、第三者的視点として詠む場合が多いと思いますが、どのような立場の人から見ても納得できるような書き方で詠まないといけません。
さらに、本来「コロナ」は辞書的意味では太陽表層の高温のガス層を指す用語であり、固有名詞として使われる用法もあります(恐らく辞典は書き換わると思います)。読み手にどのように受け取られるかで想像力を働かせ、「コロナ禍」関連の句は諸刃の剣であるとわきまえた上で、今後の作句作業に励みたいと思います。
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